(2023年9月28日作成)(2024年9月12日再編集)

結論

・弊所は現在完全には解明できておりませんが、税務調査前事前自主修正申告で修正しきれず隠蔽仮装に基づく金額が残った場合に当該金額に対して重加算税が賦課されるかどうかについては、重加算税が賦課されると解されます。
・八ツ尾順一教授書籍は、重加算税の趣旨解釈から故意性が存在しない場合は重加算税を賦課すべきではないという見解も示しています。

下記で詳細を記述します。

弊所は現在完全には解明できておりませんが、税務調査前事前自主修正申告で修正しきれず隠蔽仮装に基づく金額が残った場合に当該金額に対して重加算税が賦課されるかどうかについては、重加算税が賦課されると解されます

具体例で分析してみます。

・隠ぺい仮装に基づく売上除外1,000
・調査通知後事前修正申告により売上除外のうち900を売上として計上、100は修正しきれなかった
・この場合、当該100について重加算税が賦課されると解されます。

根拠は下記となります。

・隠ぺい仮装に基づく売上除外1,000
・調査通知後事前修正申告すること、すなわちそれは当初の隠ぺい仮装を是正しようとする行為であり、もし仮に修正しきれいない部分が存在したとしても既に隠ぺい仮装がなかった状態に回復しているとする
・もし仮にそうであるならば、調査通知後事前修正申告により売上除外のうち100を売上として計上、900は修正しきれなかったとしても重加算税が賦課されないことになる。
・もし仮に当該仕組みならば公平性を欠く考えとなる。

以上が弊所の結論の根拠となります。しかし遺憾ながら、書籍に基づく根拠、法的根拠にたどり着いておらず、現段階では弊所の推測となります。

しかし、八ツ尾順一教授は、隠蔽仮装には故意性が必要で、隠蔽仮装が治癒する、という考えを述べています。

八ツ尾順一「第7版事例研究からみる重加算税の研究」清文社より、

p65-p70より、重加算税の課税要件である隠蔽・仮装に、租税をほ脱する目的ないし過少申告であることの認識(以下「故意性」という)が必要であるか否かについて、学説・判例は二つに分かれている。すなわち、①故意性を必要とする立場と、②故意性を必要としない立場である。
重加算税を「申告納税義務違反の制裁」と考えるならば、故意性は必要ということになるし、これに対して「国家の侵害された利益の回復手段」であると考えるならば、租税を免れる認識である故意性は必要ないことになる。
ところで、重加算税について、税務署長が、租税行政上の制裁として賦課することのできる要件は、納税者が所得金額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、又は仮装し、それに基づいて納税申告書を提出したことであるとされている(通法68①)。ここにいう事実の隠蔽には、例えば、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入もしくは架空経費の計上、及び棚卸資産の一部除外がこれに当たり、また、事実の仮装には、取引上他人名義の使用、売買契約書もしくは取締役会議事録の偽造、及び虚偽答弁がその典型である。そして、この認定に当たっては、行為者(納税者)の故意の立証までは要求されないと解されており、行為が客観的にみて隠蔽又は仮装と判断されれば足りるとかいされている。しかしながら、課税庁が重加算税を認定する際に、「故意の立証」が要求されていないという意味は、専ら課税庁側の立証責任の問題について述べているのであって、必ずしも、納税者の過少申告の直接の原因が、隠蔽又は仮装に基づくものでない場合までをも否定するものではない。
具体的な例を挙げて検討してみよう。甲は、期首に隠蔽・仮装に基づいて200の売上を除外したとする。しかし、期中で心を変えて、当該除外を是正しようとした。しかし、その是正の計算を誤って(単純ミス)100しか修正できなかったとする。その結果、甲の申告は100だけ過少となったケースを考えてみよう。
この事実を前提とすれば、甲は過少申告100について、過少であることの認識を有してないことになる。甲は期中で隠蔽・仮装に基づく200を是正する処理をしたのであるが、その是正の処理自体を(単純ミスに基づいて)誤っただけなのである。
上記②の故意性を必要としない考え方を採ると、この場合には、甲に対して重加算税を賦課することになる。隠蔽・仮装による200のうち是正されなかった100について、隠蔽・仮装に基づくものと考えるのである(隠蔽・仮装という行為と過少申告があったということで)。
一方、①の故意性を必要とする立場であれば、過少申告した100については、甲自身、隠蔽・仮装の認識はなく、期中の是正によって適正な申告がなされていたと考えているのであるから、重加算税は賦課されないという結論になる。重加算税を納税者に対する行政上の制裁と考えるならば、このケースでは、②の立場を採るべきである。以上の例を詳細に検討したものが、次の事例である。
事例
納税者甲は、期首に「隠蔽・仮装」を行い、売上200を除外したが、期中でその行為を反省し、それを是正しようとした。しかし、その是正する段階で単純なミスによって是正が十分できなかった。すなわち、売上100の是正しかできなかった(是正そのものの単純ミス)。したがって、結果として、100の過少申告となってしまった。
この場合、納税者甲に対して、重加算税が課されるのであろうか。上記の事例では、甲は、当該申告100について、正しい申告額であると認識し、過少申告であるという意識はないという前提である。(省略)
この条文(国税通則法68条1項)を文理解釈すれば、重加算税の課税要件は、次の2つになる。
① 過少申告加算税を課される要件を具備していること。
② 納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装することによって税額を過少計算し、納税申告書を提出していること。
そうすると、納税者甲は、①と②を満たしているので、重加算税が課されることになる。しかしながら、大阪高裁(平成9.2.25判決)が述べる「重加算税の趣旨」を考えると、必ずしも、このケースにおいて、重加算税を課することが妥当とも思わない。
すなわち、同高裁は、「国税通則法68条に規定する重加算税は、同法65条ないし67条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠蔽又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課されるものであり、これによってこのような方法による納税義務違反の発生を防止し、徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の措置である」と判示している。
重加算税が「納税義務違反の発生を防止し徴税の実を挙げようとする趣旨」で設けられているのであれば、反省して是正した納税者甲に対してことさら重加算税を課さなければならないという必要はないように思える。これらを整理すると、上記事例について、次の2つの考え方が導かれる。
① 隠蔽・仮装が残っているとする考え方(故意性は必要なし)
途中で是正しとうとしたが、是正そのものにミスがあった場合には、その是正されなかった部分については、「隠蔽・仮装」が残っていると考える。この考え方は、文理解釈と同様の結論になる。
② 隠蔽・仮装が治癒するという考え方(故意性必要)
途中で是正しとうとしたが、是正そのものにミスがあった場合には、是正しようとする行為によって、一旦、「隠蔽・仮装」は消滅し、是正による単純ミスに基づく過不足が生じたと考える。この考え方は、趣旨解釈と同様の結論になる。
最高裁(昭和62.5.8判決)は、「隠蔽・仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない.」と判示しているが、この事件は、架空名義によって株式の売買を行い、具体的な所得の発生した認識が納税者になかったという主張に対して、裁判所が判断を下したものである。その意味では、上記の事例内容とは異なる。
「故意性」については、重加算税をどのように考えるかによって結論が異なる。すなわち、重加算税を「申告納税義務違反の制裁」と考えるならば、故意性は必要(趣旨解釈)ということになるし、これに対し「国家の侵害された利益の回復手段」であると考える(又は、「隠蔽・仮装」という行為そのものを否定するという考え方)ならば、租税を免れる認識は必要ない(文理解釈)ことになる。上記の事例においては、「趣旨解釈」を採用して、重加算税は課すべきではないと考えるのが妥当である。

改めてまとめると下記となります。

・八ツ尾教授の事例は、期首で隠ぺい仮装を行い期中に心を入れ替えて修正し期末において修正しきれなかった部分についてという前提の言及です。したがって、期限内申告後から調査通知を経て調査日の前日までに事前自主修正申告するという場合と前提がやや異なります。
・しかしながら、当初存在した隠蔽仮装行為を修正しきれなかった部分はどうなるか、という点については共通していると解されます。
・八ツ尾教授の趣旨解釈を採用した、一旦すべてが治癒される考え方は、当該考えを悪用される余地が発生するため、妥当しないのではないかと解されます。趣旨解釈=故意性は必要となります。
・そうすると隠蔽仮装に故意性は不要ではないか、と解されます。

まとめ

・八ツ尾教授は隠蔽仮装に故意性は必要と考えていると解されます。
・しかし、実務においては故意性は不要でまた調査開始前に事前自主修正申告で修正しきれなかった部分は重加算税が賦課されると考えることが妥当すると解されます。