(2023年11月20日作成)

結論

・国税不服審判所ホームページにおいて「隠ぺい仮装を認めなかった事例」として掲載されている事例のうち、弊所が独自のルールで抽出し、分析したものを掲載しました。
・税務調査開始前であれば、調査日の前日までに事前に修正申告をすれば重加算税を回避することが可能なことは法的に明らかですが、開始以後においては明確ではありません。そこで裁決事例という実際の税務調査において国税不服審判所が出す判断を理解、暗記することは、実際の税務調査において有効であると考えられたため、分析して一覧にしました。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

・裁決にオリジナルのタイトル、あだ名を命名した理由は、暗記のしやすさを考慮しました。オリジナルのタイトル、あだ名の命名する理由については、こちらのページもご参考ください。

最高裁平成7年4月28日判決を見る

弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例一覧、33件

・平成23年1月25日裁決(平成23年勤務先の商品横流し販売無申告は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成23年2月23日裁決(平成23年複雑な経理による仮受金勘定売上振替失念は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年2月14日裁決(平成24年eワラント取引について夫からや法人での運用知識から知識を有しており申告済みの年もあったが無申告だった年について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年2月22日裁決(平成24年過去申告経験があり消費税法の知識を有していて無申告であっても調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年4月20日裁決(平成24年使用人決算賞与損金算入時期の期ずれについて通知日の隠匿虚偽記載等は存在しないので隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成25年9月26日裁決(平成25年請求書による経費繰上計上に納品日の隠匿虚偽記載等が存在しないので隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成25年11月13日裁決(平成25年土地建物売買仲介手数料が架空ではなく実態に即しているとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成26年10月9日裁決(平成26年輸入申告について委託通関業者任せとしていた知識不足により適正な課税価格の一部の資料しか送付しなかったことに気が付かなかったことは意図的に漏れ落とそうとしたものではないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成27年6月9日裁決(平成27年解約料を棚卸資産取得価格に含めなかったことについて隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成28年4月19日裁決(平成28年請求される側が請求書を自ら作成したが隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成29年5月29日裁決(平成29年無申告者に対する税務調査の中で売上除外が推測される試算表が発見されても隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成29年8月23日裁決(平成29年多忙による売上計上漏れ記憶違いによる申述について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成30年1月11日裁決(平成30年申告の必要性が明記されている資料を受け取ったにも関わらず無申告であっても質問応答記録書の内容だけでは隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年3月7日裁決(平成30年納税者が支払った金員を譲渡費用と解釈して積極的に計上したことについて隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年5月31日裁決(平成30年通達を解釈し寄付金とせず貸倒損失として処理について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月3日裁決(平成30年第三者が行った不正な不動産所得等確定申告については納税者の行為と同一視できないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月21日裁決(平成30年個人的な飲食代金であると認識しながら法人の損金としたとは認められないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月27日裁決(平成30年居住用財産譲渡特別控除の適用及び適用理由答弁について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成31年2月7日裁決(平成31年売上金が銀行振込から小切手払いに変更されたことに伴う売上漏れについて答述も考慮し隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成31年4月9日裁決(平成31年住民税申告書提出の事実やパソコンに資料や集計表が存在して無申告であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年7月2日裁決(令和元年経費計上の期ずれの原因である検収書の施工完了日の記載について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年11月20日裁決(令和元年山林譲渡金額1億円が無申告で一時的に調査に非協力であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年2月13日裁決(令和2年過去申告経験済みで税理士が見つからず無申告であって一度資料を捨てた旨の発言をしたとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年3月10日裁決(令和2年工事完了日とずれた納品日が記載されている請求書による経費計上について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年9月4日裁決(令和2年共同事業を途中まで行ったことに対する支払手数料の計上について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
令和3年3月24日裁決(令和3年虚偽支払調書の作成は隠ぺい仮装を認め事業無関係費用の過大計上は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和3年6月22日裁決(令和3年隠ぺい仮装行為の始期については質問応答記録書の内容を認めなかった裁決)
令和4年4月15日裁決(令和4年年金受給者(ご高齢)である請求人の一時所得未計上について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和4年7月1日裁決(令和4年無申告で資料を破棄した旨の申述をしても通帳等その他資料は存在しており隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和5年1月27日裁決(令和5年無申告で販売取引においてプロフィールを偽ったとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例から見出すことができた論点

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例を分析することにより、見出すことができた論点は下記となります。

・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁がいいがかりのような隠ぺい仮装を主張する事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が隠ぺい仮装を主張したのはいいがかりとはいえない事例で隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が隠ぺい仮装を主張したのはいいがかりとはいえない事例でむしろ隠ぺい仮装が妥当するように解されたが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、重加算税賦課決定処分理由付記に不備は無いが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、意図的にプライベート家事費等の事業無関係費用を過大計上しても隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が作成した質問応答記録書や処分庁が記録した申述内容が争点の核となるような事例において処分庁の主張を認めず隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした事例が存在した
・国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、隠ぺい仮装が無ければ偽りその他不正の行為も存在しないとしてその差異を言及しなかった事例が存在した