(2023年7月12日作成)(2024年4月24日再編集)

結論

・まず驚くべきことですが、平成24年以前は、重加算税が賦課されるその理由について付記は不要でした。つまり、曖昧な、適当な、感情論のみで、税務調査官は納税者に重加算税を主張し、納税者が反論しなければ重加算税が課せられていたケースが多く存在していた可能性が高いです。
・しかし、平成25年(2013年)1月1日以降の税務調査の結果における重加算税賦課については理由の付記が必要と改正されました。ここで重加算税賦課処分の理由が明らかになる、つまり隠蔽(いんぺい)仮装の理由が明らかになるという期待が発生したと解されます。
・しかし結果としては、結局もっともらしい隠蔽(いんぺい)仮装と思しき理由が付記されるだけでありその付記された理由が本当に隠蔽(いんぺい)仮装に該当するかどうかは解釈の問題ということになりました。実際に参考となる公表裁決が存在します。
・しかしながらかつてのようなブラックボックス化された重加算税賦課処分ではなくなったところ、処分庁にとっては「理由付記は負担」であるため、「質問応答記録書」が導入されたと解されます。
・以上から、現在もなお理不尽な重加算税は存在していると解されます。

下記で詳細を記述します。

かつては不透明であった税務調査のルールですが、平成25年(2013年)1月1日以降は整備化されて、昔より極端に理不尽な税務調査は減少傾向にある、というのが弊所の見解です。

平成23年(2011年)度改正で、平成25年(2013年)1月1日以後に開始する税務調査から、調査手続の透明性及び納税者の予見可能性を高める観点などから、税務調査手続等を法律上明確化するなどされました、代表的な7項目です。
1.事前通知の原則化及び明確化(事前通知をしない場合の例示)
2.帳簿書類等の預かりに対する預り証発行及び署名押印
3.調査結果の説明と修正申告等の勧奨(教示文に署名押印)
4.更正等は5年が基準に
5.不利益処分などを行う際の処分理由の記載
6.更正等をすべきと認められない場合の通知の明確化
7.再調査の明確化

今回は、不利益処分などを行う際の処分理由の記載、を見ていきます。

平成23年(2011年)度改正前(平成25年(2013年)1月1日以後に開始する税務調査以降適用)と改正後の理由付記についての比較表

平成25年(2013年)1月1日以降の税務調査内容不服申立の可能性理由附記の必要不要
改正前税務調査の結末が増差所得や本税について修正申告無し理由の付記不要
税務調査の結末が青色申告者に対する更正有り理由の付記必要
税務調査の結末が白色申告者に対する更正有り理由の付記不要
青色申告制度がない税目、消費税、相続税の更正有り理由の付記不要
過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税賦課決定有り理由の付記不要
重加算税賦課決定有り理由の付記不要
改正後税務調査の結末が増差所得や本税について修正申告無し理由の付記不要
税務調査の結末が青色申告者に対する更正有り理由の付記必要
税務調査の結末が白色申告者に対する更正有り理由の付記必要
青色申告制度がない税目、消費税、相続税の更正有り理由の付記必要
過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税賦課決定有り理由の付記必要
重加算税賦課決定有り理由の付記必要

よく書籍やネットでは以下のような情報が散見されます。

・税務署調査官は不正を発見することに全力であるので、不正ではない単なる誤りでも重加算税と主張してくる。
・税務署調査官はまずはなんでも重加算税と主張してくる、納税者が反論しなければ重加算税が賦課される。

などです。しかし改正後の現在においては、理由付記が義務付けられたためかつてのような極端に理不尽な重加算税は減少傾向にあると解されます。

重加算税の理由付記拡充については、厳密には行政手続法の規定によるものです

税法の根拠規定

法人税法第130条第2項(青色申告書等に係る更正)
税務署長は、内国法人の提出した青色申告書又は連結確定申告書等に係る法人税の課税標準又は欠損金額若しくは連結欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない。

所得税法第155条第2項(青色申告書に係る更正)
税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正(前項第1号に規定する事由のみに基因するものを除く。)をする場合には、その更正に係る国税通則法第28条第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない。

行政手続法の根拠規定

行政手続法第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。

重加算税の理由付記制度が成立するとなった当時は「隠蔽(いんぺい)仮装行為が明らかとなる」という期待があったかもしれません

隠蔽(いんぺい)仮装行為が曖昧であるということについてはこちらのページをご参考ください。

税務調査開始後、調査中の段階で重加算税を回避する方法が曖昧、不明瞭、いくら調べてもよくわからないのはなぜか

しかし、重加算税の理由が付記される、つまり隠蔽(いんぺい)仮装の理由が付記されるということで、「隠蔽(いんぺい)仮装の定義が明らかになる!」との期待があったかもしれません。

しかし結果としては、結局もっともらしい隠蔽(いんぺい)仮装と思しき理由が付記されるだけでありその付記された理由が本当に隠蔽(いんぺい)仮装に該当するかどうかは解釈の問題ということになりました。実際に参考となる公表裁決が存在します

こちらのページをご参考ください。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、重加算税賦課決定処分における隠ぺい仮装の理由付記に不備は無いが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した

完結にまとめると下記となります。

・処分庁から重加算税賦課処分の理由が付記された通知を納税者が受け取った。
・納税者は当該通知のまず不備を主張した。そしてその内容の隠蔽(いんぺい)仮装行為と思しき行為も否定した。
・国税不服審判所は通知の不備は認めなかった。しかし、当該隠蔽(いんぺい)仮装行為と思しき行為は検討した結果、隠蔽(いんぺい)仮装行為ではなかった、と判断した。

つまり、処分庁からもっともらしい重加算税の賦課理由が付記されたとしてもその内容が正しいかでどうかは検討しないとわからない、となりました。

以上から、現在もなお理不尽な重加算税は存在していると解されます。

そうは言うものの、理由付記は税務署にとっても負担と解されます

しかしながら、反対にこのように言えると思われます。

もっともらしい理由かもしれないが、とにかく理由をひねり出すことは税務署にとっては負担である。

ということです。そこで開発されたのが「質問応答記録書」と解されます。こちらのページをご参考ください。

理由附記の拡充により登場した質問応答記録書について
税理士鴻秀明の質問応答記録書に対する批判的な意見

完結にまとめますと下記です。

・調査官は、納税者に隠蔽(いんぺい)仮装行為を自供させた証拠を残したいと考える傾向にあり、それは昔も今も変わりません。
・昔は、一筆入れる申述書など、様々な呼び名で呼ばれていたようです、当該資料を作成することの法的根拠は存在しません。
・今は、質問応答記録書に統一されましたが、当該資料を作成することの法的根拠は存在しません。

となります。

質問応答記録書に関する理不尽な調査及び重加算税は今もなお存在すると解されます。

まとめ

現行法においては、重加算税の理由は付記されますが、当該付記内容が正しいかどうかは不明、という複雑な状況となっております。