(2023年11月29日作成)

結論

・重加算税賦課要件は隠ぺい仮装の存在であり、更正期間7年・延滞税の除算期間無しの要件は偽りその他不正の行為の存在であり、その両者は明確に異なります。
・しかし、国税庁、調査官は、隠ぺい仮装=偽りその他不正の行為=不正、として同一視している恐れがあります。そしてそれを納税者が正しいと思い込んでいる恐れがあります。
・さらに、国税不服審判所は、隠ぺい仮装≒偽りその他不正の行為という認識はあるものの、裁決事例の傾向としては隠ぺい仮装=偽りその他不正の行為、としてその差異を言及しない傾向にあります。

根拠

まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。

不服申立制度や国税不服審判所や裁決要旨検索システムについて

国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。

当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例のうち弊所独自に抽出した件数の根拠20231121

以下において、導出の過程を記述いたします。

導出の過程

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、隠ぺい仮装が無ければ偽りその他不正の行為も存在しないとしてその差異を言及しなかった裁決の件数

弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、隠ぺい仮装が無ければ偽りその他不正の行為も存在しないとしてその差異を言及しなかった事例が存在した裁決の件数→5件

番外編として、弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、偽りその他不正の行為も存在しないので隠ぺい仮装は検討するまでもないとしてその差異を言及しなかった裁決の件数→1件

となりました。

弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした裁決一覧

平成29年8月23日裁決(平成29年多忙による売上計上漏れ記憶違いによる申述について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和3年6月22日裁決(令和3年隠ぺい仮装行為の始期については質問応答記録書の内容を認めなかった裁決)
令和4年7月1日裁決(令和4年無申告で資料を破棄した旨の申述をしても通帳等その他資料は存在しており隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和5年1月27日裁決(令和5年無申告で販売取引においてプロフィールを偽ったとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

上記裁決はいずれも、まず隠ぺい仮装の有無を判断し、続けて偽りその他不正の行為の有無を判断するという流れでした。そして、隠ぺい仮装が存在しないから、偽りその他不正行為も存在しない、という論拠でありその差異を細かく言及している部分は見受けられませんでした。

すなわち、上記の裁決から、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違いを見出すことは、現在できておりません。

番外編、偽りその他不正の行為が存在しないため更正期間対象外により隠ぺい仮装の争点は検討するまでもないとしてその差異を言及しなかった裁決

・平成24年2月14日裁決(平成24年eワラント取引について夫からや法人での運用知識から知識を有しており申告済みの年もあったが無申告だった年について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

当該裁決については、偽りその他不正が存在しないため更正期間対象外となり、隠ぺい仮装を検討するまでもない、とされてしまったため、その差異を研究する題材からはずれてしまったことが悔やまれます。

反対に、国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした事例が存在します

隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした事例についてはこちらを御覧ください。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした事例が存在した

改めますと、当該裁決事例については、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとしましたが、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違いを見出すには至りませんでした。

むしろ隠ぺい仮装が妥当するように解されたが隠ぺい仮装が認められなかった事例との関係

隠ぺい仮装が認められなかったが、むしろ隠ぺい仮装が妥当するのではないかと弊所が感じた事例については、こちらをごらんください。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が隠ぺい仮装を主張したのはいいがかりとはいえない事例でむしろ隠ぺい仮装が妥当するように解されたが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した

改めて上記のページで紹介した裁決を紹介しますと、

平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

として紹介しました。

・平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)←隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした
・平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)←隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした
・令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)←隠ぺい仮装が無く偽りその他不正の行為も存在しない、とした

平成27年7月1日裁決及び平成28年7月4日裁決並びに令和元年6月24日裁決は、弊所がむしろ隠ぺい仮装が妥当すると感じたが隠ぺい仮装と認めなかった事例となります。そのうち平成27年7月1日裁決及び平成28年7月4日裁決については「隠ぺい仮装はなく偽りその他不正の行為が存在する」としたため、令和元年6月24日裁決も同様かと予測しましたが、結果としては、隠ぺい仮装、偽りその他不正の行為、いずれも存在しない、という判断でした。

これらの差異については現在不明で、追究する所存です。

まとめ

隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違い、差異、されにはそれぞれの定義を見出すための追究が必要と解されます。