(2023年9月25日作成)(2023年11月10日再編集)

目次

調査開始前であれば調査通知後であっても事前に修正申告すれば重加算税が課税されないことは法律により明らかです、一方で調査開始後における重加算税賦課回避=隠ぺい、仮装を否定することですがそれがわからない

重加算税を回避する方法としては、下記の3パターンに限られます。

・税務調査通知も何も無いが、隠ぺい仮装に心当たりがあるため自主的に修正申告をして重加算税を回避する方法→法的に明らか
・隠ぺい仮装に心当たりがあり税務調査通知があったので、調査日の前日までに自主修正申告をして重加算税を回避する方法→法的に明らか
・税務調査開始後、税務調査中であっても重加算税を回避する方法→法的に不明瞭である、確たる方法は無い

となります。下記において、税務調査開始後、調査中の段階で重加算税を回避する方法が曖昧、不明瞭、いくら調べてもよくわからないのはなぜか、を考察いたします。

結論

・調査開始後における重加算税賦課回避はすなわち隠ぺい、仮装を否定すること、となります。
・しかし、現在、法人税法、所得税法、消費税法、相続税法といった税法の本法において隠ぺい、仮装については定義されていません。
・また現在、国税通則法においても、隠ぺい、仮装については定義されていません。
・さらに現在、通達においても、隠ぺい、仮装については定義されていません。
・現在唯一、隠ぺい、仮装が例示されているのは通達に近い存在である事務運営指針のみです。
・以上から、隠ぺい、仮装を分析、判断、解釈するためには事務運営指針にまず頼らざるを得ない状況になっております。
・そのため、ネット検索上において隠ぺい、仮装行為を検索すると、事務運営指針の例示についての解説ばかりを目にすることになり、結局よくわからない状態に陥ると考えられます。

以上が、「税務調査開始後、調査中の段階で重加算税を回避する方法が曖昧、不明瞭、いくら調べてもよくわからないのはなぜか」の結論となります。以下で詳細を見ていきます。

弊所が予想する「皆さんが重加算税を調べた結果」

まずは自力で重加算税とは何かを調べたい、重加算税はどのような場合に課税されるの、重加算税は回避できる方法はあるの、私って重加算税がかかるの?という場合に、皆さんがとる行動は下記でしょう。

・ネットで重加算税を調べる
・書籍で重加算税を調べる

さらにその場合の予想されうる結果を弊所が推測します。

ネットで「重加算税とは」と調べた場合に予想されうる結果

ネットで「重加算税とは」と検索し、閲覧した記事を読んだ結果頭に残る内容としては下記が予想されます。

・重加算税は税務調査において隠ぺい、仮装があった場合に課税されます、という説明。
・重加算税が課せられる具体的な隠ぺい、仮装行為とは、(税務署の事務運営指針をそのまま引用して)二重帳簿の作成、帳簿書類の改ざん、売上の除外などの場合です、という説明。
・うっかりミスではなく、意図的に、故意に、不正を行った場合に重加算税が課税されます、という説明。

上記検索閲覧結果を受けての皆さんの感想を弊所が予想します。

・隠ぺい、仮装の具体例はあるけど、私が行ったこの行為は隠ぺい、仮装に該当するの?
・うっかりミス、と意図的に、故意に、はどのように判断するの?

となるかと思われます。

ネットで「重加算税を回避する方法」と調べた場合に予想されうる結果

ネットで「重加算税を回避する」と検索し、閲覧した記事を読んだ結果頭に残る内容としては下記が予想されます。

・そもそも隠ぺい、仮装を疑われないようにきちんと会計処理しましょう、という説明。
・税務署は税務調査においてうっかりミスの場合でも重加算税を指摘するケースもあるためその場合は反論しましょう、という説明。
・税務署は税務調査において隠ぺい仮装行為について納得がいかないケースでも質問応答記録書で重加算税を課税しようとするケースがあるためその場合は質問応答記録書に署名するのはやめましょう、という説明。
・税務調査で嘘をついた場合も重加算税が課税されるのでウソはやめましょう、という説明。

上記検索閲覧結果を受けての皆さんの感想を弊所が予想します。

・隠ぺい仮装認定に納得いかない場合は当然反論するし、質問応答記録書にも署名しないよ
・税務調査で嘘なんかつかないよ

となるかと思われます。

書籍で重加算税を調べた場合に予想されうる結果

書籍で重加算税を調べた結果は下記が予想されます。

・税務調査を受ける前提で、税務調査の受け方の記述のついでに重加算税の記述がある書籍を読むことになる
・重加算税について、判例、学説といった学問的に解説した書籍を読むことになる

上記を受けての皆さんの感想を弊所が予想します。

・税務調査を受けるうえで、帳簿を用意しましょう、余計なことは話さないでください、嘘はつかないでください、隠ぺい、仮装があれば重加算税が課税されます、という当然のことしか結局わからなかった。
・重加算税についての判例や学説など難しい言葉で書かれた分厚い書籍なので読むことができなかった、読んでもわからなかった、学問的な結論が実務にどう活用するのかがわからなかった

となるかと思います。

重加算税概要、歴史、状況について、日本税理士会連合会税制審議会「重加算税制度の問題点について-平成11年度諮問に対する答申-」平成12年2月14日を利用して解説します

前提

まず日本税理士会連合会税制審議会「重加算税制度の問題点について-平成11年度諮問に対する答申-」平成12年2月14日(以下「当該税制審議会資料」)は当然ながら、平成12年(2000年)2月14日の資料ですので、混乱を避けるためもあり、まず年度で分けたいと思います。

・重加算「税額」制度昭和25年(1950年)シャウプ勧告による創設、所得税法に関する旧通達で隠ぺい仮装が例示されていた~昭和37年(1962年)国税通則法制定に伴い重加算税という文言に改められ、隠ぺい仮装が例示されていた所得税法に関する旧通達が廃止される時代
・昭和37年(1962年)国税通則法制定に伴い重加算税という文言に改められ、隠ぺい仮装が例示されていた所得税法に関する旧通達が廃止される~平成12年(2000年)2月14日(当該税制審議会資料)までの時代
・平成12年(2000年)2月14日(当該税制審議会資料)~平成12年(2000年)7月3日(事務運営指針の制定)までの時代
・平成12年(2000年)7月3日(事務運営指針の制定)~現在までの時代

で分けます。

重加算「税額」制度昭和25年(1950年)シャウプ勧告による創設、所得税法に関する旧通達で隠ぺい仮装が例示されていた~昭和37年(1962年)国税通則法制定に伴い重加算税という文言に改められ、隠ぺい仮装が例示されていた所得税法に関する旧通達が廃止されるまでの時代(12年間)

・重加算「税額」制度が創設された昭和25年から昭和37年までの12年間においては、所得税法の旧通達において隠ぺい仮装が例示されていたようです。

当該税制審議会資料のp1-p2において以下の記述があります。

なお、国税通則法制定の際に廃止された所得税法に関する旧通達では、隠ぺい・仮装に該当するものとして次のように例示していた。
(ア)いわゆる二重帳簿を作成して所得を隠ぺいしていた場合
(イ)売上除外、架空仕入もしくは架空経費の計上その他故意に虚偽の帳簿を作成して所得を
隠ぺいし又は仮装していた場合
(ウ)たな卸資産の一部を故意に除外して所得を隠ぺいしていた場合
(エ)他人名義等により所得を隠ぺいし又は仮装していた場合
(オ)虚偽答弁、取引先との通謀、帳簿又は財産の秘匿その他不正手段により故意に所得を隠
ぺいし又は仮装していた場合
(カ)その他明らかに故意に収入の相当部分を除外して確定申告書を提出し、又は給与所得そ
の他についての源泉徴収を行っていた場合
②隠ぺい・仮装に該当しない場合
過少申告であっても、事実の隠ぺい又は仮装がなければ重加算税は課されない。例えば、収益計上時期については、税務の取扱いとして検収基準、出荷基準など多くの基準があることから、当期の収益に計上されるべき場合でも翌期の収益として経理されているときは、一般的には隠ぺい又は仮装には当たらない。この点は、経費の計上時期についても同様と考えられる。
また、たな卸資産の計上漏れが担当者の単なる誤認に基づく場合は隠ぺい・仮装に該当せず、税法の不知による過少申告も同様である。なお、収益・費用の計上時期やたな卸資産の計上額について、帳簿や原始記録等を改ざんしたような場合は、隠ぺい又は仮装とされることはいうまでもない。

当該内容を見ると後述する、平成12年(2000年)7月3日において制定された事務運営指針、の根源となるような内容となっております。

しかし、重加算税制度が国税通則法に統合された際に、当該旧通達は廃止されたようです。

当該12年間は当該旧通達により隠ぺい、仮装を判断していと解されます。

昭和37年(1962年)国税通則法制定に伴い重加算税という文言に改められ、隠ぺい仮装が例示されていた所得税法に関する旧通達が廃止される~平成12年(2000年)2月14日(当該税制審議会資料)まで(38年間)の問題点で、当該税制審議会資料で当時指摘されていた事項

当該38年間は、隠ぺい、仮装について法律も通達も何も存在しない時代であったと解されます。

しかし、再度ここで、当該税制審議会資料のp1-p2の下線部に注目しましょう。

なお、国税通則法制定の際に廃止された所得税法に関する旧通達では、隠ぺい・仮装に該当するものとして次のように例示していた。これらは、現行法の下においても隠ぺい・仮装に該当するものと解される。

とありました。

つまり昭和37年(1962年)~平成12年(2000年)2月14日までの38年間は「廃止されている旧通達」を頼りにしていたということになります

それらを受けて、当該税制審議会資料においては下記が議論されました。

1、隠ぺい、仮装の意義と執行上の問題点
(1)隠ぺい、仮装行為の類型←意義や態様について現行法令は極めて抽象的な規定に止まっている、もっぱら解釈にゆだねられている、旧通達の隠ぺい、仮装の例示は、現行法の下においても隠ぺい、仮装に該当するものと解される、という指摘
(2)隠ぺい、仮装の意義と通達等の制定←重加算税の課税要件を含めた国税通則法に関する通達が早急に制定されることが望ましい、という指摘
(3)隠ぺい・仮装に係る納税者の意思と執行上の問題点←意志についても明確化されていない
2、現行法令上の問題点
(1)隠ぺい・仮装行為の主体←隠ぺい又は仮装の行為者が納税者本人に限定されるか否かの疑義が生じている、という指摘
(2)無記帳、不申告、虚偽申告等と重加算税の課税要件←法令等においてその判断基準を明確にすることが望ましいと考えられる、との指摘
(3)隠ぺい又は仮装行為の成立時期←法定申告期限等が経過した後に行われた隠ぺい・仮装行為は重加算税が課税されるのかどうか明確化されていない
(4)重加算税と罰則等との関係←罰則規定における「偽りその他不正の行為」の概念と重加算税における「隠ぺい又は仮装の行為」の範囲との異同について、現行法令は明確性を欠いているとの指摘
3.重加算税の賦課基準等の開示と理由附記制度の創設←理由附記制度を創設すべきである、との指摘

平成12年(2000年)2月14日(当該税制審議会資料)~平成12年(2000年)7月3日(事務運営指針の制定)までの時代

上記の指摘を受けて、平成12年(2000年)7月3日において、通達に近い存在(内規)である事務運営指針が制定されました。現在の事務運営指針の内容については下記を参考ください。

重加算税の取り扱いについての事務運営指針とは

見ていただくと、旧通達を復活させたような内容、となっていることがわかります。

平成12年(2000年)7月3日(事務運営指針の制定)~現在までの時代

1、隠ぺい、仮装の意義と執行上の問題点
(1)隠ぺい、仮装行為の類型←平成12年(2000年)7月3日に通達に近い存在である事務運営指針で隠ぺい、仮装の具体例が一応は明示された
(2)隠ぺい、仮装の意義と通達等の制定←平成12年(2000年)7月3日に通達に近い存在である事務運営指針で隠ぺい、仮装の具体例が一応は明示された
(3)隠ぺい・仮装に係る納税者の意思と執行上の問題点←現在も明確化されていない
2、現行法令上の問題点
(1)隠ぺい・仮装行為の主体←平成12年(2000年)7月3日に通達に近い存在である事務運営指針(所得税)で一応は明示された
(2)無記帳、不申告、虚偽申告等と重加算税の課税要件←無記帳、無申告についての重加算税賦課基準は明確化されていない。しかし無申告加算税の加重厳罰化が、令和5年(2023年)から進んでいます
(3)隠ぺい又は仮装行為の成立時期←←平成12年(2000年)7月3日に通達に近い存在である事務運営指針(所得税)で一応は明示された
(4)重加算税と罰則等(偽りその他不正の行為)との関係←現在も明確化されていない
3.重加算税の賦課基準等の開示と理由附記制度の創設←平成25年(2013年)以降は創設しています。

重加算税の歴史と現状まとめ

・上記のように隠ぺい、仮装については、昭和25年(1950年)の創設から70年以上経過した現在も、税法や国税通則法に定義されていません。
・唯一、事務運営指針において、隠ぺい、仮装が例示されています。
・無申告、無記帳についての賦課基準は明確化されていないものの、昭和25年(1950年)の創設から73年経過した2023年において、無申告加算税の加重厳罰化が進んでいます。
・重加算税の理由附記制度は、昭和25年(1950年)の創設から63年経過した2013年において創設されております。
・以上から、隠ぺい、仮装の分析、解釈についてはまずは事務運営指針を頼ることになり、第二順位以降として裁決や判例を頼ることになります。

繰り返しとなりますが、隠ぺい、仮装の意義、定義は現在も存在しないため、重加算税の賦課基準の判断について迷う、悩む原因となっております。

解決策は重加算税の定義や重加算税を回避する方法について言及した書籍や研究論文を読むこと、弊所も研究し発信していく所存です

何度も繰り返し記述したため、さすがにもうお分かりいただけたと思いますが、重加算税の意義、定義、賦課基準については創設から現在まで明確化されておらず、曖昧模糊としております。しかし、分からないと嘆いていても始まりませんので、重加算税を回避する方法、重加算税の賦課基準などに言及した専門書籍や論文を追及することしかないと思われます。弊所も税理士事務所として研究し、発信していく所存です。

まとめ

重加算税が課税される基準、判定については明確化されておりません。税務調査の対応がご自身のみでは不安、無理だと感じる場合は税理士に依頼する選択肢がありますが、すべての税理士が単発案件、スポット案件の税務調査対応のサービスを提供しているわけではありませんので、税務調査専門税理士とアピールされている税理士に税務調査の対応を依頼することになると解されます。