(2020年4月12日作成)(2023年11月21日再編集)

結論

・国税不服審判所が公表している裁決事例で、隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が隠ぺい仮装を主張したのはいいがかりとはいえない事例だが、隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在しました。

・つまり、税務調査において、悪いこと、不正行為、と一般的には印象を受けるような行為を納税者が行っていたことが発覚した場合であっても、国税不服審判所の裁決で争えば、重加算税賦課が取り消される可能性があることが判明しました。

・さらに、当該裁決はむしろ隠ぺい仮装が妥当するだろうと思われるような行為を納税者が行ったとされる裁決においても、隠ぺい仮装が認められず重加算税が取り消されている事例が存在することが判明しました。

根拠

まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。

不服申立制度や国税不服審判所や裁決要旨検索システムについて

国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。当該事例を弊所独自に抽出して一覧にしたものがこちらのページとなります。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例にオリジナルのタイトルを付して一覧にしました

当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。

国税不服審判所公表裁決のうち弊所独自に分析した事例のうち国税が隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえないと感じた件数及びいいがかりだと感じた件数20231121

・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例→33件
◎内訳、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例→15件
◎内訳、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例→18件

となりました。以上とまとめますと、税務調査において隠ぺい仮装を指摘され重加算税賦課処分を受けた納税者が、国税不服審判所で争った結果、隠ぺい仮装が認められなかった裁決のうち、弊所が抽出した33件のうち15件は、一見すると重加算税が賦課されると予想されるような事例であるが裁決の結果重加算税が賦課されなかったという事例であることが判明しました。

以下において、導出の過程を記述いたします。

導出の過程

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

いいがかりとは言えない、いいがかりだ、と弊所が感じたの定義について

・処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例の定義
納税者が、資料を破棄している事例、資料をしているが無申告、集計をしているが無申告、売上除外をしている等、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例

・処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例の定義
納税者が、納税者にとって有利な特例を適用しただけにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した、納税者の単なるミスにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した、納税者が期ずれ処理を行っただけにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した等、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例

処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例一覧

・平成23年1月25日裁決(平成23年勤務先の商品横流し販売無申告は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年2月14日裁決(平成24年eワラント取引について夫からや法人での運用知識から知識を有しており申告済みの年もあったが無申告だった年について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年2月22日裁決(平成24年過去申告経験があり消費税法の知識を有していて無申告であっても調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成28年4月19日裁決(平成28年請求される側が請求書を自ら作成したが隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成29年5月29日裁決(平成29年無申告者に対する税務調査の中で売上除外が推測される試算表が発見されても隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成30年1月11日裁決(平成30年申告の必要性が明記されている資料を受け取ったにも関わらず無申告であっても質問応答記録書の内容だけでは隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成31年4月9日裁決(平成31年住民税申告書提出の事実やパソコンに資料や集計表が存在して無申告であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年11月20日裁決(令和元年山林譲渡金額1億円が無申告で一時的に調査に非協力であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年2月13日裁決(令和2年過去申告経験済みで税理士が見つからず無申告であって一度資料を捨てた旨の発言をしたとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和3年3月24日裁決(令和3年虚偽支払調書の作成は隠ぺい仮装を認め事業無関係費用の過大計上は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和4年7月1日裁決(令和4年無申告で資料を破棄した旨の申述をしても通帳等その他資料は存在しており隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和5年1月27日裁決(令和5年無申告で販売取引においてプロフィールを偽ったとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

上記の裁決事例は、あくまで裁決文を読む限りでは会計処理、税務処理、確定申告について納税者に非があるように見受けられるような事例ですが、隠ぺい仮装が認められなかった事例となります。

上記のうちさらに、弊所が当該裁決はむしろ隠ぺい仮装があり重加算税賦課が妥当すると感じた裁決一覧

平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

これらの裁決は、裁決文を読む限りむしろ重加算税賦課が妥当すると弊所が感じたにも関わらず、重加算税賦課が取り消されています。

なお、平成27年7月1日裁決については批判的な批評が存在します。これらの裁決についてはこちらのページもご参考ください。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が隠ぺい仮装を主張したのはいいがかりとはいえない事例でむしろ隠ぺい仮装が妥当するように解されたが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した

ただ弊所は、裁決要旨検索システムを利用した統計から算出した裁決で争った場合の重加算税賦課回避可能性は15%という独自の見解を支持しています

・上記から、「とりあえず税務調査で隠ぺい仮装を指摘されたとしても裁決で争えば取り消される可能性があるんだ」と希望を持たれたかもしれませんが、裁決で納税者の重加算税が取り消される確率は15%程度と考えられます。こちらのページをご参考ください。

裁決要旨検索システムを利用した統計から算出した裁決で争った場合の重加算税賦課回避可能性は15%という弊所独自の見解

・以上より、上記のような裁決結果は「あくまで例外」のような位置づけと考えるべきかもしれません。

まとめ

・一見すると、重加算税賦課処分が当然だ、と思われるような事例でも重加算税賦課が裁決において取り消される事例があり、審査請求をするための国税不服審判所に支払う費用はありませんので、やってみるだけの価値はあるかもしれません。

・しかし、やはり上記のような重加算税取消の可能性は低いだろうと予想されます。