(2023年11月17日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
令和4年7月1日裁決のオリジナルのあだ名
令和4年無申告で資料を破棄した旨の申述をしても通帳等その他資料は存在しており隠ぺい仮装を認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1) 事案の概要
・本件は、太陽光発電関連事業等(以下「本件事業」という。)を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、無申告状態であり、法人税等及び消費税等の税務調査を受けてようやく、期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人に隠蔽又は仮装及び偽りその他不正の行為があるとして、法人税等及び消費税等に係る重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装及び偽りその他不正の行為はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。
・請求人は、平成3年4月○日に設立された法人であり、平成25年頃に自然エネルギー利用発電の企画、設計、許認可取得代行、用地取得、設備機器の販売及び設置工事に係る事業(以下「本件事業」という。)を開始した。
・請求人は、本件事業に係る総勘定元帳等の帳簿を作成していなかった。
・法人税等の調査対象期間となった期間
◎平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度(以下「平成26年3月期」といい、他の事業年度についても同様に表記する。)→法定申告期限平成26年5月←処分日令和2年3月31日から6年以内
◎平成27年3月期→法定申告期限平成27年5月←処分日令和2年3月31日から5年以内
◎平成28年3月期→法定申告期限平成28年5月←処分日令和2年3月31日から4年以内
◎平成29年3月期→法定申告期限平成29年5月←処分日令和2年3月31日から3年以内
◎平成30年3月期→法定申告期限平成30年5月←処分日令和2年3月31日から2年以内
◎平成31年3月期→法定申告期限令和元年年5月←処分日令和2年3月31日から1年以内
・法人税等期間の名称
◎平成26年3月期から平成31年3月期←本件各事業年度
・消費税の調査対象期間となった期間
◎平成29年4月1日から平成30年3月31日までの課税期間→法定申告期限平成30年5月←処分日令和2年3月31日から2年以内
◎平成30年4月1日から平成31年3月31日までの課税期間→法定申告期限令和元年年5月←処分日令和2年3月31日から1年以内
・消費税等期間の名称
◎平成29年4月1日から平成30年3月31日及び平成30年4月1日から平成31年3月31日までの課税期間←本件各課税期間
・調査日←令和2年2月5日
・修正申告の勧奨による期限後申告の提出←令和2年3月23日
・処分日←令和2年3月31日
・原処分庁の主張
◎本件代表者は、本件事業に関する書類を段ボール箱に入れて保管していた(以下、当該段ボール箱を「本件段ボール箱」という。)にもかかわらず、これらの書類を本件調査担当職員らへ提示しないばかりか、
①本件事業に関する帳簿や書類は事業を辞めたので捨てた旨、
②本件事業に関する帳簿を作成しなかった旨、
③本件事業に関する書類のうち裁判に必要な書類以外はほとんど捨てている旨、及び
④本件事業に関する書類について保存義務があることは知っていたが申告するつもりがなく、取引が終了した書類は必要ないと考え捨てた旨申述した。
(2)争点
・本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があったか否か(争点1)。
・請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点2)。
・請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点3)。
(3)引用された最高裁判決、地裁判決
明記はありませんが、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動した判決の、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用したと解されます。
(4)争点1、本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があったか否かの審判所の判断
・認定事実
◎令和2年3月19日に行った本件調査について、本件調査担当職員らは、請求人の事務所兼本件代表者の自宅において、本件各事業年度における請求人の所得金額、納付税額等を説明するため、本件代表者に対して本件調査による所得金額、納付税額等を記載した調査事項検討表(以下「本件検討表」という。)を手交するとともに、本件検討表及び本件検討表等を基に作成した本件各申告書の案を示しながら内容を説明したところ、本件代表者は、本件各申告書の案に請求人の社判及び代表者印を押印し、本件各申告書を作成した。
・判断
◎本件代表者は本件調査担当職員らから本件各申告書の案の内容の説明を受けており、その内容を理解した上で社判及び代表者印を押印して本件各申告書を作成したものと認められる。
◎本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるとは認められない。
(5)争点2、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否かの審判所の判断
・認定事実、以下の事実が認められる
◎本件代表者は、遅くとも平成27年頃には、請求人に利益が出ており、申告が必要であるとの認識があった。
◎本件代表者は、令和2年2月5日及び同年3月19日、本件調査担当職員らに対し、請求人の事業に関する書類は破棄した旨申述した。
◎本件代表者は、令和2年2月7日、本件調査担当職員らに対し、以下を提示した。
●①L銀行○○支店の本件代表者名義の普通預金口座の預金 通帳4冊、
●②銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座の預金通帳1冊、
●③N銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座の預金通帳1冊、
●④N銀行○○支店の本件代表者名義の普通預金口座の預金通帳1冊
●⑤また、2月20日、L銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)の預金通帳1冊を提示した
●以下、上記①~⑤の8冊の預金通帳を「本件各通帳」という。
◎なお、本件代表者は、本件調査において、L銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件L口座」という。)に係る預金通帳は提示しなかった。
◎また、本件L口座への請求人以外からの振込入金額は、平成26年3月期は128,507,702円、平成27年3月期は286,892,280円、平成28年3月期は369,009円、平成29年3月期は201,730円、平成30年3月期は1,730円及び平成31年3月期は1,730円であった。
◎本件代表者は、令和2年2月5日、同月7日、同月20日、同月27日、同年3月5日及び同月12日に本件調査担当職員らに対し、管理していた請求人の収入に関する書類及び請求人の支出に関する領収証等の書類を提示した。
◎件調査担当職員らは、本件各通帳及び本件L口座に係る口座の入金履歴等を基に、請求人の取引先等に対する調査を実施するなどし、請求人の本件各事業年度に係る売上金額を確認した。
◎本件代表者が平成30年に使用していた手帳(以下「本件手帳」という。)の平成30年10月9日、同月15日及び翌16日の欄には、税務署へ行く旨の記載がある。
・判断
◎本件代表者は、遅くとも平成27年頃には、請求人に利益が出ており、申告が必要であるとの認識があったと認められるものの、無申告行為そのものとは別に、請求人に、隠蔽、仮装と評価すべき積極的な行為が存在し、これに合わせた無申告行為があったとは認められない。
◎請求人は、総勘定元帳等の帳簿を作成しておらず、本件代表者は、事業に関する書類を破棄した旨申述したことが認められる。
◎しかしながら、請求人が帳簿を作成していなかったことそれ自体は隠蔽とも仮装ともいえるものではない。
◎また、本件代表者は、一定の書類を提示しているところ、それ以外にいかなる書類が存在し何を破棄したのか等、書類の破棄に係る詳細が明らかでないことからすると、上記申述をもって、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿しあるいは故意に脱漏したものと認めることはできない。
◎本件代表者は書類を破棄した旨申述したことが認められるが、上記のとおり、書類の破棄に係る詳細が明らかでないことに加え、本件代表者が本件調査担当職員らに本件各通帳等の書類を提示していることからすると、本件事業を廃止したから書類を破棄した旨申述したことをもって、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認めることはできない。
◎本件代表者において、本件L口座に係る預金通帳が提示されなかったことが認められるが、一方、本件代表者は、同口座以外の口座に係る預金通帳を本件調査担当職員らに提示している
◎本件L口座の請求人以外からの振込入金額は、平成26年3月期及び平成27年3月期は多額であるものの、平成28年3月期以降は大きくその金額が減少し、特に平成30年3月期及び平成31年3月期の入金額は僅少であること並びに本件L口座と銀行、支店が同一の請求人名義の別の口座に係る預金通帳を提示していることなどからすると、本件L口座に係る預金通帳の存在を失念するなどして提示しなかった可能性を否定できない。
◎同通帳のみを提示しなかったことをもって、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行 動をしたものと認めることもできない。
◎原処分庁は、本件段ボール箱を本件調査の時に本件調査担当職員らに提示しなかった旨主張する。しかしながら、本件段ボール箱の中に、特段重要な書類があったという証拠はないことに加え、本件代表者は、本件調査の時に、本件調査担当職員らに本件調査に必要な一定の書類は提示していることからすると、本件段ボール箱を提示しなかったことをもって、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認めることはできない。
・したがって、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認めることはできない。
(6)争点3の審判所の判断
・請求人が、請求人の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠蔽し、あるいは故意に脱漏したことは認められず、請求人が、当初から課税標準等及び税額等を法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告をしなかったと評価することもできない。そして、その他原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、請求人が、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為、あるいは、真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するために法定申告期限までに申告をせず、殊更に税額を免れる行為を行っているとはいえない。
・したがって、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとは認められない。
(7)結果
・法人税等について
◎平成26年3月期→法定申告期限平成26年5月←処分日令和2年3月31日から6年以内←偽りその他不正の行為が無かったとして処分対象外期間として重加算税取消
◎平成27年3月期→法定申告期限平成27年5月←処分日令和2年3月31日から5年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成28年3月期→法定申告期限平成28年5月←処分日令和2年3月31日から4年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成29年3月期→法定申告期限平成29年5月←処分日令和2年3月31日から3年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成30年3月期→法定申告期限平成30年5月←処分日令和2年3月31日から2年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成31年3月期→法定申告期限令和元年5月←処分日令和2年3月31日から1年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
・消費税等
◎平成29年4月1日から平成30年3月31日までの課税期間→法定申告期限平成30年5月←処分日令和2年3月31日から2年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成30年4月1日から平成31年3月31日までの課税期間→法定申告期限令和元年年5月←処分日令和2年3月31日から1年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
当該裁決のさらなる要約
・請求人は法人税及び消費税について無申告でした。
・請求人は、総勘定元帳等の作成はしていませんでした。
・請求人は、書類を破棄した旨の申述をしたものの、通帳等の保存はありました。
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえない、と弊所が感じた事例です。請求人は、申告義務を認識していたと解されるからです。
◎しかし、今回は無申告であるため隠ぺい仮装が認められなった可能性が高いと解されます。
◎当該裁決は、最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動判決における、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用しています。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料を捨てた旨を申述したものの、その他は存在していたと明記されています。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計資料の保存については、総勘定元帳の作成は無いとの明記がありました。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査での虚偽発言は無かったように解されます。
◎当該裁決において、質問応答記録書が作成されましたが、当該記録書の内容に問題はなかったと認定されたと解されます。
◎当該裁決において、偽りその他不正の行為について争点が存在しましたが、隠ぺい仮装との差異についての言及は無かったように解されます。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
無申告であり書類を破棄した旨の申述をしたとしても通帳等その他資料を提示すれば重加算税賦課を回避できる可能性があります。(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)