(2023年11月16日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
令和3年6月22日裁決のオリジナルのあだ名
令和3年隠ぺい仮装行為の始期については質問応答記録書の内容を認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1) 事案の概要
・本件は、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、所得税等及び消費税等の各修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の過少申告には隠蔽又は仮装の事実があるとして、重加算税等の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないなどとして、同処分の一部の取消しを求めた。
・調査日←令和元年11月14日
・重加算税処分日←令和元年12月26日
・所得税及び消費税の調査対象期間となった期間
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から7年以内←偽りその他不正の行為が存在しなければ重加算税賦課対象期間外
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から6年以内←偽りその他不正の行為が存在しなければ重加算税賦課対象期間外
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から5年以内
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から4年以内
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から3年以内←重加算税賦課処分に対する審査請求を取り下げた
◎平成29年分←法定申告期限平成30年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から2年以内←重加算税賦課処分に対する審査請求を取り下げた
◎平成30年分←法定申告期限平成31年3月15日←重加算税処分日令和元年12月26日から1年以内←重加算税賦課処分に対する審査請求を取り下げた
・基礎事実
◎来店客の注文を受けた際、店内飲食に係る伝票(以下「本件伝票」という。)
◎1日に2回程度、本件伝票の各売上金額を集計し、それを記載したメモ紙(以下「本件売上メモ」という。)
◎本件売上メモ等を基として、本件事業の営業日ごとに売上げの金額、仕入れ等の支出額、現金残高等を記録するため日計表(以下「本件日計表」という。)
◎期間の名称、所得税
●平成24年分から平成26年分までを「平成26年以前各年分」
●平成26年以前各年分と平成27年分を併せて「本件各年分」
●平成28年分から平成30年分までを「平成28年以降各年分」
●本件各年分と平成28年以降各年分を併せて「平成30年以前各年分」
◎期間の名称、消費税
●平成24年1月1日から平成24年12月31日までの課税期間(以下「平成24年課税期間」)
●平成24年課税期間から平成26年課税期間までを「平成26年以前各課税期間」
●平成26年以前各課税期間と平成27年課税期間を併せて「本件各課税期間」
●平成28年課税期間から平成30年課税期間までを「平成28年以降各課税期間」
●本件各課税期間と平成28年以降各課税期間を併せて「平成30年以前各課税期間」
◎請求人とJ税務署において面談の上、請求人への質問調査を行い、質問と応答の要旨を記録した質問応答記録書(以下「本件質問応答記録書」という。)を作成した。
◎本件質問応答記録書には、請求人は、平成24年から税負担を少しでも少なくするために、麺1玉当たりの売上金額が高い本件伝票を複数枚選び、当該各伝票に記載された金額を本件売上メモに記載していた金額から減算し、減算後の売上金額を本件日計表に記載する方法により、平成30年以前各年分の所得税等及び平成30年以前各課税期間の消費税等について、本件事業に係る売上金額を実際より少なくして申告した旨記載されていた。
◎以下、請求人が本件伝票から減算の対象として選んだ複数枚の伝票を「本件各減算伝票」という。
(2)争点
・争点1、省略
・争点2、請求人の本件各年分(H24~H27)の所得税等及び本件各課税期間(H24~H27)の消費税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か
・争点3、請求人に、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
なしと解されます。
(4)争点2、請求人の本件各年分(H24~H27)の所得税等及び本件各課税期間(H24~H27)の消費税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否かの審判所の判断
・請求人が、本件調査以前、本件日計表の作成に際して、初めから過少申告の意図をもって、本件各減算伝票を廃棄することにより本件事業での売上げの一部を意図的に除外し、実際の売上金額よりも過少な金額が記載された本件日計表を作成していたこと(以下「本件隠蔽仮装行為」という。)について、原処分庁、請求人ともに争いはない。
・他方、原処分庁は、本件質問応答記録書の請求人の申述に基づき、本件隠蔽仮装行為の始期が平成24年からであると主張するのに対し、請求人は、本件質問応答記録書の申述の信用性を争う趣旨と解される主張をするので、以下、請求人の申述の信用性について検討する。
・本件質問応答記録書によれば、請求人は、本件調査担当職員に対し、要旨、以下のとおり申述した。
◎平成20年に開業してからしばらくの間は、きちんと申告しても売上げが少なく所得税が発生していなかったが、経営が軌道に乗り始めた平成24年から税負担を少しでも少なくするために、売上金額を過少に申告していた。
・本件調査担当職員の答述
◎経営が軌道に乗り始めた頃とはいつからかと具体的に尋ねたところ、請求人は、税金を納め始めた頃だと申述したため、請求人が税金を納め始めた時期を平成24年からであることを請求人に確認させて質問応答記録書を作成するに至った。
・請求人が本件隠蔽仮装行為の始期を申述した経緯を具体的かつ詳細に答述するものであり、特に信用性を疑う点がないことからその答述内容どおりの事実が認められる。そうすると、請求人は、本件調査担当職員による質問の当初、本件隠蔽仮装行為の始期について、経営が軌道に乗り始めた頃である旨の曖昧な申述をするにとどまり、その始期を明確に答えることができなかったというのであるから、請求人は本件隠蔽仮装行為の始期に関して、そもそも明確な記憶を持っておらず、その記憶は曖昧なものであったと認められる。そして、請求人が平成24年から納税を開始した旨の申述は、自発的な申述をしたのではなく本件調査担当職員の教示に沿う形で申述した程度にすぎないものというべきである。
・本件では、請求人が本件事業に係る所得税等について平成24年分から納税をしているとすれば、本件隠蔽仮装行 為の始期とされる「本件事業の経営が軌道に乗り始めた頃」及び「税金を納め始めた頃」とは、早くても平成24年分のH商工会の指導に基づく決算や確定申告が終了し、所得税等の税額が確定する平成25年以降を指すと考えるのが自然であるのに、請求人が本件質問応答記録書において、これを平成24年からと申述しているのは、客観的事実とも整合せず、不自然であるともいえる。
・本件隠蔽仮装行為の始期に関する請求人の申述は直ちに信用できず、また、そのほかに本件隠蔽仮装行為の始期が平成24年からであると認めることができる証拠もないから、平成24年から本件隠蔽仮装行為が始まったとする事実を認めることができない。また、当審判所の調査の結果を踏まえても、請求人が争っている本件各年分及び本件各課税期間において、他に請求人によって本件隠蔽仮装行為がなされたことを示す証拠もないから、請求人に、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。
(5)争点3、請求人に、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か
隠蔽又は仮装の具体的事実や開始時期を特定できない本件にあって、他に何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為があったと認めるに足る証拠もない。したがって、所得税等及び消費税等の申告について、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとは認められない。
(5)結果
・本件は平成24年分及び平成25年分において偽りその他不正行為がない。そこで、平成24年分及び平成25年分の所得税及び消費税に係る過少申告加算税及び重加算税は、処分日から5年を超えているのですべて取り消す。
・平成26年及び平成27年は過少申告加算税が適法であり、重加算税を取り消す。
当該裁決のさらなる要約
・当該裁決は、隠ぺい仮装行為の存在自体は争わず、その開始時期がいつであるかという点で争った。
・請求人は、隠ぺい仮装の開始時期について「経営が軌道に乗り始めたころ」という旨の発言をしたところ、平成24年を教示したのは原処分庁であった。
・国税不服審判所は以下のように判断した
◎請求人は、経営が軌道に乗り始めたころという曖昧な申述をするにとどまる
◎請求人が平成24年から納税を開始した旨の申述は、自発的な申述をしたのではなく本件調査担当職員の教示に沿う形で申述した程度にすぎないものというべきである。
◎「本件事業の経営が軌道に乗り始めた頃」及び「税金を納め始めた頃」とは、早くても平成24年分のH商工会の指導に基づく決算や確定申告が終了し、所得税等の税額が確定する平成25年以降を指すと考えるのが自然である
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、所得税及び消費税が申告済みでした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装の開始時期についていいがかりである、と弊所が感じた事例です。なぜなら、原処分庁は隠ぺい仮装の開始時期について原処分庁が誘導して質問応答記録書を作成したように感じたからです。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと解されます。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計表が存在していたと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査での虚偽発言は無かったと解されます。
◎当該裁決において、質問応答記録書が作成されています。
◎当該裁決において、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の差異についての言及は無かったように解されます。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
質問応答記録書の内容を否定すれば隠ぺい仮装行為の始期が変更される可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)