(2023年11月15日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
令和元年6月24日裁決のオリジナルのあだ名
令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
・本件は、原処分庁が、運送業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対してした調査に基づき、更正処分等をしたところ、請求人が、①(省略)②(省略)③(省略)④請求人に、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない、⑤請求人に、「偽りその他不正の行為」に該当する事実はない、⑥(省略)などとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
・請求人は、運送業(以下「本件事業」という。)を営む個人事業主である。
・請求人は、平成21年から平成29年までの間、Mを従業員(以下「本件従業員」という。)として雇用し、本件事業に従事させていた。
・請求人の所得税の申告状況
◎平成24年分←申告済み
◎平成25年分←申告済み
◎平成26年分←申告済み
◎平成27年分←申告済み
◎平成28年分←申告済み
・請求人の消費税の申告状況
◎平成24年分←無申告
◎平成25年分←無申告
◎平成26年分←無申告
◎平成27年分←無申告
◎平成28年分←無申告
・調査日←平成29年11月1日
・処分日←平成30年4月27日
・所得税等及び消費税等の調査対象期間
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から6年以内
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から5年以内
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から4年以内
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から3年以内
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から2年以内
・請求人は、本件各年分の本件事業に係る帳簿を作成していなかった。しかし、請求人は、売上金額に係る支払明細、請求書(控)及び預金通帳並びに費用に係る領収証等を保存しており、本件調査の際、これらの資料を本件調査担当職員に提示した。
(2)争点
・争点1(省略)
・争点2(省略)
・争点3(省略)
・争点4、請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か
・争点5、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か
・争点6(省略)
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動した判決の、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用したと明記されています。
(4)争点の審判所の判断
◎争点4、請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か
・請求人の申述内容
●平成28年分の取引先から送付される請求人分と本件従業員分の支払明細を合計した金額と、請求人の申告した事業所得の売上金額に差額がある理由は、事業経営が困難で、税金の負担を少なくし、少しでも支出を抑えたかったので、売上げを少なく申告したからである。
●本件各取引先から送付される支払明細は、請求人分と本件従業員分の2通に分けて作成されていたところ、請求人分に対応する支払明細に記載された諸経費を相殺した後の金額を合計し、当該合計額が1,000万円を超えていたことから、請求人が本件妻に指示をして、1,000万円を超えないように適当な金額を本件各収支内訳書に記載させた。
・本件妻の申述内容
●本件各所得税等申告書及び本件各収支内訳書を作成したのは本件妻である。
●売上金額については、請求人分に対応する支払明細のみを1年分合計していたが、その際、知識がなく、当該支払明細に記載されている、諸経費を控除した後の金額を合計し、その合計額をそのまま本件各収支内訳書に記載したこともあれば、従前の申告額を参考に金額を変更したこともあった。
●本件従業員分の売上げについては、資金繰りが厳しく、税金が支払えないと思ったため計上しなかった。
●最終的に税金が支払える程度の金額になればよいと考えたが、パソコンも持っていないし、複雑な税金の計算もできないので、税額から逆算して売上げや経費を求めるなどという難しいことはできず、前年度分と同じくらいになればいいという程度の考えで金額を決めていた。
・請求人は、請求書を請求人分と本件従業員分とに分けて作成し、これを本件各取引先に交付していた。請求人が当該請求書を分けて作成した理由は、本件従業員分の売上金額に基づいて歩合計算した額を、毎月、給与(本件給与)として本件従業員に支払うためであった。
・本件各収支内訳書に記載された売上金額は、いずれの年分においても実際の売上金額の5割に満たないものであった。
・請求人は、本件各年分に係る本件各支払明細書の全て(本件従業員分のものを含む。)を保存していたほか、本件各預金通帳や必要経費に係る領収証等(本件従業員分のものを含む。)を保存していた。
・請求人は、本件調査の際、その当初から売上金額を過少に計上した事実を、本件税理士を通じて認めた上、本件各支払明細書や領収証等の書類を本件調査担当職員に提示していた。
・認定事実によれば、請求人の本件各年分の所得税等の申告がいずれも過少となった主な要因は、本件従業員分の売上げが事業所得の金額の計算上売上金額に算入されなかったことにあると認められる。そして、請求人が、税負担を抑えるという動機から本件従業員分の売上げを本件各収支内訳書に計上しなかったことは、請求人又は本件妻の申述等によっても明らかであり、請求人は、当初から所得を過少に申告するという意図を有していたものと認められる。
・しかしその一方で、本件全証拠等によっても、上記の各過少申告に至る過程で、請求人が架空名義の請求書を作成し、架空名義の本件各支払明細書を作成させ、あるいは、他人名義の預金口座に売上代金を入金させたというような事実は認められず、本件各支払明細書や領収証等の取引に関する書類を改ざんし、あるいは本件売上メモを作成し、又はこれらの書類を意図的に破棄・隠匿したなどの事実も認められない。
・本件妻が、本件各支払明細書や領収証等の書類の一部(本件従業員に係るもの)を売上金額及び必要経費の金額の集計計算の基礎から作為的に除いていたという行為自体についても、請求人が本件各支払明細書や本件各預金通帳の全てを保存し、本件調査の際には、当初から売上金額の過少計上の事実を認めつつ、これらの書類を本件調査担当職員に提示していたという事情に鑑みると、当該行為をもって真実の所得解明に困難が伴う状況を作出するための隠蔽又は仮装の行為と評価することは困難である。
・これらのことからすると、上記の各過少申告に至る過程で、請求人に隠蔽又は仮装と評価すべき行為があったということはできない。
・請求人が本件従業員分の売上げや費用の存在を認識しつつこれらを本件各収支内訳書に計上せず、申告対象から除外したというだけでは、重加算税の賦課要件が満たされるものではないというべきである。
◎争点5、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か
・本件で認定できる請求人の行為をみても、請求人において、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為を行っているとはいえず、また、納税者が真実の課税標準を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意図の下に、課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出したともいえない。したがって、所得税等及び消費税等の申告について、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとは認められない。
(5)結果
・所得税及び消費税の処分
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から6年以内←更正処分の期間制限を超えているためすべて取消
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から5年以内←重加算税を取消
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から4年以内←重加算税を取消
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から3年以内←重加算税を取消
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成30年4月27日から2年以内←重加算税を取消
当該裁決のさらなる要約
・請求人は以下のように申述した
◎事業経営が困難で税金負担を少なくしたかった
◎請求人分と従業員分の請求書を分けて作成しており、売上が1,000万円を超えないような適当な金額で収支内訳書に記載した。
・請求人の妻は以下のように申述した
◎消費税を支払わないように売上が1,000万円を超えないような金額で申告する考えはなかった
◎請求人分の収支については大雑把に計算していた。
◎従業員分については資金繰りが厳しく税金を支払えないと思って計上しなかった
◎パソコンを持っていないので複雑な計算もできないし、前年と同じくらいになればよいという程度で金額を決めていた
・質問応答記録書には収支内訳書に適当な金額を書いた旨が記載されていた
・国税不服審判所は以下のように認定した。
◎本件各収支内訳書に記載された売上金額は実際の5割に満たないものであった
◎請求人は資料の全てを保存していた
◎請求人は調査の当初から売上を過少に計上した事実を認めて、調査に協力的であった。
◎請求人は、当初から所得を過少に申告するという意図を有していたものと認められる。
◎その一方で書類の改ざんはみられない。
◎売上を作為的に除いていたという行為についても、請求人が本件各支払明細書や本件各預金通帳の全てを保存し、本件調査の際には、当初から売上金額の過少計上の事実を認めつつ、これらの書類を本件調査担当職員に提示していたという事情に鑑みると、当該行為をもって真実の所得解明に困難が伴う状況を作出するための隠蔽又は仮装の行為と評価することは困難である。
◎請求人が本件従業員分の売上げや費用の存在を認識しつつこれらを本件各収支内訳書に計上せず、申告対象から除外したというだけでは、重加算税の賦課要件が満たされるものではないというべきである。
・隠ぺい仮装がなければ偽りその他不正の行為にも該当しないとし、その差異の言及はありませんでした。
弊所独自の見解
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は所得税は申告済みであり、消費税は無申告でした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりではない、と弊所が感じた事例です。なぜなら、まず当該裁決は所得税の無申告案件ではなく過少申告案件です。また意図的に従業員分の売上除外し、実際の5割に満たない金額を計上していること等を認定しているからです。
◎しかし、資料が保存されていること、調査の当初から過少申告を認めていること、調査に協力的であったことから従業員分の売上経費を除外しただけでは重加算税賦課要件は満たさない、としました。
◎当該裁決は、最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動判決における、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用しています。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと明記があります。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計メモを作成していたと明記があります。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は協力的であったと明記があります。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
◎当該裁決は、隠ぺい仮装には該当しないので偽りその他不正の行為に該当しないとしています。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
意図的に売上除外を行った場合でも調査の当初から自ら認めて調査に協力的であれば重加算税賦課を回避できる可能性があます。しかしその可能性は限りなく低いと感じます(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)