(2024年7月4日作成)
結論
・非常に不可解、理不尽、認めがたい由々しきことですが、税務調査官が納税者への初回電話において調査の宣言をせずに内容聞取りを開始することによって更正の予知を発生させることについて、国税不服審判所は認めました。つまり調査に不手際は無く違法な調査ではないとしました。
・弊所独自に原因を追究しますと、事前通知及び調査通知については国税通則法に定めがありますが、「調査開始宣言」については事務運営指針という通達のようなものにとどまっていることが原因と解されます。
・当該内容は、事前自主修正申告を納税者に促すという法律の趣旨を無視していると解されます。
・恐れ入りますが初回電話で申告内容についての質問を既に受けておられる納税者様については、事前自主修正申告による重加算税回避という弊所のサービスは保証できないこととなります。
・税務署からの初回電話における聞取り及び調査開始宣言を拒否することは可能と解されます。
下記で詳細を記述します。
事前通知及び調査通知が法律に定められた現在においても、税務調査官が納税者へ行う初回電話において調査開始宣言をすることなく申告内容について質問して更正の予知を発生させ事前自主修正申告の機会を奪うことについて、国税不服審判所は認めました
前提の知識
・平成25年1月1日以後は事前通知が導入され、納税者と税務調査日の日程を設定したうえで税務調査が開始されることが明文化されました。つまり、いきなり税務調査が開始されることは無くなったはずです。
・平成 29 年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税からさらに事前通知の前の調査通知が導入されました。
・また「行政指導と税務調査は明確に区別して納税者に明示しなければならない」という批判があり、少なくとも事務運営指針という通達のようなものにおいては定められています。
こちらのページをご参考ください。
事前通知と調査通知の違いとは
特別調査・一般調査・着眼調査・簡易な接触とは
国税不服審判所公開裁決において調査開始宣言をすべきという考えを無視してもよいというような裁決判断が公表されました
こちらのページをご参考ください。
令和5年12月7日裁決(令和5年事前通知及び調査通知導入後であっても行政指導か税務調査であるか明示せずかつ税務調査開始宣言をせずに初回電話で予想されうる非違項目の内容を確認することにより更正の予知を発生させたことが許された裁決)
・当該裁決の内容要約
◎納税者は本件各インセンティブ報酬に係る給与所得が計上漏れしていました。
◎税務署は上記の内容を既につかんでおり、納税者への初回の電話において税務調査開始宣言をせずに本件各インセンティブ報酬について確認したい旨を伝えた。
◎納税者は、まだ税務調査は開始していない、上記の電話聞取りは調査でなく行政指導だから自主修正申告をすれば加算税は課されないと判断し、税務調査訪問日までに税理士法人へ依頼して事前自主修正申告を行った。
◎しかし、税務署は加算税賦課処分を行い、当該処分に対して国税不服審判所へ申し立てたが、国税不服審判所は初回電話で既に更正の予知が発生していた、調査開始宣言をしなかったかどうかは言及しない、としました。
弊所独自に原因を追究しますと、事前通知及び調査通知については国税通則法に定めがありますが、「調査開始宣言」については事務運営指針という通達のようなものにとどまっていることが原因と解されます。
・事前通知は、国税通則法74条の9において定められています。
・調査通知は、国税通則法第65条第5項において定められています。
しかし、調査開始宣言は、国税通則法を含めた法律に定めがありません。調査開始宣言の必要性の根拠となる資料は下記となります。
・調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)(改正令和5年11月29日)
・税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)【令和5年11月一部改訂】
・税務調査手続に関するFAQ(職員用)(青木丈「税理士のための税務調査手続きルールブック改訂版」令和5年12月1日p339)
・調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)(改正令和5年11月29日)より
第2章 基本的な事務手続及び留意事項
1 調査と行政指導の区分の明示
納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。
・税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)【令和5年11月一部改訂】
問2 税務署の担当者から電話で申告書の内容に問題がないか確認して、必要ならば修正申告書を提出するよう連絡を受けましたが、これは調査なのでしょうか。
調査は、特定の納税者の方の課税標準等又は税額等を認定する目的で、質問検査等を行い申告内容を確認するものですが、税務当局では、税務調査のほかに、行政指導の一環として、例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ及び法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する場合があります。このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%賦課されます。)。
なお、税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。
・税務調査手続に関するFAQ(職員用)(青木丈「税理士のための税務調査手続きルールブック改訂版」令和5年12月1日p339)
なお、事前通知を行うことなく実地の調査を実施する場合であっても、(省略)、調査の途中で非違が疑われることとなった場合は、質問検査等の対象となる旨を通知してから質問検査等を開始することに留意する必要があります(基本的な考え方第2章2(3)注2)
しかし、上記は事務運営指針という通達のようなものであり、通達は法律ではない、と言われています。
当該内容は、事前自主修正申告を納税者に促すという法律の趣旨を無視していると解されます。
こちらのページをご参考ください。
国税不服審判所公表相続税裁決の中には更正の予知の有無の判断及び調査日時変更の交渉に関係する重要な事例が存在した
上記のページでも記述しましたが、初回電話で更正の予知を発生させる行為は、法の趣旨に反していると解されます。
事前通知後かつ更正の予知前であれば過少申告加算税が賦課されない旨を規定しているのは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。
恐れ入りますが初回電話で申告内容についての質問を既に受けておられる納税者様については、事前自主修正申告による重加算税回避という弊所のサービスは保証できないこととなります。
・恐れ入りますが初回電話で申告内容についての質問を既に受けておられる納税者様については、事前自主修正申告による重加算税回避という弊所のサービスは保証できないこととなります。
・税務署からの初回電話については、調査官からの具体的な内容聞取りは拒否することは許されると解されます。
・また調査開始宣言をしようとしても、税理士に相談してからと拒否することも許されると解されます。
まとめ
税務署からの初回電話における聞取り及び調査開始宣言を拒否することは違法行為ではなく、適切な判断と解されます。