(2024年4月19日作成)
結論
・国税不服審判所公表相続税裁決において国税不服審判所が「調査通知後から更正の予知前に自主修正申告すれば加算税免除される規定は、納税者が自発的な修正申告を提出することを奨励している」という趣旨を述べました。つまり、調査通知の時点では更正の予知は無く、調査開始前までに事前自主修正申告すれば重加算税を回避できる期間が存在しなければ、法の趣旨に沿っていないと解されます。
・しかし、当該国税不服審判所公表相続税裁決は、事前自主修正申告の申出→調査の開始宣言→修正申告書の提出→臨場調査→更正の予知は無かった、という流れであるため、やや疑問が生じます。
・当該国税不服審判所公表相続税裁決から、納税者が事前自主修正申告を申し出ると、税務調査官が臨場調査予定日より前に電話による税務調査開始を早める宣言をする恐れがあることが判明しました。
下記で詳細を記述します。
国税不服審判所公表相続税裁決が述べた事前自主修正申告の場合の加算税免除を認めている法の趣旨
弊所は相続専門税理士としても活動しております。「相続税の税務調査と重加算税」をテーマに研究していたところ、国税不服審判表公表相続税裁決において、税務調査開始前事前自主修正申告に関する重要な裁決を発見しました。
・隠ぺい仮装を認めなかった国税不服審判所公表相続税裁決の中には調査通知後税務調査開始前の自主修正申告に関する重要な事例が存在した – 全国対応京都の相続専門田中信男税理士事務所 (souzoku-tt.com)
・平成30年調査開始後の自主修正申告だが事前通知後に自主修正申告申し出有りのため更正の予知は無かったとした及び納税者が相続開始前に引出した現金が相続財産に該当すると認識していたとは認められないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決(争点1更正の予知を中心に) – 全国対応京都の相続専門田中信男税理士事務所 (souzoku-tt.com)
まず、当該裁決の重要な前提条件としては下記となります
・当該裁決は、国税通則法平成28年(2016年)改正による平成29年1月以降に法定申告期限が到来するものについては調査通知後かつ更正の予知前の自主修正申告について過少申告加算税が課されることなる前の、平成28年7月に税務調査が行われた平成26年に法定申告期限が到来する相続税の税務調査の事例です。
・したがって当該裁決当時は、調査通知は存在せず事前通知のみが存在していました。
・したがって当該裁決当時は、事前通知後かつ更正の予知前であれば過少申告加算税が賦課されず、重加算税も賦課されないという制度でした。
上記の前提で、国税不服審判所は以下のように判断を明示しました。
当該裁決当時の旧国税通則法65条第5項が、事前通知後かつ更正の予知前であれば過少申告加算税が賦課されない旨を規定しているのは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。
つまり下記のように言い換えることが可能と解されます。
・調査通知後から更正の予知前に納税者が自発的な修正申告を提出することは、課税庁においても事務負担等が軽減されるというメリットが存在するはずである。
・したがって、むしろそのような修正期間を必ず設けないと法の趣旨に反することになるはずである。
以上から弊所は、調査通知の段階では更正の予知は存在しない、発生しない、と解しております。
追記
酒井克彦「裁判例からみる税務調査」p439において、
・和歌山地裁昭和50年6月23日判決
・東京地裁昭和56年7月16日判決
においても同様の趣旨を述べているとの記述がありました。
当該裁決は調査開始前事前自主修正申告には該当せず、調査開始後の提出であるため更正の予知は無しとした点にやや疑問が生じました
当該裁決の時系列
・平成28年7月5日、本件相続に係る相続税の調査のための日程調整を依頼。平成29年1月1日以後法定申告期限が到来する場合に行われる、現行制度の調査通知であると解される。当時、調査通知は存在しなかった。
・平成28年7月12日、事前通知。
・平成28年7月15日(午前か?)、本件税理士が預金が相続財産から漏れていたので修正申告をする旨を申し出た(本件電話連絡)
・平成28年7月15日午後、本件調査担当職員は、本件税理士に電話をし、当該電話は調査による質問検査である旨を宣言、修正申告を予定している内容が本件各預金取引のうち当該各預金取引に係る金額の合計10,032,719円(本件金員)に関するものであるか否かについて質問した(本件質問)。
・平成28年7月19日、合計金額5,001,804円(本件修正申告対象額)に相当する財産が申告されていなかったとして、相続税の修正申告書(「本件修正申告書」といい、本件修正申告書による修正申告を「本件修正申告」という。)を提出
・平成28年7月20日、調査初日
当該裁決の順序:電話での質問検査権の宣言→自主修正申告
つまり上記の時系列であれば、電話での質問検査権の宣言後=調査開始後、であり自主修正申告は調査開始後に提出したことになります。国税通則法における重加算税を賦課しない要件は、修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、適用しない旨規定しており、つまり修正申告書の提出が必要であり、当該裁決は、電話での質問検査権の宣言(調査開始)までには修正申告を行う旨の申出のみであり提出はしておらず提出は調査開始後、となります。しかし、当該裁決において国税不服審判所は、当該自主修正申告については更正の予知はなかったとしました。この点は国税通則法の規定から外れているように解されます。
疑問による弊所の推測
・当該裁決は、請求人らは本件金員10,032,719円ではなく本件修正申告対象額である5,001,804円のみを自主修正申告をしている。
・そこで国税不服審判所は、端緒把握説≒客観的確実性説、を採用したのではないだろうか、と推測しました。
端緒把握説≒客観的確実性説についてはこちらのページをご参考ください。
もし仮に、本件金員10,032,719円すべてを自主修正申告していた場合はどのような判断だろうかという疑問であるため、さらなる追究をする所存です。
当該裁決によれば、税務調査官に事前自主修正申告を感づかれると調査開始宣言をされる恐れがあることが判明しました
当該裁決から確実に述べることが可能な事柄は、「税務調査官に事前自主修正申告を感づかれると調査開始宣言をされる恐れがある」ということです。
まとめ
・法の趣旨からすれば、事前自主修正申告による加算税回避可能な期間を設けなければならず、調査通知後から税務調査初日の前日までに事前自主修正申告すれば、現行法においても重加算税は回避可能と解されます。
・そのため税務調査官に事前自主修正申告を感づかれると調査開始宣言をされる恐れがありますので、調査開始宣言は拒否することがよいと解されます。