(2023年11月15日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
平成31年4月9日裁決のオリジナルのあだ名
平成31年住民税申告書提出の事実やパソコンに資料や集計表が存在して無申告であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
・本件は、電気計装工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税等及び消費税等について無申告状態であったが、税務調査を受けて、所得税等及び消費税等の各期限後申告を行ったところ、原処分庁が、当該各期限後申告について、それぞれ課税要件事実を隠蔽又は仮装したところに基づくものであるとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
・請求人は、電気計装工事業を営む個人事業主である(以下、請求人の事業を「本件事業」という。)。
・請求人は、平成23年9月20日、当時の勤務先であるF社を退職した。
・請求人は、平成27年ないし平成29年にG社から給与として収入を得ていた。
・請求人は、平成25年度の市民税・県民税申告書(以下「本件平成25年度住民税申告書」といい、市民税と県民税を併せて「住民税」という。)を平成25年9月25日付でH市役所に提出した。
・請求人は、平成26年度の住民税の申告書(以下「本件平成26年度住民税申告書」といい、本件平成25年度住民税申告書と併せて「本件各住民税申告書」という。)を平成26年8月28日付でH市役所に提出した。
・請求人が、税務調査において提示したノートパソコン(以下「本件パソコン」という。)には、平成24年1月から平成28年12月までの本件事業に係る各月の受注先への請求金額、外注工 賃等の支払金額及び当該請求金額と支払金額との差額が表示された集計表(以下「本件集計表」という。)のデータが保存されていた。
・本件パソコンには、本件事業について請求人が受注先へ送付するために作成した平成24年1月分から平成28年12月分までの工事代金請求書(以下「本件請求書」という。)のデータが保存されていた。
・本件調査担当職員は、平成29年12月19日、請求人に対して初めて電話連絡をした。その際、本件調査担当職員が自ら税務職員であることを伝えた上で、「個人で事業を行っていますか。」と質問したことに対し、請求人は、「会社員です。」と回答した。
・請求人は、平成24年から平成28年分の所得税等の申告書を法定申告期限までに提出しなかった。
・請求人は、平成26年から平成28年分の所得税等の申告書を法定申告期限までに提出しなかった。
・請求人の所得税の申告状況
◎平成24年分←無申告
◎平成25年分←無申告
◎平成26年分←無申告
◎平成27年分←無申告
◎平成28年分←無申告
・請求人の消費税の申告状況
◎平成26年分←無申告
◎平成27年分←無申告
◎平成28年分←無申告
・調査日←平成30年1月31日
・処分日←平成30年2月28日
・所得税等の調査対象期間
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日←処分日平成30年2月28日から5年以内
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日←処分日平成30年2月28日から4年以内
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月15日←処分日平成30年2月28日から3年以内
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月15日←処分日平成30年2月28日から2年以内
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月15日←処分日平成30年2月28日から1年以内
・消費税等の調査対象期間
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月31日←処分日平成30年2月28日から3年以内
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月31日←処分日平成30年2月28日から2年以内
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月31日←処分日平成30年2月28日から1年以内
(2)争点
・争点1、本件各住民税申告書は、請求人の意思によって提出したものか否か
・争点2、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はあるか
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
明記はありませんが、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る行動した判決、を引用したと推測されます。
(4)争点の審判所の判断
◎争点1、本件各住民税申告書は、請求人の意思によって提出したものか否か
・本件平成25年度住民税申告書は、署名欄の「D1」なる手書きで記載された文字の筆跡は請求人の筆跡と明らかに相違していると認められる。
・したがって、本件平成25年度住民税申告書は、請求人の意思による押印がされたものとは認められず、また、請求人の意思で提出したものと認めることもできない。
・本件平成26年度住民税申告書の押印欄は、請求人の意思で押印されたものと強く推認される。
・したがって、本件平成26年度住民税申告書は、請求人の意思に基づき作成かつ提出されたものと認められる。
◎争点2、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し」に該当する行為はあるか
・本件質問応答記録書の内容を検討するに、請求人は、平成26年度の住民税の申告状況を尋ねる質問に、利益があることがH市役所に知られると税務署にも知られてしまうのが嫌だったと申述する一方、「正直にお話ししますと、どのような経緯で申告したかについては、昔のことですので、覚えていません。」などとも申述し、同一の文書である本件質問応答記録書の中で、請求人の申告状況に関する申述が不合理に変遷しているといわざるを得ない。そして、この住民税の申告状況に関する申述内容は原処分庁が主張する請求人の虚偽申告に係る動機となっている事柄であって、これは原処分庁が主張する論拠の根幹部分というべきであり、その根幹部分に係る申述が、同一の文書である本件質問応答記録書の中で不自然に変遷していると評価せざるを得ない。
・本件質問応答記録書の申述のように、請求人があえて住民税の申告書を提出するためだけにわざわざH市役所に赴いたというのも不自然である上、請求人が、そもそもいかなる目的のために住民税の申告書の提出が必要だったのかという点が本件質問応答記録書では明らかにされていないため、本件質問応答記録書では重要な部分に関する解明が不足しており、その申述内容も不自然かつ不合理であると評価せざるを得ない。
・請求人の申述が信用できない以上、請求人が確定申告の必要性を認識していたとしても、その認識だけでは、本件平成26年度住民税申告書の提出について、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認めることはできないというべきである
・本件集計表を客観的にみると、本件事業によって生じる売上等を記載する欄があるものの、本件事業の形態から想定される費用である通信費、宿泊費、車両費及び保険料等を記載する欄がなく、本件事業の利益を計算する目的としては内容が不足しているといわざるを得ない。
・そうすると、請求人が主張するように、本件集計表の作成目的は、本件事業における請求及び支払を正確に行うために作成していたものとも評価できるものであって、利益を把握するためのものではなかったと認められる。
・したがって、本件においては、請求人が本件集計表等の作成をしていたからといって、それが確定申告の必要性を基礎づける一つの要素とはなり得ても、それ以上に、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することはできず、原処分庁の主張には理由がない。
・確かに、請求人が、本件電話答弁において、本件調査担当職員に対し、「会社員です。」と答えたことは事実である。
・しかしながら、請求人は、詐欺などの可能性もあり、詳細にわたる回答を避けつつ答弁していた旨答述するところ、社会通念に照らしてみれば、その答述内容を一概に不合理であると評価することはできない。
・また、請求人は、本件電話答弁をした当時、G社から給与として収入を得ていたことが認められるのであって、このことも併せ考えれば、請求人が、本件調査担当職員に対し「会社員です。」と答えたことだけを捉えて、虚偽の答弁であると評価することはできず、このような本件電話答弁について、請求人が、所得税等及び消費税等の確定申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価することもできない。
(5)結果
・所得税等
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日←処分日平成30年2月28日から5年以内←重加算税賦課処分を取り消す
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日←処分日平成30年2月28日から4年以内←重加算税賦課処分を取り消す
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月15日←処分日平成30年2月28日から3年以内←重加算税賦課処分を取り消す
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月15日←処分日平成30年2月28日から2年以内←重加算税賦課処分を取り消す
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月15日←処分日平成30年2月28日から1年以内←重加算税賦課処分を取り消す
・消費税等の調査対象期間
◎平成26年分←法定申告期限平成27年3月31日←処分日平成30年2月28日から3年以内←重加算税賦課処分を取り消す
◎平成27年分←法定申告期限平成28年3月31日←処分日平成30年2月28日から2年以内←重加算税賦課処分を取り消す
◎平成28年分←法定申告期限平成29年3月31日←処分日平成30年2月28日から1年以内←重加算税賦課処分を取り消す
当該裁決のさらなる要約
・請求人は、所得税、平成24、25、26、27、28年分が無申告であった。
・請求人は、消費税、平成26、27、28年分が無申告であった。
・請求人は、理由は不明であるが、平成25、26年の住民税申告書を提出していた。
・原処分庁の主張は以下である
◎請求人は、所得を把握されない為にあえて住民税について積極的な虚偽の申告をした
◎請求人は、住民税以外に税務署にも税金を支払うのが嫌だったと申述したという質問応答記録書が存在する
◎請求人は、パソコンを利用して集計表を作成していた
◎請求人は、調査担当職員からの電話で「会社員です」と答えた
・しかし、原処分庁の主張のいずれも隠ぺい仮装は認めなかった。
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、所得税及び消費税が無申告でした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえない、と弊所が感じた事例です。なぜなら、確定申告書作成の資料は保存しており、確定申告の必要性も認識していただろうと解されるからです。
◎しかしながら、無申告の場合は隠ぺい仮装がなかったとされる傾向があるため、原処分庁は住民税申告書を提出しているという事実や、質問応答記録書によって隠ぺい仮装を創作しようとしたようにも見受けられます。
◎当該裁決は、最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動判決における、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用しています。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
◎当該裁決において、質問応答記録書が作成されています。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
住民税申告書提出の事実や資料や集計表が存在し無申告であっても隠ぺい仮装は無かったと主張すれば重加算税を回避できる可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)