(2025年5月23日作成)

結論

・相続税調査対応税理士報酬を支払う以上に追徴本税及び加算税を減額できるか保証、証明してくださいという希望は困難となります。
・もし仮に相続税調査による本税、追加本税が固定されるのであれば調査前と調査後の加算税の税率差による減額金額と税理士報酬の比較は可能かもしれません。
・無申告案件の場合は一から相続本税を算出するためもともとの本税そのものを比較できない
・過少申告案件であっても申告漏れ財産、例えばどこまでが名義預金と認定されるかにより追加本税も未知となります
・所得税・法人税・消費税の税務調査の場合は複数年の調査ですのでさらに予想が複雑となりますが、相続税調査は単年であるため比較するとまだ予想はできるかもしれません
・ただ事前自主申告は延滞税の減額は明言できることとなります。
・相続税調査を税理士に依頼することは納税額及び加算税額と税理士報酬の比較のみならずその他の税理士による支援が受けることができるという面も含めて税理士報酬を総合的に見ていただけると幸いです。

下記で詳細を記述します。

相続税調査対応税理士報酬を支払う以上に追徴本税及び加算税を減額できるか保証、証明してくださいという希望は困難となります。

掲題通りとなりますが、もっと平易な表現を用いるとすれば、「税理士に頼んだら相続税調査で支払う罰金より税理士に支払う報酬のほうが高いこともあるんじゃないの」という疑問について、となります。

当該疑問について、下記で詳細を記述いたします。

もし仮に相続税調査による本税、追加本税が固定されるのであれば調査前と調査後の加算税の税率差による減額金額と税理士報酬の比較は可能かもしれません

税法には加算税というペナルティ罰金のようなものが定められています。当該加算税は、申告書・修正申告書の提出のタイミングで税率が変化することとなります。タイミングは大きく分けると下記となります。

・調査通知前に自主修正申告
・調査通知後から調査日までに自主修正申告
・調査を受けての修正申告

まとめると下記の表となります。

過少申告加算税及び無申告加算税の修正申告等提出時期による税率差の表過少申告加算税無申告加算税
課税要件期限内申告について、修正申告・更正があった場合①期限後申告・決定があった場合
②期限後申告・決定について、修正申
告・更正があった場合
法定申告期限等の翌日から 調査通知前まで対象外5%
調査通知以後から
調査による更正等予知前まで
・5%
・(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分)10%
・10%
・(50万円を超える部分)15%
調査による更正等予知以後・10%
・(期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分)15%
・15%
・(50万円超300万円以下)20%
・ (300万円超の部分)30%
重加算税35%40%

(表1)過少申告加算税及び無申告加算税の修正申告等提出時期による税率差の表20250523

上記表を用いた簡易な具体例

・前提条件:本税50万円を隠蔽仮装して期限内申告していたAが調査通知を受けた場合
●税理士に10万円報酬を払って事前自主修正申告したA=税理士報酬10万+50万円×過少申告加算税5%=125,000円
●税理士に依頼せず自力で税務調査対応したA=50万円×重加算税35%=175,000円
●以上から今回は税理士に報酬を支払ってもなお金額的メリットがあった、となります。

しかし、当該具体例においては下記の欠陥があります。
・実際においては税務調査で指摘増加となる本税は調査前においては未知であり本税が変数となる
・隠蔽仮装と認定されるかどうかも調査前においては未知であり加算税率が変数となる

つまり変数×変数、ということで税理士報酬との比較は困難となります。

無申告案件の場合は一から相続本税を算出するためもともとの本税そのものを比較できない

無申告案件は、一から相続税に関する資料を収集し相続税額を確定する作業となります。

・納税者及び税理士が主体的に計算した相続税額本税
・無申告状態のままで相続税務調査を受けて税務調査官が計算した相続税額本税

を比較することが困難となります。

無申告案件において税務調査前に税理士が確定させた本税と税務調査中に調査官が確定させた本税が同額と仮定した場合の比較表※※※令和6年(2024年)1月1日以後に法定申告期限が到来する相続税本税を分解本税を分解本税を分解調査通知後更正予知前50万円以下部分調査通知後更正予知前50万円超部分/更正予知後無申告加算税50万円以下部分更正予知後無申告加算税50万円超300万円以下部分※※更正予知後無申告加算税300万円超部分無申告重加算税税理士報酬負担額との比較のための参考金額税理士報酬負担額との比較のための参考金額税理士報酬負担額との比較のための参考金額
※本税そのものが異なると比較が不可能であるため本税(万円)50万以下50万~300万300万超10%15%20%30%40%合計(万円)①との差額(万円)④との差額(万円)⑦との差額(万円)
①税務調査初日までに事前自主申告した場合500 50 250 200 5 67.5 ---72.5---
②税務調査初日までに事前自主申告せず無申告を指摘された場合500 50 250 200 -7.5 50 60 -117.545--
③税務調査初日までに事前自主申告せず隠ぺい仮装を伴う無申告を指摘された場合(可能性は低いか?)500 50 250 200 ----200200127.5--
④税務調査初日までに事前自主申告した場合1,000 50 250 700 514.25---147.5---
⑤税務調査初日までに事前自主申告せず無申告を指摘された場合1,000 50 250 700 -7.550210-267.5-120-
⑥税務調査初日までに事前自主申告せず隠ぺい仮装を伴う無申告を指摘された場合(可能性は低いか?)1,000 50 250 700 ----400400-252.5-
⑦税務調査初日までに事前自主申告した場合2,000 50 250 1,700 5292.5---297.5---
⑧税務調査初日までに事前自主申告せず無申告を指摘された場合2,000 50 250 1,700 -7.550510-567.5--270
⑨税務調査初日までに事前自主申告せず隠ぺい仮装を伴う無申告を指摘された場合(可能性は低いか?)2,000 50 250 1,700 ----680680--382.5

(表2)無申告案件において税務調査前に税理士が確定させた本税と税務調査中に調査官が確定させた本税が同額と仮定した場合の比較表20250523

仮に本税を500万、1,000万、2,000万円と固定した場合の比較表は上記となります。

考え方の例としては、本税500万円の場合

●調査通知後更正予知前の加算税は72.5万円
●税務調査による更正予知後の加算税は117.5万円
●税理士報酬が117.5万円-72.5万円=45万円以下であれば税理士に依頼してもなお加算税減額金額が上回る、となります。無申告重加算税が課されたと仮定した場合の比較においては200万-72.5万=127.5万以下であれば税理士に依頼してもなお加算税減額金額が上回る、となります。

その他場合も同様に考えます。

過少申告案件であっても申告漏れ財産、例えばどこまでが名義預金と認定されるかにより追加本税も未知となります

過少申告案件は、申告漏れ財産が限定的であるため当該申告漏れ財産価格から速算で追加本税を算出確定することは可能かもしれません。

例えば申告漏れ財産が、家屋、保険金、などであれば評価する人物によって評価額が変動する可能性は低いと解されます。

しかし、評価する人物によって評価額が変動する財産も存在します

・名義預金
・土地の形状による評価

そうすると追加本税を比較することが困難となります。

過少申告案件において税務調査前に税理士が確定させた追加本税と税務調査中に調査官が確定させた追加本税が同額と仮定した場合の比較表※本税を分解本税を分解調査通知後更正予知前50万円以下部分調査通知後更正予知前50万円超部分/更正予知後過少申告加算税50万円以下部分※※更正予知後過少申告加算税50万円超部分過少申告重加算税税理士報酬負担額との比較のための参考金額税理士報酬負担額との比較のための参考金額税理士報酬負担額との比較のための参考金額
※追加本税そのものが異なると比較が不可能であるため追加本税(万円)50万以下50万超5%10%15%35%合計(万円)①との差額(万円)④との差額(万円)⑦との差額(万円)
①税務調査初日までに事前自主申告した場合500 50 450 2.5 45.0 --47.5---
②税務調査初日までに事前自主申告せず過少告を指摘された場合500 50 450 -5.0 67.5 -72.525--
③税務調査初日までに事前自主申告せず隠ぺい仮装を伴う過少申告を指摘された場合500 50 450 ---175175127.5--
④税務調査初日までに事前自主申告した場合1,000 50 950 2.595--97.5---
⑤税務調査初日までに事前自主申告せず過少申告を指摘された場合1,000 50 950 -5.0142.5-147.5-50-
⑥税務調査初日までに事前自主申告せず隠ぺい仮装を伴う過少申告を指摘された場合1,000 50 950 ---350350-252.5-
⑦税務調査初日までに事前自主申告した場合2,000 50 1,950 2.5195--197.5---
⑧税務調査初日までに事前自主申告せず過少申告を指摘された場合2,000 50 1,950 -5292.5-297.5--100
⑨税務調査初日までに事前自主申告せず隠ぺい仮装を伴う過少申告を指摘された場合2,000 50 1,950 ---700700--502.5

(表3)過少申告案件において税務調査前に税理士が確定させた追加本税と税務調査中に調査官が確定させた追加本税が同額と仮定した場合の比較表20250523

仮に追加本税を500万、1,000万、2,000万円と固定した場合の比較表は上記となります。

考え方の例としては、追加本税500万円の場合

●調査通知後更正予知前の加算税は47.5万円
●税務調査による更正予知後の加算税は72.5万円
●税理士報酬が72.5万円-47.5万円=25万円以下であれば税理士に依頼してもなお加算税減額金額が上回る、となります。重加算税が課されたと仮定した場合の比較においては175万-47.5万=127.5万以下であれば税理士に依頼してもなお加算税減額金額が上回る、となります。

その他場合も同様に考えます。

所得税・法人税・消費税の税務調査の場合は複数年の調査ですのでさらに予想が複雑となりますが、相続税調査は単年であるため比較するとまだ予想はできるかもしれません

所得税・法人税・消費税の税務調査の場合においても初回面談での金額的メリットの算定についてはご容赦願っております。こちらのページをご参考ください。

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ただ事前自主申告は延滞税の減額は明言できることとなります

・延滞税は、利子のような加算税であるため早めに自主申告することで加算税額が減額されることは明確です。
・偽りその他不正の行為が認定されるようなケース(その多くは重加算税賦課のケース)は延滞税の有利規定が適用外となりますので、事前自主修正申告による延滞税減額は明言できることとなります。

まとめ

税理士に相続税調査対応を依頼すること=税理士報酬を支払ってもなお金銭的メリットがあること、と思い込みがちですが、そもそも下記のメリットが存在します。

・税理士が税務調査官とのやりとりをしてくれること
・税理士が修正申告の勧奨による申告書の作成をしてくれること
・税理士が相続税調査官の指摘が法的に正しいかどうか判断してくれること
・その他こまごまとしたメリット

相続税調査を税理士に依頼することは納税額及び加算税額と税理士報酬の比較のみならずその他の税理士による支援が受けることができるという面も含めて税理士報酬を総合的に見ていただけると幸いです。