(2024年1月17日作成)(2024年9月9日再編集)
結論
・簡易な接触は行政指導と同様の性質のものである、ということをズバリ結び付けた解説が国税庁及び財務省においても明示されていないため、状況を複雑にしていると解されます。
・特別調査・一般調査・着眼調査は「実地調査」であり、いわゆる税務調査となります。
・しかしまず国税庁は税務調査件数データの資料において簡易な接触と行政指導を結び付けて説明しておりません。
・国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け):問2」においては税務調査以外にも行政指導が存在するという説明はあるが簡易な接触と結びつけていません。
・財務省は「文書・電話による行政指導や来署依頼による面接等により、納税者に対して申告額等の適否の確認や非違事項の是正を行った簡易な接触」として、簡易な接触と行政指導を横並びの性質のものとして解説しています。
・以上より簡易な接触は行政指導と同様の性質のもので税務調査に該当せず、調査通知や事前通知にも該当しないはずです。したがって簡易な接触における加算税は無申告加算税のみであるはずです。
・上記のように、簡易な接触についての意義が周知されておらず、弁護士会から「簡易な接触という名を借りた税務調査はしてはいけない」と要請された事実が存在します。
下記において解説いたします
調査と行政指導の違い
国税庁ホームページ「所得税及び消費税調査等の状況」による解説 | 国税庁ホームページ「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問2による解説 | 財務省による解説 | 性質 | 加算税 | コメント | |
---|---|---|---|---|---|---|
特別調査 | 特別調査は、多額な脱漏が見込まれる個人 を対象に、相当の日数(1件当たり 10日以上を目安)を確保して実施しているものです | - | - | 実地調査(税務調査) | 無申告加算税賦課、過少申告加算税賦課、重加算税賦課の可能性がある | ・「所得税及び消費税調査等の状況」による解説では「簡易な接触は行政指導である」という明言がありません。 ・「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問2による解説では「行政指導を行うことがありそれは簡易な接触というものである」との明言がありません。 ・国税庁は納税者を混乱させています。 ・財務省は行政指導と簡易な接触は横並びのような解説です。 ・弁護士連合会から調査と行政指導を明確に区分すべきという要請がされている |
一般調査 | 高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に深度ある調査を行うもの | - | - | |||
着眼調査 | 資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に実地に臨場して短期間で行う調査です | - | - | |||
簡易な接触 | 簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話によ る連絡又は来署依頼による面接を行い、 申告内容を是正するもの | ・税務調査のほかに、行政指導の一環として、例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ及び法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する場合があります。このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%賦課されます。)。 ・なお、税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。 | 文書・電話による行政指導や来署依頼による面接等により、納税者に対して申告額等の適否の確認や非違事項の是正を行った簡易な接触 | 行政指導 | 無申告加算税賦課の可能性しか存在しないはず |
所得税法人税相続税における実地調査簡易な接触非違割合書面添付割合税理士関与割合平均比較 | 所得税 | 法人税 | 相続税 |
---|---|---|---|
特別・一般・着眼実地調査の合計件数(平均)/件 | 56,862 | 76,000 | 11,228 |
上記非違割合/% | 83.5 | 74.7 | 83.4 |
簡易な接触件数(平均)/件 | 547,849 | 57,600 | 11,789 |
上記非違割合/% | 56.6 | 非公表 | 24.3 |
税理士関与割合(平均)/% | 20.5 | 89.1 | 85.9 |
書面添付割合(平均)/% | 1.4 | 9.4 | 19.7 |
国税庁は税務調査件数データの資料において簡易な接触と行政指導を結び付けて説明しておりません
・令和4事務年度所得税及び消費税調査等の状況←(参考3)簡易な接触とは、原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するものです。←「行政指導の文言無し」
・令和4事務年度法人税等の調査事績の概要←(注1)簡易な接触とは、税務署等において書面や電話による連絡や来署依頼による面接により、納税者に対して自発的な申告内容の見直しなどを要請するものです。←「行政指導の文言無し」
・令和4事務年度における相続税の調査等の状況←実地調査を適切に実施する⼀⽅、⽂書、電話による連絡⼜は来署依頼による⾯接により申告漏れ、計算誤り等がある申告を是正するなどの接触(以下「簡易な接触」といいます。)の⼿法も効果的・効率的に活⽤し、適正・公平な課税の確保に努めています。←「行政指導の文言無し」
上記より、簡易な接触と行政指導を結び付けた解説がありません。
国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け):問2」においては税務調査以外にも行政指導が存在するという説明はあるが簡易な接触と結びつけていません
問2 税務署の担当者から電話で申告書の内容に問題がないか確認して、必要ならば修正申告書を提出するよう連絡を受けましたが、これは調査なのでしょうか。
調査は、特定の納税者の方の課税標準等又は税額等を認定する目的で、質問検査等を行い申告内容を確認するものですが、税務当局では、税務調査のほかに、行政指導の一環として、例えば、提出された申告書に計算誤り、転記誤り、記載漏れ及び法令の適用誤り等の誤りがあるのではないかと思われる場合に、納税者の方に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請する場合があります。このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%賦課されます。)。
なお、税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。
・調査のほかに行政指導が存在することは明示しています。
・しかし、簡易な接触=行政指導であることを結び付けた説明がありません。
・ただ、調査のほかに行政指導が存在し、いずれに当たるかを明示する、ということは説明があります。
財務省は「文書・電話による行政指導や来署依頼による面接等により、納税者に対して申告額等の適否の確認や非違事項の是正を行った簡易な接触」として、簡易な接触と行政指導を横並びの性質のものとして解説しています
令和4事務年度国税庁実績評価書 業績目標1-4-1(適正申告の実現及び的確な調査・行政指導の実施)のp97より
「調査等の件数」の内書きは、個人課税課、資産課税課において、文書・電話による行政指導や来署依頼による面接等により、納税者に対して申告額等の適否の確認や非違事項の是正を行った簡易な接触を除いた件数です。という説明があります。
上記から財務省は、行政指導と簡易な接触を同様の性質なものとして横並びで解説しています。
以上より簡易な接触は行政指導と同様の性質のもので税務調査に該当しないと解されます。
以上より簡易な接触は行政指導と同様の性質のもので税務調査に該当せず、調査通知や事前通知にも該当しないはずです。したがって簡易な接触における加算税は無申告加算税のみであるはずです。
上記のように、簡易な接触についての意義が周知されておらず、弁護士会から「簡易な接触という名を借りた税務調査はしてはいけない」と要請された事実が存在します。
日弁連総第61号、2017年(平成29年)2月15日において、日本弁護士連合会の会長である中本和洋から、国税庁長官である迫田英典へ、税務調査における適正手続保障に関する要請書として、「行政指導」を名目とする納税義務者の呼び出しが,課税当局の言う「簡易な接触」による事実上の「税務調査」を可能にしている、として税務調査における適正手続保障に関する要請書、が提出されました。
まとめ
・簡易な接触は行政指導であり調査ではありません。
・そもそもまず、調査か行政指導か、を税務署側は明示しなければいけません。