(2020年3月3日作成)(2023年7月27日再編集)(2024年4月22日再編集)(2024年7月5日再編集)
結論
・調査通知の段階では更正の予知は無いと解されます。
・調査通知の段階における更正の予知の有無について、国税庁は「原則として」更正の予知無し、という表現をしているが、国税不服審判所公表相続税裁決が述べた法の趣旨からすれば、調査通知の段階では「必ず」更正の予知無しでなければ趣旨に沿っていないと解されます。
・更正の予知有り=調査着手説が有力ですが、開示請求により取得可能な国税庁の内部資料である、資料第3-2号実地調査マニュアル(調査初任者用)令和4年8月4日、は「端緒把握説≒客観的確実性説」を参考として記述していますが、これが何を意味するのか不明でした。しかし、税務調査手続等に関するFAQ(職員用)の問1-18から、その意味を推測しましたが、当該推測が正しいかどうかは研究中となります。事前自主修正申告については調査着手説をとるほうが安全と解されます。
・税務調査官から「臨場調査に先立って電話で調査を開始します」という申出は必ず拒否してください、そうでなければ臨場調査の前の電話で更正の予知が発生することになります(重要)
・税務調査官から調査開始宣言もなく、申告内容の聞取りを開始する行為は必ず拒否してください、そうでなければ臨場調査の前の電話で更正の予知が発生することになります(重要)
下記で詳細を記述します。
調査通知の段階における更正の予知の有無について
調査通知の段階では更正の予知は無いと解されます。
・根拠1としては、更正の予知について言及している国税庁の事務運営指針が存在します
・根拠2としては、国税不服審判所公表相続税裁決が述べた法の趣旨からすれば、調査通知後から調査初日の前日までに自主修正申告が可能な期間を設けなければ、法の趣旨に沿わない、と解されるためです。
根拠1:更正の予知について言及している国税庁の事務運営指針
・申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針) 、第1の1(注)
・法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)、第1の1(注)
・消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)、第2のⅡの1(注)
より、
(修正申告書の提出が更正があるべきことを予知してされたと認められる場合)
2 通則法第65条第1項又は第5項の規定を適用する場合において、その法人に対する臨場調査、その法人の取引先の反面調査又はその法人の申告書の内容を検討した上での非違事項の指摘等により、当該法人が調査のあったことを了知したと認められた後に修正申告書が提出された場合の当該修正申告書の提出は、原則として、これらの規定に規定する「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当する。
(注) 臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない。
上記のように、「税務調査のための日時の連絡を行った段階で提出された修正申告書は原則として更正を予知してされたものに該当しない、つまり更正の予知無しで提出されたものである」と明記されています。しかし、原則として、という表現にやや疑義が生じます。実際にこの表現により惑わされている税理士及び納税者はたくさんおられるでしょう。
根拠2:国税不服審判所公表相続税裁決が述べた法の趣旨
弊所は相続専門税理士としても活動しております。「相続税の税務調査と重加算税」をテーマに研究していたところ、国税不服審判表公表相続税裁決において、税務調査開始前事前自主修正申告に関する重要な裁決を発見しました。
・隠ぺい仮装を認めなかった国税不服審判所公表相続税裁決の中には調査通知後税務調査開始前の自主修正申告に関する重要な事例が存在した – 全国対応京都の相続専門田中信男税理士事務所 (souzoku-tt.com)
・平成30年調査開始後の自主修正申告だが事前通知後に自主修正申告申し出有りのため更正の予知は無かったとした及び納税者が相続開始前に引出した現金が相続財産に該当すると認識していたとは認められないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決(争点1更正の予知を中心に) – 全国対応京都の相続専門田中信男税理士事務所 (souzoku-tt.com)
まず、当該裁決の重要な前提条件としては下記となります
・当該裁決は、国税通則法平成28年(2016年)改正による平成29年1月以降に法定申告期限が到来するものについては調査通知後かつ更正の予知前の自主修正申告について過少申告加算税が課されることなる前の、平成28年7月に税務調査が行われた平成26年に法定申告期限が到来する相続税の税務調査の事例です。
・したがって当該裁決当時は、調査通知は存在せず事前通知のみが存在していました。
・したがって当該裁決当時は、事前通知後かつ更正の予知前であれば過少申告加算税が賦課されず、重加算税も賦課されないという制度でした。
上記の前提で、国税不服審判所は以下のように判断を明示しました。
当該裁決当時の旧国税通則法65条第5項が、事前通知後かつ更正の予知前であれば過少申告加算税が賦課されない旨を規定しているのは、課税庁において課税標準を調査する等の事務負担等を軽減することができることも勘案して、自発的に修正申告を決意し修正申告書を提出した者に対しては例外的に加算税を賦課しないこととし、もって納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものと解される。
つまり下記のように言い換えることが可能と解されます。
・調査通知後から更正の予知前に納税者が自発的な修正申告を提出することは、課税庁においても事務負担等が軽減されるというメリットが存在するはずである。
・したがって、むしろそのような修正期間を必ず設けないと法の趣旨に反することになるはずである。
以上から弊所は、調査通知の段階では更正の予知は存在しない、発生しない、と解しております。
追記
酒井克彦「裁判例からみる税務調査」p439において、
・和歌山地裁昭和50年6月23日判決
・東京地裁昭和56年7月16日判決
においても同様の趣旨を述べているとの記述がありました。
では更正の予知はいつ発生するのか?
弊所は更正の予知について調査着手説を採用することが妥当すると解しております。
・更正の予知について言及している国税庁の事務運営指針は、調査着手説とも端緒把握説ともとれるような文章となっております。
・調査着手説が妥当すると述べている書籍が多く散見されます。
・国税は、資料第3-2号実地調査マニュアル(調査初任者用)令和4年8月4日、は端緒把握説を参考として記述しているため、端緒把握説を採用している可能性があります。
・しかし、実務上は「いつ端緒を把握したかを認識することは困難」であるため調査着手説を採用するしか方法がない、と解されます。
まず税務調査の段階は下記のフェーズに分解できると考えられます。
①調査通知(税務調査をしたい旨の連絡)があった段階
②税務調査の初日(調査着手説)
③税務調査中(端緒把握説≒客観的確実性説)
調査着手説とは、実地調査が開始された後の修正申告は更正を予知してされたものであるとして加算税が課せられるべきと考える見解です。
端緒把握説は、単に税務職員が調査を開始したというだけでは更正の予知があったと考えるのではなく、当該職員が何らかの非違の端緒となるものを発見する段階より前に提出された修正申告は更正を予知して提出された修正申告ではないとする見解です。
客観的確実性説は、酒井克彦「裁判例からみる税務調査」p443より、端緒把握説の文脈である説、と記述があります。
更正の予知について言及している国税庁の事務運営指針
・申告所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針) 、第1の1(注)
・法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)、第1の1(注)
・消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)、第2のⅡの1(注)
より、
(修正申告書の提出が更正があるべきことを予知してされたと認められる場合)
2 通則法第65条第1項又は第5項の規定を適用する場合において、その法人に対する臨場調査、その法人の取引先の反面調査又はその法人の申告書の内容を検討した上での非違事項の指摘等により、当該法人が調査のあったことを了知したと認められた後に修正申告書が提出された場合の当該修正申告書の提出は、原則として、これらの規定に規定する「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当する。
(注) 臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当しない。
上記の国税庁の事務運営指針は、調査着手説とも端緒把握説ともとれるような文章となっております。
書籍の記述
・酒井克彦「裁判例からみる税務調査」p445、基本的には、更正の予知の解釈に当たっては、端緒把握説が妥当するとしつつも、調査着手説の考え方をも包含した解釈を採る立場に妥当性を見出しうる、と記述がありました。
・谷口勝司・奥田芳彦「詳細加算税通達と実務」p53、実務上は調査開始後に提出された修正申告書については、原則として納税者が更正があるべきことを予知して提出したものとして取り扱っているところである、と記述がありました。
以上から書籍は、調査着手説、が妥当すると述べていると解されます。
資料第3-2号実地調査マニュアル(調査初任者用)令和4年8月4日
資料第3-2号実地調査マニュアル(調査初任者用)令和4年8月4日のp81は、参考として下記を記述しています。
「更正があるべきことを予知されたものでないとき」とは、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階(いわゆる「客観的確実時期」)に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識したうえで修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないことをいうと解するのが相当である(東京地裁平成24年9月25日東京地裁判決)
以上から国税は、端緒把握説≒客観的確実性説を採用していると解されます。
なぜ国税は、端緒把握説≒客観的確実性説を採用しているのか、弊所独自の推測
税務調査手続等に関するFAQ(職員用)の問1-18において、事前通知を行った後に、調査を効率的に実施する観点から、実際に臨場して調査を開始する前に納税者の許可を得て帳簿等の一部を徴求し預かる場合の調査を開始する日時は、「徴求する日」とありました。当該状況をイメージすると、納税者は帳簿が徴求されて、納税者の目の前ではないところで調査が始まって、税務調査官が納税者から離れた場所で調査を行い非違を見つけた状態で、「更正の予知があった」とすることは妥当しない可能性も存在するため、端緒把握説≒客観的確実性説を採用している、と推測しました。
いずれにせよ、納税者、税理士は調査着手説として心構えるしか方法論はありません
端緒把握説≒客観的確実性説は不明点が多いところから、その一歩手前である調査着手説を採用するしかない、と弊所は解しております。
国税不服審判所が「更正の予知」としてまとめているカテゴリーの公表裁決は、あまり参考になりませんでした、2024年/令和6年6月18日公表裁決において重要な事例が公表されました
<用語解説>
・税務署長等が行った処分→原処分
・原処分を行った税務署長や国税局長など→原処分庁
●昭和57年3月26日裁決(平成23年事前通知法令適用前、平成28年調査通知制度適用前)
調査担当者が電話で調査日時の取決めをした日後2日を経過して修正申告書の提出があり、更に2日を経過した後に調査があった事実などからみて「更正があるべきことを予知して」なされた申告ではない、と判示しました。
●平成8年9月30日裁決(平成23年事前通知法令適用前、平成28年調査通知制度適用前)
本件では申告もれの土地譲渡について具体的に指摘した来署依頼状の送付後に修正申告書が提出されているから、修正申告は調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたというべきである、と判示しました。
●平成12年8月31日裁決(平成23年事前通知法令適用前、平成28年調査通知制度適用前)
原処分庁は、本件確定申告書の内容を検討した結果、請求人には配偶者特別控除の規定が適用されず、結果として過少申告になっていることを把握し、その是正を行うために請求人に本件はがきを送付し、来署を依頼したこと、その後、原処分庁は、請求人が来署しないため、修正すべき内容を記入した本件修正申告書用紙を請求人に送付し、請求人はこの本件修正申告書用紙に署名押印して原処分庁に提出したことが認められる。
以上の事実によれば、本件において納税者宅に赴く等の直接的な調査までは行われていないが、原処分庁が確定申告書を精査検討して過少申告の事実を把握した事実が認められ、このことは国税通則法第65条第5項に規定する「調査」に該当すると認められるし、また、本件修正申告書の提出は、修正すべき内容を記入した本件修正申告書用紙の原処分庁からの送付を受け、本件確定申告書の誤りを原処分庁から指摘されたことによるものであり、同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないというべきである、と判示しました。
●平成14年2月25日裁決(平成23年事前通知法令適用前、平成28年調査通知制度適用前)
原処分に係る調査担当者が請求人の申告内容を精査検討の結果、請求人の関与税理士に対して、電話により質問及び指摘しており、その後に本件修正申告書が提出されていることからすれば、本件修正申告書の提出は、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたというべきであり、過少申告加算税の賦課決定処分は適法である、と判示しました。
●平成22年6月22日裁決(平成23年事前通知法令適用前、平成28年調査通知制度適用前)
調査開始前に、請求人から関与税理士に従業員の横領行為発覚に伴う修正申告書の作成を依頼し、調査初日、同税理士から調査担当者に対して事実関係を説明するなどした後の修正申告書の提出は、「更正があるべきことを予知してされた」修正申告書の提出には当たらない、と判示しました。
●平成23年5月11日裁決(平成23年事前通知法令適用前、平成28年調査通知制度適用前)
請求人は、少なくとも事前説明時までに本件水増しのすべてを把握して修正申告をする決意をし、事前説明の際には面談職員らに対して本件水増しについて説明した上で調査を求めており、それに基づいて調査が行われたと認められることから、請求人は自発的に修正申告書を提出する決意を有しており、その決意は事前説明において客観的に明らかになったものということができる。そうすると、本件修正申告書の提出は、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされた修正申告書の提出には当たらない、と判示しました。
原処分庁所属の調査担当職員は、税務署における資料の調査により、請求人の給与所得の申告が漏れているものと判断し、その判断に基づいて、尋ねたい事項及び持参を求める書類を具体的に明記した本件文書を請求人に送付し、その後の電話でも本件文書と同じ内容を告げており、これらの一連の過程は、証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て決定に至るまでの判断過程の一端であるから、「調査」があったと認められる。そして、請求人は、調査があったことを端緒として、給与所得についての修正申告をしなければ、調査が進行し、やがて原処分庁が請求人に対する更正処分を行うであろうことを予知し、その上で本件修正申告書を提出したものと認められるから、本件修正申告書の提出は、「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しない 、と判断しました。
●令和5年12月7日裁決(令和5年事前通知及び調査通知導入後であっても行政指導か税務調査であるか明示せずかつ税務調査開始宣言をせずに初回電話で予想されうる非違項目の内容を確認することにより更正の予知を発生させたことが許された裁決)(事前通知及び調査通知導入後)
税務調査官から「臨場調査に先立って電話で調査を開始します」という申出は必ず拒否してください、そうでなければ臨場調査の前の電話で更正の予知が発生することになります(重要)
税務調査官が調査日時の変更の申出や税務調査専門税理士への依頼の事実に感づくと、更正の予知を発生させて事前自主修正申告を妨害するような可能性もあるためご注意ください
こちらのページをご参考ください。
・調査日程を変更することはできるのでしょうか?
・国税不服審判所公表相続税裁決の中には更正の予知の有無の判断及び調査日時変更の交渉に関係する重要な事例が存在した
税務調査官から調査開始宣言もなく、申告内容の聞取りを開始する行為は必ず拒否してください、そうでなければ臨場調査の前の電話で更正の予知が発生することになります(重要)
こちらのページをご参考ください。
国税不服審判所公表裁決において税務署からの初回電話と調査開始宣言と更正の予知の関係性に関する重要な事例が存在した
まとめ
・更正の予知は調査着手説により調査通知の段階では存在しない、と考えることが妥当すると解されます。
・しかし初回電話における調査開始宣言は拒否、調査開始宣言もない聞取りは拒否、が前提となります。
過少申告かつ偽りその他不正の行為、隠ぺい仮装に心当たりがある方で調査通知があった方、あきらめないでください、調査通知後から調査日の前日までに自主修正申告をすれば重加算税を回避できることが国税通則法第68条1項に定義づけられています!(こちらの解説ページをご参考ください)
税務署から電話があっても慌てないでください!調査開始前であればまだ対応策は残されております。弊所にご連絡ください!