(2024年9月25日作成)
結論
・立証責任が課税庁側にあるのか納税者側にあるのかについては国税通則法等では明文化されておらず判例や論文や学者が課税庁側にあると述べていると解されます。
・領収書等の証拠資料が不存在の場合にメモ書きで所得税法上又は法人税法上は認められる可能性があり消費税法上の仕入税額控除は基本的に認められません。
・領収書等の証拠資料が不存在の場合にメモ書きで所得税法上又は法人税法上の経費と認められるかどうかと申告済みであるか無申告であるかと立証責任は密接に関係していると解されます。
・納税者が申告することは、税務署側に立証責任を負わすこととも言い換えることが可能かもしれません。反対に無申告であることは納税者が不利となる傾向が強まっております。
下記で詳細を記述します。
立証責任が課税庁側にあるのか納税者側にあるのかについては国税通則法等では明文化されておらず判例や論文や学者が課税庁側にあると述べていると解されます
弊所は、税務調査における立証責任は原則として課税庁側が負う、と結論づけました。根拠は下記です。
・ネット検索調べの結果
・書籍調べの結果
ネット検索調べの結果
ネット検索調べの結果は下記でした。
・立証責任についての根拠条文を明示することなく、判例が課税庁側にあると述べている、という記述が散見された
・複数の見解があるものの、いずれの見解によっても原則として課税庁が証明責任を負うと考えられてる、という記述が散見された
・国税通則法24条の更正、が立証責任の法的根拠だ、という記述もみられた
書籍調べの結果
弊所は下記の書籍を参考としました。
・谷原誠「税務のわかる弁護士が教える税務調査における重加算税の回避ポイント」ぎょうせい(令和元年12月1日)
・久保憂希也「元国税調査官が解説実例・判例で学ぶ税務調査の深奥」マトマ出版(2013年1月30日)
・谷原誠「税務のわかる弁護士が教える税務調査における重加算税の回避ポイント」ぎょうせい(令和元年12月1日)p131-133より
・久保憂希也「元国税調査官が解説実例・判例で学ぶ税務調査の深奥」マトマ出版(2013年1月30日)p82-p90
領収書等の証拠資料が不存在の場合にメモ書きで所得税法上又は法人税法上は認められる可能性があり消費税法上の仕入税額控除は基本的に認められません。
領収書等を紛失した場合の税法上の取り扱いは下記となります。
・所得税法上及び法人税上は、領収書等が存在しなければ経費が認められないという法律は無いためメモ書きでも認められるとされています。しかし望ましくはないという考え方です。
・消費税法上における仕入税額控除の要件において、領収書等が存在しなければ認められないという規定があるため、認められないこととなります。例外として一定の限られた取引のみ不存在で可能となります。
書籍を参考とした領収書等の証拠資料が不存在の場合の実務上の取り扱い
下記の書籍を参考としました。
・内田敦「税理士のための個人事業主・フリーランスの税務調査実例&対応ガイド」税務経理協会(令和2年2月15日)
・大村大次郎「フリーランス&個人事業主でお金を残す!元国税調査官のウラ技第4版」㈱技術評論社(2017年10月21日)
・内田敦「税理士のための個人事業主・フリーランスの税務調査実例&対応ガイド」税務経理協会(令和2年2月15日)p91-92より
・大村大次郎「フリーランス&個人事業主でお金を残す!元国税調査官のウラ技第4版」㈱技術評論社(2017年10月21日)p165より
領収書等の証拠資料が不存在の場合にメモ書きで所得税法上又は法人税法上の経費と認められるかどうかと申告済みであるか無申告であるかと立証責任は密接に関係していると解されます
下記の表をご参考ください。
立証責任について申告済案件及び無申告案件 | 税務署に否認指摘の余地を与える行為 | 所得税又は法人税における経費否認の立証責任 | 消費税における経費否認の立証責任 |
---|---|---|---|
申告書提出済案件 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在し振込払いであった | 否認指摘の余地はほとんどなし | 否認指摘の余地はほとんどなし |
〃 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在するが現金払いであった | 金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う | 金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う |
〃 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在せず納税者が作成したメモのみで現金払いであった | 存在及び金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負うが納税者も立証すべきとの意見が散見される | 仕入税額控除の要件を満たさないことが法的に明らか |
〃 | 社長妻のタイムカードが存在し、役員報酬100万円は振込 | 否認指摘の余地はほとんどなし | 消費税不課税 |
〃 | 社長妻のタイムカードが存在せず、役員報酬100万円は振込 | 存在に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う | 消費税不課税 |
無申告案件/令和4年(2022年)分以前 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在し振込払いであった | 無申告税務調査時における経費主張について、否認指摘の余地はほとんどなし | 無申告税務調査時における経費主張について、否認指摘の余地はほとんどなし |
〃 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在するが現金払いであった | 無申告税務調査時における経費主張について、金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う | 無申告税務調査時における経費主張について、金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う |
〃 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在せず納税者が作成したメモのみで現金払いであった | 納税者が立証責任を負うとの意見が散見される | 仕入税額控除の要件を満たさないことが法的に明らか |
無申告案件/令和5年(2023年)分以後 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在し振込払いであった | 無申告税務調査時における経費主張について、否認指摘の余地はほとんどなし | 無申告税務調査時における経費主張について、否認指摘の余地はほとんどなし |
〃 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在するが現金払いであった | 無申告税務調査時における経費主張について、金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う | 無申告税務調査時における経費主張について、金額100万円に疑義があり経費否認するのであれば税務署が立証責任を負う |
〃 | 外注先が発行した100万円の領収書が存在せず納税者が作成したメモのみで現金払いであった | 後出し簿外経費否認規定より認められない、例外的に認められることもある | 仕入税額控除の要件を満たさないことが法的に明らか |
(表1)立証責任について申告済案件及び無申告案件
上記の表で改めて解説する点は下記となります。
・外注先が発行した100万円の領収書が存在せず納税者が作成したメモのみで現金払いであった場合の所得税法上及び法人税法上の経費計上可能性について
●申告済み案件の場合は、税務署側が立証責任を負い、補助的に納税者も負う、と解されます。
●無申告案件で令和4年(2022年)分以前は、納税者が立証責任を負う、と解されます。
●無申告案件で令和5年(2023年)分以後は、基本的に後出し簿外経費否認規定より認められない、例外的に税務署が積極的に調査してくれれば認められることもある、と解されます。
納税者が申告することは、税務署側に立証責任を負わすこととも言い換えることが可能かもしれません。反対に無申告であることは納税者が不利となる傾向が強まっております
納税者が申告を行うということは下記で言い換えられるかもしれません。
・納税者が税務署に対して立証責任を負わす
・納税者が税務署に対して先制攻撃をすることにより税務署は後手に回る
反対に無申告であることは納税者が後手に回ることになります。
まとめ
・基本的に立証責任は税務署に存在すると解されます。
・しかし証拠が弱い場合、無申告の場合は納税者に立証責任が移ると解されます。