(2023年11月16日作成)

当該ページの活用方法

・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる

令和3年3月24日裁決のオリジナルのあだ名

令和3年虚偽支払調書の作成は隠ぺい仮装を認め事業無関係費用の過大計上は隠ぺい仮装を認めなかった裁決

当該裁決のまとめ

前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。

裁決の内容、要約、編集
(1) 事案の概要
・本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税等の修正申告を行ったところ、原処分庁が、請求人から所得税等の確定申告書作成の依頼を受けた第三者が事実を仮装して確定申告書を提出し、当該第三者の行為は請求人の行為と同視できるとして、請求人に対して重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該確定申告書は上記第三者が独断で作成したものであり、請求人の行為と同視できないなどとして、原処分のうち重加算税の取消しを求めた事案である。
・請求人は、F社に所属するホステスであり、F社は請求人の所得税等を源泉徴収していた。
・請求人は平成28年についてはある税理士に確定申告書の作成を依頼した。
・請求人は平成29年についてはHに確定申告書の作成を依頼した。
・請求人は、本件平成29年分真正支払調書をHに渡したが、Hは平成30年3月15日までに確定申告書を作成しなかった。
・Hは、請求人に係る本件法人名義の虚偽の内容の「本件平成29年分虚偽支払調書」を作成の上、平成29年分の所得税等の確定申告書(以下「本件平成29年分申告書」という。)及び平成29年分所得税青色申告決算書(一般用)(以下「本件平成29年分決算書」という。)を作成し、平成30年5月10日、本件平成29年分虚偽支払調書を添付して、本件平成29年分申告書及び本件平成29年分決算書を原処分庁に提出した。
・請求人は、平成31年1月下旬、Hに対し、平成30年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出を依頼し、F社作成の「本件平成30年分真正支払調書」を渡した。
・Hは、請求人に係る本件法人名義の虚偽の内容の本件平成30年分虚偽支払調書を作成の上、請求人の平成30年分の所得税等の確定申告書(以下「本件平成30年分申告書」といい、本件平成29年分申告書と併せて「本件各申告書」という。)及び平成30年分所得税青色申告決算書(一般用)(以下、本件平成29年分決算書と併せて「本件各決算書」という。)を作成し、平成31年2月7日、本件平成30年分虚偽支払調書を添付して、本件平成30年分申告書及び上記平成30年分所得税青色申告決算書を原処分庁に提出した。
・調査日→令和元年5月28日
・処分日→令和元年11月29日
・所得税等の調査対象期間
◎平成29年分←法定申告期限平成30年3月15日←処分日令和元年11月29日から2年以内
◎平成30年分←法定申告期限平成31年3月15日←処分日令和元年11月29日から1年以内

(2)争点
・争点0、本件各虚偽支払調書の作成行為は、過少申告行為そのものとは別の隠蔽又は仮装行為に該当するか。
・争点1、Hは、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の過大計上につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行ったか否か。
・争点2、本件各申告書の提出に係るHの行為は、請求人の行為と同視できるか否か。

(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
・裁決分に参照と明記したものは、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る行動した判決の前半部分の過少申告とは別に隠ぺい仮装と評価すべき行為が存在、の部分を引用したと明記があります。
・裁決分に明記はなくそのまま引用しているわけではないが、恐らく参考としているものとして、最高裁平成18年4月20日判決=オリジナル命名:最高裁平成18年税理士の不正行為を納税者と同一視できない判決

(4)争点についての主張や認定事実
・原処分庁の主張
◎Hは、本件各年分において、請求人からの所得税等の確定申告書の作成依頼を受けて、源泉徴収税額を実際より多く記載した本件各虚偽支払調書を偽造したほか、適当に調整した金額を必要経費に算入した試算表(以下「本件各試算表」という。)をそれぞれ作成した上で、これらに基づいて本件各申告書を作成し、原処分庁に提出した。
◎納税者は、他人に申告を委任する場合に、誠実に受任者を選任し、適法に申告するように受任者を監視・監督すべきところ、請求人はこれを怠ったといえるから、Hの行為は、請求人の行為と同視することができる。
・認定事実
◎請求人は、Hから、受け取った分だけ経費にするとして、多くの領収書類を渡すように指示を受け、平成30年2月8日、Hと喫茶店で面会した際、Hに対し、本件チェックリスト等とともに、Hの上記指示に沿って、多数の領収書類を渡した。また、請求人は、同日、確定申告書の作成及び提出に係る費用を支払って、Hから「J」名義の本件領収書を受け取った際、Hから、本件領収書の作成年月日を平成29年12月25日とした理由について、領収日付を平成29年中とすることによって同年分の必要経費として計上することができる旨の説明を受けた。
◎請求人は、本件平成29年分申告書の提出によって受領した還付金が、税理士に作成を依頼した平成28年分の所得税等の確定申告書の提出によって受領した還付金と比べて○○○○円程度多かったことから、平成30年分の所得税等の確定申告書の作成及び提出についても、引き続きHに依頼することとした。
◎請求人は、本件調査開始後の令和元年6月14日、Hから、平成30年分の領収書類等の返却を受けたところ、その中には、事業との関連が不明なもののみならず、支払者が請求人でないものや、事業用ではないことが明らかなもの(旅行代金やテーマパークでの支払、ファーストフード店等での飲食費、日用品や請求人の子の学校関連の支払等に係るもの)が多数含まれていた。
◎なお、Hは、本件各申告書に係る試算表(本件各試算表)もパソコンで作成したが、本件各申告書の作成後には、もはや必要がないと考え、そのデータを削除し、また、これを紙に出力したものも保管せず、請求人を含めた他者に見せることもなかった。

(5)争点0、本件各虚偽支払調書の作成行為は、過少申告行為そのものとは別の隠蔽又は仮装行為に該当するかの審判所の判断
Hは、過大な源泉徴収税額を記載した本件各虚偽支払調書を作成した上で、これに基づいて本件各申告書を作成し、本件各申告書に本件各虚偽支払調書を添付して原処分庁に提出しており、この本件各虚偽支払調書の作成行為は、過少申告行為そのものとは別の隠蔽又は仮装行為に該当する。

(6)争点1、Hは請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の過大計上につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行ったか否か、の審判所の判断
・本件各試算表は、本件各申告書及び本件各決算書と同様に、架空の過大な必要経費の額が記載され、事実がわい曲されたものであったと認められる。
・しかしながら、本件各試算表は、H自身が本件各申告書を作成するためだけに一時的に利用した補助資料の域を出るものではないというほかなく、本件各試算表の作成が、本件各申告書の作成及び提出とは別の行為に該当すると認めることは困難である。以上からすると、本件試算表における必要経費の過大計上は、過少申告行為である本件各申告書の作成及び提出行為とは別の行為とはいえず、よって、Hが、請求人の本件各年分の事業所得に係る必要経費の計上につき、過少申告行為そのものとは別に、事実の隠蔽又は仮装と評価すべき行為を行ったとはいえない。

(7)争点2、本件各申告書の提出に係るHの行為は、請求人の行為と同視できるか否か。
・請求人は、Hが税理士と信じたと主張したが、その他、本件全証拠によっても、本件各申告書の提出前の時期に、Hが税理士であると信じるに足りる事情があったことはうかがわれない。
・Hは、請求人の依頼を受けるに際し、安い報酬で領収書を受け取った分だけ経費を計算すると述べるなど、一般的な税理士であればしないような言動をしていた。
・請求人は、Hの指示に沿って、明らかに事業とは関連性のない領収書類も含めてHに渡したと認められる(なお、請求人がこのような領収書類を渡したことは、本件調査において、これらの申述の信用性に疑義を生じさせる具体的事情はうかがわれないこと、残存している平成30年分の請求人の領収書だけでも、旅行代金やテーマパークでの支払、ファーストフード店等での飲食費、日用品や請求人の子の学校関連の支払など明らかに事業と関連性のないものが多数含まれており、これらの領収書類の全てが、請求人がHに渡したものではないと認めるに足りる証拠はないことから、上記のとおり認定することができる。)ほか、請求人は、その面前で、Hが本件領収書の作成年月日を偽って事実を仮装したことを確認し、Hから、このように事実を仮装することで本件領収書に記載の金額を平成29年分の必要経費とすることができる旨の説明を受けたにもかかわらず、これを黙認したものである。
・請求人は、Hが、請求人の確定申告につき、事実の隠蔽又は仮装行為を行うことを認識し、又は認識することができたものと認められる。
・以上からすると、請求人は、適法な申告がされるようにHを適切に監督せず、かつ、是正の措置を講ずることができたにもかかわらず、請求人においてこれを防止せずに隠蔽、仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたものと認められる。したがって、本件各申告書の作成及び提出に係るHの行為は、請求人の行為と同視することができる。

(8)結果
・本件虚偽支払調書は隠ぺい、仮装と認められるから本件各年分の源泉徴収税額の過大計上については重加算税の賦課要件を満たしている。
・本件各年分の事業所得に係る必要経費の過大計上については重加算税の賦課要件を満たしていない。
・源泉徴収税額の過大計上については、請求人の行為と同視できる。
・平成29年、平成30年の重加算税賦課決定処分の一部を取消す。

当該裁決のさらなる要約

・ホステスである請求人は、税理士無資格者Hに確定申告の依頼をした。
・Hは請求人について虚偽支払調書を作成した。
・Hは請求人の事業無関係の費用を過大計上した。
・国税不服審判所は以下のように判断した
◎Hの行為は請求人の行為と同一視できる
◎虚偽支払調書を作成は隠ぺい仮装を認める
◎事業無関係の費用を過大計上したことについては隠ぺい仮装を認めない

弊所独自の考察

・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、所得税が申告済みでした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえない、と弊所が感じた事例です。なぜなら、虚偽支払調書を作成しており、事業無関係の費用を過大計上していたからです。しかしながら、事業無関係の費用を過大計上した点は隠ぺい仮装はないとしました。
◎なお、所得税及び法人税の事務運営指針において改ざん等が存在しない経費の過大計上については、隠ぺい仮装としての明示はありません
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと解されます。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計表が存在していたが削除されたと明記があります。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。

・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
事業無関係の経費を過大計上している場合でも重加算税を回避できる可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)