(2023年12月12日作成)(2024年7月12日再編集)
前提条件、弊所が研究した税理士鴻秀明書籍について
・鴻秀明『税務調査のガラパゴス化と重加算税』税務経理協会(平成25年3月20日)
・鴻秀明『税務調査における質問応答記録書の実務対応』清文社(2021年4月20日)
の2冊を読み、研究しました。
結論
・最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決は、査察調査による例外的なものであり通常の調査における重加算税の可否判定に用いるべきではない、総合勘案を安易に用いるべきではない、と税理士鴻秀明は主張しています。
・しかしながら税務調査の現場において、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決における「過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動」をしたと税務調査官が主張するという事実、現在の流れに抗うことは難しいと解されます。
・またさらに、国税不服審判所の裁決の判断おいて、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決における「過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動」を引用して判断されるという事実、現在の流れに抗うことは難しいと解されます。
・納税者の無知、納税者の罪悪感につけこみ、処分庁(税務署長や国税局長など)が、「過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動」を引用した安易な総合勘案による重加算税の賦課を主張してくること、その主張を素直に受け入れることはない、ということは、納税者及び税理士は理解しておくべきと解されます。
下記で詳細を記述します。
最高裁平成7年4月28日判決は、査察調査による例外的なものであり通常の調査における重加算税の可否判定に用いるべきではない、総合勘案を安易に用いるべきではない、と税理士鴻秀明は主張
鴻秀明(平成25年3月20日)『税務調査のガラパゴス化と重加算税』税務経理協会p96-p99の引用
(1)隠ぺい又は仮装行為の要件
イ 事実の隠ぺい・仮装があること
納税者が意識的な過少申告を行ったとしても、隠ぺい又は仮装と評価すべき事実が認められなければ、重加算税対象とはなりません。重加算税に対する世間一般の認識である「悪質な脱税」とはニュアンスが異なることにご留意ください。
ロ 事実の隠ぺい・仮装が故意に行われたこと
隠ぺい・仮装の言葉には、本来、故意という意味合いが含まれています。しかし、重加算税を検討するうえでは重要な要素であり、あえて独立の要件としました。交際費について考えてみます。法人の支出する交際費等の損金不算入制度について、交際費等の範囲から、1人当たり5,000円以下の一定の飲食費が除外されています(ただし所定の書類の保存要件が付されている)。例えば、飲食代として支払った会議費3万円について、実際の参加者が4名であれば、1人当たり7,000円となり、交際費課税がされることになります。法人が参加人数7名とメモして保存していた場合は、1人当たりの飲食費が5,000円以下となり、交際費課税の対象外となります。しかし、税務調査により参加者の人数が虚偽であることが発覚した場合、仮装の事実が認められるから、重加算税対象として、交際費課税の対象となります。しかし、もしそのメモが故意ではなく何らかのミスで書かれたものならば、仮装無し、という判断もあり得ます。ただし、ミスだということを調査官を説得するだけの根拠を示すことは簡単なことではないが、それをきちんと説明し、調査官を納得させることが税理士の仕事となります。
ハ 過少申告の認識は不要
納税者あるいは税理士は「売上除外や架空経費を計上して脱税したわけでもなく、単なる期間損益の問題なのに重加算税はけしからん」と主張することがあります。しかし、それは考え違いであり、重加算税は、脱税とは別の観点(申告納税制度の維持)で賦課されます。大規模法人が重加算税を賦課された場合、その原因となった隠ぺい・仮装行為の多くは、過少申告を行うことを有しないで行われています。営業担当者が事故の成績を調整するために売上の繰延べ、予算制を採用している会社の予算消化のための経費の繰上計上、現業部門で行われる談合資金の捻出等は、過少申告の認識がないままに行われた「隠ぺい・仮装行為」ですが、重加算税対象となります。
ニ 上記イ、ロ、ハにかかわらず、個別に総合勘案する
隠ぺい・仮装の具体的行為がなくても、個別に総合勘案して、重加算税の賦課要件を満たすと判断される場合があります。次の最高裁判決が参考となります。最高裁平成7年4月28日判決。ただし、この事例は査察調査による例外的なものであり、通常の調査における重加算税の可否判定は、上記イ、ロ、ハで行うべきと解されます。
鴻秀明(2021年4月20日)『税務調査における質問応答記録書の実務対応』清文社p135-p138の引用
2、隠ぺい・仮装の範囲の拡大
(1)最高裁平成6年11月22日判決
外形的な隠蔽・仮装の行為がない無申告、つまみ申告は、国税通則法68条を文理解釈する限り、重加算税を課税することは困難であると思慮されます。しかし、最高裁は、隠蔽・仮装の外形的な行為がなくても、個別に総合勘案して、重加算税の賦課要件を満たすと判示しました。この事件では、税務署は具体的な事実の隠蔽・仮装を立証していません。しかし、次のような行為があれば、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、隠蔽・仮装したところに基づき納税申告書を提出した場合に当たると判示しました。
・申告当初から真実の所得金額を隠蔽する意図があった
・所得金額の大部分を脱ろうしていた
・殊更の過少申告
重加算税は刑事罰ではありません。しかし、納税義務者にとっては刑事罰と同等と受け止められる重い制裁です。それにもかかわらず、なぜ、このような拡大解釈をするのか疑問に思います。
(2)最高裁平成7年4月28日判決
事実の隠蔽・仮装を具体的に立証できなくても、総合勘案で隠蔽・仮装を認定する考え方は、判例として定着しています。下記のような事実を総合勘案して、重加算税の賦課要件を満たすと判示しました。
・当初から所得を過少に申告することを意図していた
・その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした
・所得のあることを税理士に対して秘匿していた
・申告義務を熟知しながら申告書に無記載である
この判決は悪質で高額な過少申告をした納税義務者を制裁するために、隠蔽・仮装の範囲を広げたものであるとも解されますが、税務実務に絶大な影響を及ぼしました。特に、「当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」は、国税不服審判所や裁判所で税務署、納税義務者、審判官、裁判官が隠蔽・仮装の事実認定を巡り、決まり文句として、異口同音に繰り返し引用されています。しかし、外形的な隠蔽・仮装がないからといって、総合勘案を安易に適用し、重加算税を賦課すべきではないと考えます。
前記の最高裁平成6年11月22日判決や最高裁平成7年4月28日判決より前の判例では、隠蔽・仮装を拡大解釈せず、その判定に際して、納税義務者の社会性、道徳性などは重視していませんでした。しかし、最高裁平成6年11月22日判決や最高裁平成7年4月28日判決では、外形的な隠蔽・仮装がなくても、一定の条件のもとに隠蔽・仮装を認定し重加算税の賦課を許容しました。
「当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」は、重加算税の賦課要件として広く認知されています。しかし、「申告の意図」や「特段の行動」に明確な基準がなく、その事実認定を巡って、多くの争いが生じています。また、最高裁平成6年11月22日判決や最高裁平成7年7年4月28日判決は、悪質で高額の税金逃れであることを前提として重加算税の賦課を容認したものであると筆者は理解しています。悪質でない納税義務者に対してや少額な過少申告に対しては、この要件を適用すべきではありません。
国税不服審判所は、外部からもうかがい得る特段の行動、の引用を多用しています
こちらのページをご参考ください。
上記のページを改めてまとめると下記となります。
・税務署側=処分庁は、とにかくなんでもかんでも外部からもうかがい得る特段の行動、を連発して主張してくる。
・国税不服審判所は、税務署側=処分庁が主張した外部からもうかがい得る特段の行動が、本当に外部からもうかがい得る特段の行動かどうかを審議、判断する。結果として該当するとしたり、該当しないとしたりするため、結果として基準は曖昧であるとなります。
弊所が事前自主修正申告無し調査開始後対応プランの提供を開始した理由はここにあります
弊所のかつての認識は、
・税務調査開始後における税理士ができることは少ない
・税務調査開始後において重加算税取消を主張することは困難
という認識でした。しかし、国税不服審判所の裁決を研究した結果
・税務署=処分庁が主張する、外部からもうかがい得る特段の行動を濫用した総合勘案による理不尽な重加算税処分が多発しているためそれに反論するサービスは有意義である
と認識を改めました。
まとめ
弊所は、鴻秀明の「総合勘案を安易に適用し、重加算税を賦課すべきではない」という意見に同意します。