(2023年11月23日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
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・ご自身の税務調査の場で活用させる
平成29年8月23日裁決のオリジナルのあだ名
平成29年多忙による売上計上漏れ記憶違いによる申述について隠ぺい仮装は認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
・本件は、医師である審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査を受け、収入の申告漏れ等があったとして
◎平成22年分の所得税及び消費税(隠ぺい仮装が無ければ旧国税通則法では処分の対象期間外)
◎平成23年分の所得税及び消費税
◎平成24年分の所得税及び消費税
◎平成25年分の所得税及び消費税
◎平成26年分の所得税及び消費税
の各修正申告をしたところ、原処分庁が、当該収入の申告漏れは課税要件事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものであるなどとして重加算税の賦課決定処分等の原処分を行ったのに対し、請求人が、事実の隠ぺい又は仮装はないなどとして、原処分のうち
◎平成22年分の所得税及び消費税について全部の取消しを求めるとともに
◎その余の原処分について過少申告加算税相当額を超える部分に相当する額の取消しを求めた
事案である。
・なお、以下では、本件各課税期間について各個別の課税期間をその暦年をもって略称表記し(例えば、平成22年1月1日から平成22年12月31日までの課税期間を「平成22年課税期間」という。)、また、各個別の年分の所得税ないし所得税等と同一暦年の課税期間の消費税等を併せて、その暦年をもって略称表記する(例えば、平成22年分の所得税と平成22年課税期間の消費税等とを併せて、「本件平成22年分諸税」という。)。
・請求人は、医師であり、かつ「D事務所」の屋号で、○○に係る業務を行っている。
・請求人は、「E医院」において内科の医師として勤務し、父が死亡したため、平成26年○月から、同医院の医院長に就任して、同医院を営んでいる。
・請求人は、遅くとも平成18年頃までに、「D事務所」の屋号で、F会と○○契約を締結し、同契約に基づき、G社のf及びg地域に点在する各事業場を巡回し、○○の業務を行い、毎月、報酬及び交通費相当額(以下「本件収入」という。)を収受しており、本件収入は、平成22年分が合計○○○○円、平成23年分○○○○円、平成24年分○○○○円、平成25年分○○○○円及び平成26年分○○○○円であった。なお、F会は、本件収入について源泉徴収を行っておらず、請求人に対して、本件収入に係る支払調書を発行していなかった。
・請求人は、本件平成22年分諸税ないし本件平成24年分諸税について、法定申告期限までにそれぞれ申告したが、平成25年9月から同年12月まで税務調査(以下「前回調査」という。)を受けたことに伴い、平成22年分ないし平成24年分の所得税の各修正申告書及び平成22年課税期間ないし平成24年課税期間の消費税等の各修正申告書をそれぞれ原処分庁に提出した。これに対し、原処分庁は、平成26年1月28日付で、平成22年分ないし平成24年分の所得税及び平成22年課税期間の消費税等について、それぞれ過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
・また、請求人は、平成25年分の所得税等について、法定申告期限までに申告し、平成25年課税期間の消費税等について、法定申告期限までに申告したが、平成26年3月19日、平成25年分の所得税等について、修正申告書を原処分庁に提出した。
・さらに、請求人は、本件平成26年分諸税について、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
・なお、請求人は、本件平成22年分諸税ないし本件平成26年分諸税の上記各期限内申告(以下「本件修正前申告」といい、本件平成22年分諸税の上記各期限内申告を「本件平成22年分諸税修正前申告」という。)において、本件収入(ただし、平成22年2月から同年5月までに支払われた分を除く。)を事業所得の総収入金額及び消費税の課税売上げに算入しなかった。
・請求人は、平成28年2月2日、調査担当職員から、J銀行○○支店の「D事務所代表請求人」名義の普通預金口座(以下「本件預金 口座」という。)に振り込まれた本件収入が申告漏れとなっている等の調査結果の説明を受け、調査担当職員の修正申告の勧奨に基づき、平成22年分ないし平成26年分の所得税又は所得税等の各修正申告書、並びに平成22年課税期間ないし平成26年課税期間の消費税等の各修正申告書を原処分庁に提出した(以下、上記各修正申告書のうち本件平成22年分諸税の各修正申告書を併せて「本件平成22年分諸税修正申告書」といい、本件平成22年分諸税修正申告書に係る各修正申告を併せて「本件平成22年分諸税修正申告」という。)。
・調査日←平成27年10月13日
・処分日←平成28年3月11日
・所得税及び消費税の調査対象期間
◎平成22年分←法定申告期限平成23年3月15日←処分日平成28年3月11日から5年前以内←隠ぺい仮装が無ければ旧国税通則法では処分の対象期間外
◎平成23年分の所得税及び消費税←法定申告期限平成24年3月15日←処分日平成28年3月11日から4年前以内
◎平成24年分の所得税及び消費税←法定申告期限平成25年3月15日←処分日平成28年3月11日から3年前以内
◎平成25年分の所得税及び消費税←法定申告期限平成26年3月15日←処分日平成28年3月11日から2年前以内
◎平成26年分の所得税及び消費税←法定申告期限平成27年3月15日←処分日平成28年3月11日から1年前以内
(2)争点
・争点1、本件修正前申告(平成22年分から平成26年分の期限内申告)は、事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものか。
・争点2、本件平成22年分諸税修正前申告(平成22年分期限内申告)は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか。
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る行動した判決、の外部からうかがい得る行動したという部分を引用したと明記されています。
(4)争点1の審判所の判断、本件修正前申告(平成22年分から平成26年分の期限内申告)は、事実を隠ぺいし又は仮装したところに基づくものか。
・原処分庁は以下のように主張する。
◎請求人は、売上げの入金があったK銀行の預金口座及びL信託銀行の預金口座(以下「本件L信託銀行口座」といい、上記K銀行の預金口座と併せて「本件両口座」という。)の各通帳(以下「本件両口座通帳」という。)のみを提示し、その後、調査担当職員からJ銀行との取引があることを指摘されて、本件預金口座に係る通帳(以下「本件通帳」という。)とは別の同銀行の預金口座に係る通帳を提示したが、本件収入の申告漏れを指摘されるまで本件通帳を提示しなかった。
・請求人は、「E医院」において内科医として勤務し、平成26年○月から医院長として同医院を経営するとともに、複数の企業等に産業医としても勤務し、さらに、「D事務所」の屋号で複数の企業等と○○契約を締結し、○○の業務を行うなど、平素より極めて多忙であった。
・請求人は、所得税又は所得税等及び消費税等の確定申告書の作成をH税理士に依頼していた。
・なお、本件預金口座には、平成22年6月24日の開設以降、平成26年12月31日までの間、本件収入と普通預金利息の入金がされているだけであり、それ以外の入出金は全くなかった。
・前回調査に係る担当職員は、請求人に対し、平成22年2月から同年5月までの間にF会からK銀行口座に振込入金されていた合計○○○○円が事業所得の総収入金額に計上されていないなどと指摘したが、F会に係る業務の継続の有無や同年6月支払分以後の本件収入の存否及び入金先等の確認や指摘をしなかった。
・請求人は、前回調査で指摘された申告漏れを防止するため、本件平成25年分諸税以降の確定申告に際し、H税理士に対し、収入金額に係る資料として数十口の源泉徴収票及び支払調書と共に、業務用とする本件両口座通帳を提示することとした。しかし、請求人は、依然として、H税理士に対し、本件通帳を提示していなかった。
・本件調査において、請求人は、本件両口座通帳等を用意し、調査担当職員に提示したところ、調査担当職員は、提示された資料中にJ銀行の「○○」と題する書類があったため、同銀行の通帳を提示するよう依頼した。そこで、請求人は、本件通帳と異なるJ銀行の預金通帳を提示した。
・請求人の全ての通帳を提示するよう求めたりしたが、請求人から本件通帳の提示がなかったため、本件収入の申告漏れを指摘し、改めて、提示されている通帳以外の全ての通帳の提示を求めたところ、請求人 は、診療所と居宅との間の廊下に備付けられた棚に置かれていた鞄の中から本件通帳を取り出して、調査担当職員に提示した。なお、前記鞄の中には、本件通帳以外にも複数の通帳が入っていた。
・原処分庁は、要するに、請求人が、
◎①確定申告書の作成を依頼していたH税理士に本件通帳を提示しなかったこと、
◎②本件調査において、調査担当職員より本件収入の申告漏れを指摘されるまで本件通帳を提示しなかったことからすると、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行為をしたと認められる旨主張する。
・①について、請求人は、産業医や内科医として平素より極めて多忙であったことからすると、本件収入に係る源泉徴収票がないことに気付かなかったとしても不自然ではない。このことに加えて、請求人は、売上げの集計を自ら行わず、確定申告書の作成をH税理士に任せきりにするなど、会計及び税務に係る事務に精通しているとはいえないこと、
・請求人は、本件収入を除いても、平成22年から平成26年まで毎年約○○○○円以上の所得を得ていたため、本件収入を生活費として費消する必要がなく、現に、本件預金口座の入出金を一度もしていないこと、
・などから、本件収入が本件L信託銀行口座に振り込まれていると誤解していた可能性も否定できない。
・②の点について、
◎請求人が本件預金口座を秘匿しようと考えていたならば、発覚の可能性が低いと考えられる住所地から離れた地方の銀行等において預金口座を開設するはずであり、
◎本件調査の当初に、自ら進んで、同銀行に預金口座を開設していることが発覚する可能性の非常に高い上記「○○」と題する書類を提示することも考えにくい。
◎以上からすると、むしろ、請求人申述のとおり、自ら入出金している口座の預金通帳のみ提示すればよいと考えて、そうではなかった本件通帳を提示しなかったという方が自然である。
・本件は、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には当たらない。また、その他、隠ぺい、仮装と評価すべき行為を認めるに足りる証拠はない。
(5)争点2の審判所の判断、本件平成22年分諸税修正前申告(平成22年分期限内申告)は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか。
・請求人が、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為をしたとは認められず、その他、請求人が、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行ったと認めるに足りる証拠はない。よって、本件平成22年分諸税修正前申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものではない。
(6)結果
・本件平成22年分諸税に係る各処分は、全部の取消しをする
・本件平成23年分諸税ないし本件平成26年分諸税の重加算税を取消す
当該裁決のさらなる要約
・請求人は医師であり多忙であり、医師としての収入が十分ありました。
・請求人は、本件収入を生活費として費消する必要が無く、本件預金口座の入出金を一度もしていませんでした。
・請求人は通帳を複数所有しており、本件収入がどの通帳へ入金されているかの記憶も曖昧でした。
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、所得税及び消費税が申告済みでした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりである、と弊所が感じた事例です。なぜなら、請求人は医師で忙しく、売上の除外ではなくいわゆるうっかりの売上計上漏れに該当するケースと解されたからです。また本件収入の通帳への入金先についても記憶が曖昧であっただけで、虚偽の申述には該当しないと解されます。
◎当該裁決は、最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動判決における、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用しています。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと解されます。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計表の存在があったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
◎当該裁決において、隠ぺい仮装がなければ偽りその他不正の行為に該当する行為もないとして、その差異に関する判断はありませんでした。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
売上の計上漏れが発見された場合でも、多忙であった等を理由に隠ぺい仮装は無かったと主張すれば重加算税を回避できる可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)