(2023年11月23日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
平成29年5月29日裁決のオリジナルのあだ名
平成29年無申告者に対する税務調査の中で売上除外が推測される試算表が発見されても隠ぺい仮装は認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1) 事案の概要
・本件は、建築設計業及び風俗業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、F国税局長所属の調査担当職員による調査を受け、無申告であった所得税及び消費税の各期限後申告書を提出したところ重加算税を賦課されたので取り消しを求めた事案である。
・請求人は、
◎平成23年10月頃から平成26年5月頃まで「J」(以下「本件J店」という。)、←下記の本件フランチャイズ等
◎平成25年1月頃から「K」(以下「本件K店」という。)、←下記の本件独自業務
◎平成25年8月頃から「L」(以下「本件L店」という。)、←下記の本件独自業務
◎平成25年12月頃から平成26年5月頃まで「M」(以下「本件M店」という)←下記の本件フランチャイズ等
◎以下、本件J店、本件K店、本件L店と併せて「本件各店舗」という、その各名称を使用してデリヘル業を行った。
・請求人は、平成25年を通じて、本件事務所内のパソコン(以下「本件パソコン」という。)において、本件J店及び本件M店の業務(以下、併せて「本件フランチャイズ等業務」という。)に係る売上金額及び所属するデリヘル嬢(デリヘル業に関し客に接する業務に従事する者のことをいう。以下同じ。)に支払った報酬(以下「女子給」という。)の金額をそれぞれ入力していた。
・請求人は、平成25年を通じて、本件K店及び本件L店の業務(以下、併せて「本件独自業務」という。)に係る売上金額を本件パソコンに入力しなかった。
・請求人は、その所有する平成25年の手帳(以下「本件手帳」という。)に、本件独自業務の売上金額を記載し、そのほかにも、本件手帳に、本件独自業務について、顧客からの注文の際の当該顧客名、派遣するデリヘル嬢の源氏名、料金、サービスの開始時間及び派遣先のホテル名等の各情報等を記載していた。
・請求人は、平成25年分の所得税等の確定申告書及び平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「平成25年課税期間」という。)の消費税等の確定申告書をいずれも納税地を所轄するG税務署長に提出しなかった。
・調査担当職員は、本件事務所内のテーブルの上に、本件パソコンのキーボードの下に置かれた平成25年分のデリヘル業及び建築設計業務に係る収支計算並びに貸借計算が記載された試算表と題するA3判のサイズで2枚組の文書(以下「本件試算表」という。)を発見した。本件試算表の収支計算部分には、請求人の平成25年分のデリヘル業及び建築設計業に係る収支が赤字である旨記載されていた。
・請求人の業務のまとめ
◎本件独自事業=デリヘル業
◎本件フランチャイズ業務等=デリヘル業
◎建築設計業務
・請求人の集計まとめ
◎売上
●本件独自事業=デリヘル業=本件手帳に記載
●本件フランチャイズ業務等=デリヘル業=本件試算表に記載
●建築設計業務=銀行履歴に記載=本件試算表に記載
◎経費
●本件独自事業=デリヘル業=本件試算表に記載
●本件フランチャイズ業務等=デリヘル業=本件試算表に記載
●建築設計業務=本件試算表に記載
◎まとめ
つまり本件試算表は、本件独自事業の売上が除外されており、一方で本件独自事業の経費は計上されている。
・調査日←平成27年11月10日
・処分日←平成28年3月28日
・請求人の主張
◎請求人は、請求人が顧問契約を締結しようとしていたある税理士に対し、請求人の事業の概況を知ってもらうため、平成25年分の所得に関する資料のうち、本件フランチャイズ等業務の収入及び一部の経費に関する資料並びに建築設計業務に係る収入が記載された銀行の履歴を提供したところ、当該税理士が本件試算表を作成したのである。
(2)争点
請求人の無申告は、課税要件事実を隠ぺい又は仮装したことに基づくものか。
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
明記はありませんが、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る行動した判決の前半部分のみの引用と解されます。
(4)審判所の判断
・請求人は、紹介を受けて、平成26年7月頃、a市b町所在の税理士法人P社(以下「P社」という。)所属の税理士及び事務員と面談した。
・請求人が本件試算表を受領するまでにP社に手渡した資料は、請求人の建築設計業に係る銀行の履歴、本件フランチャイズ等業務に係る売上金額及び女子給の記載された資料並びに本件フランチャイズ等業務及び本件独自業務に係る必要経費(ただし、女子給を除く。)の額を本件パソコンの表計算ソフトで集計した資料などであり、本件手帳やそこに記載された情報を整理した資料は手渡していない。
・請求人は、本件試算表の受領後本件調査までに、P社に対し、本件フランチャイズ等業務以外に本件独自業務を営んでいることなどを述べたため、試算表は完成しなかった。
・P社は、請求人から申告業務を受任するための誘引材料として本件試算表等を作成したものの、結局、請求人は、P社に申告業務を依頼したり、P社と顧問契約を締結したりしたことはなかった。
・原処分庁は、要するに、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当する旨主張する。
・そこで検討するに、請求人は、P社に、本件独自業務に係る売上げが記載された本件手帳を渡さず、他方、本件独自業務の必要経費(ただし、女子給を除く。)も含む必要経費が記載された資料を手渡していることからすると、請求人は、P社において、実際の所得金額よりも少ない所得金額が記載された本件試算表が作成されることを認識していたことがうかがわれる。このことに加えて、請求人は、平成25年分の収支が赤字である旨の内容虚偽の本件試算表を、そうと知りながら本件調査に至るまで手近に置いていたこと、平成25年分の所得税等の確定申告の必要性を認識しながら所得税等及び消費税等の各申告書をいずれも法定申告期限までに提出しなかったことを考慮すると、請求人が、確定申告義務の生じないことの説明資料として本件試算表をP社に作成させた、つまり、本件試算表の作成が、請求人による隠ぺい、仮装と評価すべき行為に該当すると考えることについては、一応の理由がある。
・しかし、資料を手渡した時点では、いまだP社への申告業務の依頼や顧問契約の締結を検討している段階であった。このような段階では、請求人が毎月の顧問料の金額をなるべく低く抑えたいと考えることは自然であるところ、本件手帳の頁数やその記載状況によれば、その記載自体から本件独自業務に係る売上金額を正確に把握するのは容易ではなく、本件手帳をもとにした税理士の申告業務には手間と時間がかかるし、本件手帳を作成した請求人自らがそこに記載された情報を整理しP社に提供するとしても、相応の手間と時間がかかるものと認められる。そうすると、請求人が、顧問料の高額化を懸念したり、いまだ正式に顧問契約も締結していない段階においてP社に上記のような手間をかけさせることを遠慮したりして、あえて本件手帳をP社に交付しなかったとしても不自然ではない。
・請求人は、本件試算表が作成途上のものにすぎないことを認識し、最終的な試算表には本件独自業務に係る収入を反映させるつもりであった可能性も否定できない。
・これらのことからすると、請求人が確定申告義務が生じていないことの説明資料として虚偽の内容の本件試算表を作成させたと考えることについては疑問が残る。
・全証拠を検討しても、その他、隠ぺい、仮装と評価すべき行為は見当たらない。
(5)結果
・平成25年分の所得税←重加算税を取消す
・平成25年分の消費税←重加算税を取消す
当該裁決のさらなる要約
・請求人は、過去の所得税及び消費税は申告済みでした。
・請求人は、調査対象期間の所得税及び消費税は無申告でした。
・注意点としては、調査対象期間における請求人の本件独自事業の売上を除外した申告を行ったことに対する調査ではなく、調査において申告のために作成されたであろう本件試算表を調査担当職員が発見した、という点です。つまり仮集計、メモのようなものを発見されたということです。繰り返しますが、請求人は、調査対象期間の所得税及び消費税は無申告でした。
・国税不服審判所は、請求人は、本件試算表が作成途上のものにすぎないことを認識し、最終的な試算表には本件独自業務に係る収入を反映させるつもりであった可能性も否定できない、としました。
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、所得税及び消費税が無申告でした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりではない、と弊所が感じた事例です。なぜなら、請求人は過去に確定申告を経験しており、集計可能な資料も存在していたと解されるからです。
◎しかし、当該裁決は無申告である事例です。無申告の場合は隠ぺい仮装には該当しないケースが多いと解されます。無申告である納税者の税務調査中に売上除外が推測されるような試算表の存在を調査官が見つけた場合でも、通常の無申告における判断と同様に隠ぺい仮装はなかったと判断されたように解されます。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと明記があります。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計表の存在があったと明記があります。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、明記はありませんが、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
無申告者に対する税務調査の中で売上除外が推測される試算表が発見されたとしても隠ぺい仮装は無かったと主張すれば重加算税を回避できる可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)