(2023年11月13日作成)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
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・ご自身の税務調査の場で活用させる
平成28年7月4日裁決のオリジナルのあだ名
平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
・本件は、医療機関等に対して○○を派遣する事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該事業に係る収入等を申告していなかったとして、原処分庁所属の職員の調査に基づき、所得税等について修正申告をし、また、消費税等については期限後申告をしたところ、原処分庁が、当該事業に係る収入等を申告しなかったことなどが事実の隠ぺい又は仮装の行為に当たるとして、重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該事業に係る収入等を申告しなかったのは、租税に関する知識不足が原因であり、請求人に事実の隠ぺい又は仮装に当たる行為はないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。
・請求人は、平成○年頃から「F」という屋号を使用して、医療機関等における○○業務を受託し、当該医療機関等に対して○○を派遣する事業(以下「本件事業」という。)を営んでいた。
・請求人は、医療機関等数社(以下「本件各取引先」という。)との間で、委託者を本件各取引先、受託者を請求人とする各業務委託契約(以下「本件各契約」といい、本件各契約に係る契約書を「本件各契約書」という。)を締結し、本件事業に係る業務を行っていた。
・請求人は、本件各取引先からの業務委託料(以下「本件業務委託料」という。)を、おおむね請求した月の中旬以降に、G銀行○○店にある「F D(請求人)」名義の普通預金口座(番号○○○○。以下「F口座」という。)において、口座振込みの方法により受領していた。
・請求人は、本件事業に従事するスタッフ(以下「本件スタッフ」という。)に対する報酬(以下「本件支払報酬」という。)について、勤務表に基づきパソコンを使用して本件スタッフごとの報酬明細書を作成し、同明細書を各人宛にメールで送信するとともに、原則として毎月15日に、インターネットバンキングを利用して、請求人口座から本件スタッフの各預金口 座に本件支払報酬を振り込んでいた。
・請求人は、平成19年から平成25年までの各年において、本件業務委託料及び本件支払報酬に関する帳簿を含め、本件事業に関する帳簿を一切作成していなかった。
・請求人は、平成19年分、平成20年分、平成21年分、平成22年分、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。また、これらの年分を併せて「本件各年分」という。)について、給与所得の金額及び株式等に係る譲渡所得等の金額などを記載した確定申告書を自ら作成し、これを原処分庁に提出して、いずれも法定申告期限までに確定申告をした。
・請求人は、本件事業に関する収入等について、本件各年分の所得税等の確定申告において一切申告していなかった。
・請求人は、平成19年1月1日から同年12月31日まで、平成20年1月1日から同年12月31日まで、平成21年1月1日から同年12月31日まで、平成22年1月1日から同年12月31日まで、平成23年1月1日から同年12月31日まで、平成24年1月1日から同年12月31日まで及び平成25年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」、「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」、「平成23年課税期間」、「平成24年課税期間」及び「平成25年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、いずれも法定申告期限までに確定申告書を提出していなかった。
・調査日←平成26年10月30日
・処分日←平成27年3月12日
・所得税及び消費税の調査対象期間
◎平成19年分←法定申告期限平成20年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から7年以内(旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税は処分日から3年以内が対象なので、偽りその他不正の行為がなければ処分の対象外)
◎平成20年分←法定申告期限平成21年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から6年以内(旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税は処分日から3年以内が対象なので、偽りその他不正の行為がなければ処分の対象外)
◎平成21年分←法定申告期限平成22年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から5年以内(旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税は処分日から3年以内が対象なので、偽りその他不正の行為がなければ処分の対象外)
◎平成22年分←法定申告期限平成23年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から4年以内(旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税は処分日から3年以内が対象なので、偽りその他不正の行為がなければ処分の対象外)
◎平成23年分←法定申告期限平成24年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から3年以内
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から2年以内
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から1年以内
(2)争点
・本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否か(争点1)。
・請求人は、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいしたか否か(争点2)。
・請求人は、平成19年分ないし平成22年分の所得税並びに平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等について、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れていたか否か(争点3)。
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
明記はありませんが、最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る行動した判決、の後半部分の過少申告の意図を外部からうかがい得る行動を引用したと推測されます。
(4)争点1、本件各賦課決定処分の理由の提示に不備があるか否かの審判所の判断
・①当該各事実から、
・㋑請求人は、本件事業に係る事業所得があることを認識していたにもかかわらず、意図的に当該所得を申告に含めず、所得税等の確定申告書を提出していたと認められること、
・㋺請求人は、本件事業に係る対価を得ていることを認識していたにもかかわらず、消費税等の確定申告をしていなかったものと認められること、
・②①のことから、隠ぺい又は仮装の事実が認められること、そして、
・③請求人が提出した所得税等の修正申告書又は消費税等の期限後申告書により納付すべき税額に通則法第68条の規定に基づき計算した重加算税の額を賦課決定したことが記載されている。
・本件各通知書において、平成19年分ないし平成22年分の所得税並びに平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等に係る各通知書には、処分の理由として、理由中に掲げた各事実が、通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた場合に該当するため、これらに係る処分には同項の規定が適用される旨も記載されている。
・したがって、本件各賦課決定処分の理由の提示に不備はなく、この点において同処分を取り消すべき違法はない。
・請求人は、本件各賦課決定処分の理由には意図的に隠ぺい又は仮装を行ったところにより申告がなされている旨の記載があるだけで、請求人のどの行為がなぜ隠ぺい又は仮装に当たるのかが具体的に記載されていない上、偽りその他不正の行為及び隠ぺい又 は仮装の主要な要件であるほ脱のための故意が何によって証明されるのかが示されておらず、本件各通知書には行政手続法第14条の要求する必要かつ十分な理由付記がなされていない旨主張する。
・しかしながら、本件各通知書に記載された処分の理由が、法の要求する理由の提示として欠けるものでない。
(5)争点2、請求人は、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいしたか否かの判断
・本件業務委託料は、全て請求人が管理するF口座に入金され、また、本件支払報酬についても請求人自ら振込手続を行っていたことからすれば、請求人は、各月の本件業務委託料の金額及び本件支払報酬の金額を把握していたものと認められるし、F口座に入金された本件業務委託料を請求人口座へ振り替えて、同口座からクレジットカードの利用金額を支払うなど、これを生活費として費消していたことも認められる。
・請求人は、本件各年分においても、本件事業に係る利益の額が相当額あったことを認識していたものと認められる。
・請求人は、所得税等及び消費税等の申告納税制度に一定の知見があり、事業を営むことによって収入及び利益(所得)が発生すれば、所得税等及び消費税等の申告及び納税が必要になることなど、本件事業に関する申告及び納税の義務について一定の理解があり、これらの義務を当然に認識していたものと認められる。
・請求人が、申告をしなかったことは、単なる所得計算の違算や亡失というものではなく、請求人が当初から所得を過少に申告する意図の下になした過少申告行為、又は法定申告期限までに申告しないことを意図して行われたものと認めるのが相当である。
・請求人は本件各年分において本件事業に係る帳簿を作成していないものの
・本件業務委託料は、全て請求人が管理するF口座に入金されていること
・本件支払報酬に関する振込手続は、請求人自らパソコンを使用して行っていること
・請求人は、本件各契約書、上記の請求書及び報酬明細書などの書類等についてもこれらを破棄することなく、パソコン等に保存していたこと
・以上からすると、請求人が本件事業に係る帳簿を作成していないのは、これらの書類等により、本件事業に関する収入金額、必要経費及び請求人自ら処分可能なおおよその利益を把握することができたためである可能性が残り、原処分庁提出の証拠や当審判所の調査で収集した証拠を総合しても、請求人が本件事業に関する正当な収入金額、必要経費及び所得金額を秘匿するためにあえて帳簿を作成しなかったとまでは断定し難い。
・したがって、本件において、請求人が本件事業に係る帳簿を作成していなかったことをもって、過少申告等の意図を外部からもうかがい得る特段の行動とまでは評価することができない。
・したがって、請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等について、重加算税を賦課することはできない
(6)争点3、請求人は、平成19年分ないし平成22年分の所得税並びに平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等について、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れていたか否か
・本件において、請求人は、本件事業に係る所得を全て秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額を殊更に過少にした内容虚偽の所得税等の確定申告書を提出し、また、法定申告期限までに消費税等の申告を行わず、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の税額を免れていたものと認められ、このような過少申告行為等は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当するものと認められる。
・したがって、請求人が、平成19年分ないし平成22年分の所得税並びに平成19年課税期間及び平成20年課税期間の消費税等について、全部若しくは一部の税額を免れていたことは、通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ことに該当する。
(7)所得税及び消費税の結果
◎平成19年分←法定申告期限平成20年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から7年以内←偽りその他不正の行為があったため更正処分の対象期間ではあるが、隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
◎平成20年分←法定申告期限平成21年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から6年以内←偽りその他不正の行為があったため更正処分の対象期間ではあるが、隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
◎平成21年分←法定申告期限平成22年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から5年以内←偽りその他不正の行為があったため更正処分の対象期間ではあるが、隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
◎平成22年分←法定申告期限平成23年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から4年以内←偽りその他不正の行為があったため更正処分の対象期間ではあるが、隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
◎平成23年分←法定申告期限平成24年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から3年以内←隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
◎平成24年分←法定申告期限平成25年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から2年以内←隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
◎平成25年分←法定申告期限平成26年3月15日(消費税3月31日)←処分日平成27年3月12日から1年以内←隠ぺい仮装はなかったため重加算税を取消す
当該裁決のさらなる要約
・請求人は、給与所得及び株式譲渡所得においては申告していたが、本件事業に関する収入について一切申告していませんでした。
・請求人は、所得税及び消費税の申告納税制度に知見があるとされました。
・請求人が帳簿を作成しなかったのは、その他の資料により、収入、経費、利益を把握できたためである可能性を残す、とされました。
・請求人が帳簿を作成しなかったことをもって、隠ぺい仮装があったとは認められない、としました。
・しかし、請求人のこれらの行為は、隠ぺい仮装行為には該当しないが、偽りその他不正の行為に該当するとしました。
・原処分庁が行った重加算税賦課決定処分の理由提示に不備はないとされましたが、結果としてその提示した理由による隠ぺい仮装はなかった、ということになります。
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、所得税は申告済みで、消費税が無申告でした。
◎当該裁決は、最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動判決における、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用しています。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりではない、と弊所が感じた事例です。なぜなら、給与所得及び株式譲渡所得に関しては所得税の確定申告済みであるが、本件事業のみを除外していたからです。
◎しかし、本件事業に係る帳簿を作成しないことをもって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動とまでは評価することができない、としました。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと明記があります。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計表の存在は無かったように解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、明記はありませんが、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
◎当該裁決は、隠ぺい仮装には該当しないが偽りその他不正の行為に該当するとしています。
◎当該裁決は、平成25年(2013年)1月1日以後において制定された不利益処分である重加算税の理由付記が争点となり判断が示され、さらに処分理由の要旨が公表されているという、現在においてとても貴重な裁決であると解されます。
◎重加算税賦課処分の理由付記に不備はなかったものの、その付記した理由の内容を国税不服審判所が検討したところ、隠ぺい仮装には該当しないこととなった。つまり、税務署を含む原処分庁が示す重加算税賦課基準の理由が必ずしも賦課基準を満たすわけでは無い、ということになります。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
◎原処分庁の理由付記に不備が無い程度に重加算税賦課の理由が記述されていたとしても、国税不服審判所がその内容に関して隠ぺい仮装は無かったと判断する可能性があると解されます。(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
◎申告義務を認識しているにも関わらず帳簿を作成しない場合であっても、国税不服審判所で争えば重加算税賦課を回避できる可能性があります。しかしその可能性は低いように解されます。(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)