(2023年11月12日作成)

当該ページの活用方法

・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる

平成27年7月1日裁決のオリジナルのあだ名

平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決

当該裁決のまとめ

前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。

※当該裁決の本文や別表1より、調査による修正申告の勧奨による修正申告書を平成25年2月1日に提出しているにも関わらず平成26年3月14日に更正処分されているという疑問点について現在解明中です。

裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
・本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、
◎所得税の修正申告
◎消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の期限後申告をしたところ、
原処分庁が、正当な売上金額を把握できたにもかかわらず、恣意的に操作して算出した売上金額により所得税の収支内訳書を作成するなどしたことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項又は同条第2項に規定する隠ぺい又は仮装に当たるとして原処分を行ったのに対し、請求人が、請求人の行為は隠ぺい又は仮装に当たらないなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。
・所得税の調査対象期間
◎平成20年分→法定申告期限平成21年3月15日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から5年以内←偽りその他の不正行為が無い場合旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税については3年以内のため対象外←法定申告期限内申告
◎平成21年分→法定申告期限平成22年3月15日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から4年以内←偽りその他の不正行為が無い場合旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税については3年以内のため対象外←法定申告期限内申告
◎平成22年分→法定申告期限平成23年3月15日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から3年以内←偽りその他の不正行為が無い場合旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税については3年以内のため対象外←法定申告期限内申告
◎平成23年分→法定申告期限平成24年3月15日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から2年以内
・消費税の調査対象期間←法定申告期限内申告
◎平成21年分→法定申告期限平成22年3月31日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から4年以内←偽りその他の不正行為が無い場合旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税については3年以内のため対象外←無申告
◎平成22年分→法定申告期限平成23年3月31日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から3年以内←偽りその他の不正行為が無い場合旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税については3年以内のため対象外←無申告
◎平成23年分→法定申告期限平成24年3月15日←重加算税賦課決定処分日平成26年3月14日から2年以内←無申告
・本件各年分の所得税の修正申告及び本件各課税期間の消費税等の期限後申告の勧奨による修正申告書の提出→平成25年2月1日
・勧奨による修正申告書の提出平成25年2月1日←平成20年分の所得税←法定申告期限平成21年3月15日←偽りその他不正の行為が無い場合旧国税通則法では平成23年12月2日以前に法定申告期限が到来する国税については3年を超えて修正申告書は提出できない。
・調査日←平成24年12月10日
・重加算税賦課決定処分日←平成26年3月14日
・請求人は、平成20年、平成21年、平成22年及び平成23年の各年中(以下「本件各年中」という。)において、個人でd市e町○-○(以下「本件d住居」という。)を事業所として電気工事業を行っていた。
・請求人は、本件各年分の所得税について、各法定申告期限までに、本件各年分の各収支内訳書(以下「本件収支内訳書」という。)を添付した各確定申告書をH税務署長に提出して、各確定申告をした。
・請求人は、本件各課税期間の消費税等について、各法定申告期限までに、本件各課税期間の各確定申告書をH税務署長に提出せず、各確定申告をしなかった。
・平成13年4月26日から平成24年7月18日までの間のK社からの入金額等が記帳された預金通帳(L銀行(旧M銀行)○○支店に請求人名義で開設された普通預金口座(口座番号○○○○)に係るもの。以下「本件通帳」といい、当該口座を「本件口座」という。)があった。
C 平成19年分から平成23年分までの各年分の必要経費に係る領収書(レシートを含む。以下「本件領収書」という。)
・請求人がJ事務官に提示した本件領収書の中には、その裏面に請求人が次のA及びBの内容を記載したものがあった。
A 本件各年分のうちの一部の日付及び当該日付と同日のK社に対する売上金額の集計金額を手書きしたもの(以下「本件売上金額メモ」という。)
B 「○○○○で確定申告すると○○○○納税」、「○○○○」などと手書きしたもの(以下「本件税額メモ」という。)

(2)争点
・争点1~3は省略
・争点4、原処分のうち重加算税の各賦課決定処分は、請求人が、本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たものである(所得税につき通則法第68条第1項、消費税等につき同条第2項)か否か。

(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る行動した判決、を引用したと明記されています

(4)争点4の審判所の判断
・原処分庁は、本件税額メモと同様の本件各年分の納税額を過少申告する際に試算したメモ書を廃棄していたこと(以下、請求人が試算のために作成し、廃棄した旨原処分庁が主張する当該メモ書を「本件試算メモ」という。請求人は、本件試算メモを5年ほど前から作成していた旨を申述しているにもかかわらず、本件各年分の所得税の各確定申告書に記載された所得金額及び納付すべき税額が一致する本件試算メモが存在しない。)、を主張する。
請求人は、本件通帳を保存していたところ、本件各年分の請求人の事業所得に係る売上金は、全て本件口座に振り込まれていた。
・請求人は、平成24年11月21日、J事務官の「なぜ、売上を抜いたのですか。」との質問に対し、「最初は、借入れたお金をFXで取り返そうと思っていたのですが、そのFXで大損してしまったので、借入れ金返済のために、売上を意図的に抜いていました。」と申述した。
・請求人は、本件領収書を保存していたところ、請求人は、平成25年2月1日、J事務官の「開業から現在まで、経費仕入は、どのように申告していましたか。」との質問に対し、「5年分保存はしていますが、申告のときに集計はしていません。開業してから、現在まで、経費も適当な金額で多く申告しています。」と申述した。

・請求人には、本件各年分において、少なくともFX取引の損失の穴埋めという自己の資金需要の必要性があったと認められる。
・請求人は、本件各年分の事業所得に係る売上金が振り込まれていた本件口座の通帳(本件通帳)を保存していたこと、及び請求人は、当該売上金の大半を占めるK社から、毎月、本件支払内容確認書を受領していたことからすると、請求人は、本件各年分の所得税の申告に当たって、事業所得の総収入金額を容易に把握することができる状況にあったことが認められる。
・当初申告額と修正申告額の差額(及び当初申告割合)が、大きいこと、また、売上げを意図的に抜いていた旨の請求人の申述は、これらの事実に照らして信用できることを併せ考えると、請求人は、継続して本件各年分の事業所得に係る総収入金額を意図的に過少に申告していたことが認められる。
・請求人は、本件各年分において必要経費を支出する際に受領した本件領収書を保存していたことからすると、請求人は、本件各年分の所得税の申告に当たって、必要経費の額を容易に把握することができる状況にあったことが認められる。
・請求人は、平成18年分ないし平成23年分の事業所得に係る必要経費を、いずれの年分についても過大に申告し、しかも、当初申告額と修正申告額の差額(及び当初申告割合)が、大きいこと、また、開業から現在まで必要経費を適当な金額で多く申告していた旨の請求人の申述は、これらの事実に照らして信用できることを併せ考えると、請求人は、継続して本件各年分の事業所得に係る必要経費の額を意図的に過大に申告していたことが認められる。
・本件売上金額メモに記載された特定の日の金額とその直前の日の金額との差額は、K社からの日々の売上金額と一致又は近似する箇所が複数あることから、本件売上金額メモは、K社からの日々の売上金額の累計金額(月 ごと)を記載したものと認められる。そして、当日までの売上金額の累計金額を記載するためには、前日までの累計金額に当日の売上金額を加算しなければ算出できないことからすると、請求人は、本件各年分の全期間を通して、K社からの日々の売上金額を計算し、累計の売上金額をメモ書していたと推認される。
・本件売上金額メモ以外に、同様の記載がある書類がなかったこと及び請求人の申述のうち、本件売上金額メモは日々の売上げを集計したものの一部であり、ほとんどは捨てていた旨の申述は、これらの事実に符合して信用できることからすると、確認できなかった日付に係るものについては、請求人が廃棄したものと認められる。
・しかしながら、売上金は、全て本件口座に振り込まれ、しかも本件通帳は保存されていたこと、請求人はK社から月度の売上金額が記載された本件支払内容確認書等を受け取っていたこと、本件売上金額メモ以外に同様の記載がある書類がなかったことについて特に不自然な点はないことからすると、請求人が廃棄をしたのは、単に当該メモ書を保存しておく必要がなくなったからである可能性が十分に考えられ、正当な売上金額を秘匿するために捨てたとは認め難い。
・本件税額メモにおける計算方法は明らかではない上に、請求人の平成24年12月26日の「だいたい5年程前からです。」という申述は、その質問の「このような不正な計算」を受けたものであり、当該「このような不正な計算」が、本件各年分においても平成18年分に係る本件税額メモと同様のメモ書(本件試算メモ)の作成をしたことまでも意味しているとは、文言上、解し難いことからすれば、当該申述をもって、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって、本件試算メモを作成していたとは認め難い。
・請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件試算メモを作成していたことは認められず、もとより請求人がそれらを破棄した事実もまた、認められる余地はない。
・請求人が何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を本件収支内訳書に記載していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない。
・請求人が、平成20年分の所得税について、正当な税額を免れる目的で、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項(平成27年法律第9号による改正前のもの。)に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する過少申告行為をしたことは優に認められる。
(5)結果
・所得税平成20年分~平成23年分は過少申告加算税を課し、重加算税を取消す。
・消費税平成21年分~平成23年分は無申告加算税を課し、重加算税を取消す

当該裁決のさらなる要約

・請求人は、過少な売上及び過大な経費を計上して所得税を申告していた。消費税は無申告であった。
・請求人は、適正な売上を把握できるであろう通帳を保存していた、適正な経費を把握できるであろう資料を保存していた。
・請求人の当初申告と修正申告の差額は、売上、経費ともに大きな差が生じていた。
・原処分庁はこれらの行為は隠ぺい仮装にあたると主張したが、これらの行為は過少申告そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動には当たらないとして、隠ぺい仮装は認められなかった。

弊所独自の見解

・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は所得税は申告済み、消費税は無申告でした。
◎当該裁決は、最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動判決における、外部からうかがい得る特段の行動部分を引用しています。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりではない、と弊所が感じた事例です。なぜなら、収入金額を容易に把握できる状況にあったことを前提に、総収入金額を意図的に過少申告していたと認定している。また必要経費を容易に把握できる状況にあったことを前提に、必要経費の額を意図的に過大に申告していたと認定しているからです。
◎しかし何ら根拠のない収入、経費の記載は過少申告行為そのものであって過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動ではない、としました。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと明記があります。また売上金の全てが記載されいてる通帳の保存があったと明記されています。
◎当該裁決は、取引を把握できるような集計メモを作成していたと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は協力的であったと解されます。また過少申告の意図などをありのまま正直に申述している明記があります。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
◎当該裁決は、隠ぺい仮装には該当しないが偽りその他不正の行為に該当するとしています。

・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
何ら根拠のない収入、経費の記載を行ったとして重加算税賦課を処分されたとしても、税務調査に協力的でありのままに申述すれば、修正申告の勧奨に応じず更正に対して不服申立てをして国税不服審判所で争えば重加算税賦課を回避できる可能性があます。しかしその可能性は限りなく低いと感じます。また隠ぺい仮装に該当しないが偽りその他不正の行為に該当すると判断される可能性もあります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)

当該裁決に対する批判的な意見

◎澤井勝美税務大学校研究部教授は、「虚偽記載の添付書類を隠ぺい、仮装と認める学説の動向から考えると、収支内訳書は納税申告書の添付書類であること、収支内訳書の作成は申告準備行為であり、さらにうっかりと集計違算があったというのではなく、何ら根拠のない数値が記載されていると認定されていることからすると、事実に反する計算書類の作成として隠ぺい又は仮装行為と考えられ、この点における当該裁決には疑問がある 」としています(澤井勝美「無記帳者の重加算税について」税務大学校論叢84号261頁脚注50)。
◎作田隆史税務大学校研究部教授は、「条文で賦課要件として問題になるのは『申告行為』ではなく、『申告書の提出』であり、それとは別の『隠ぺい仮装行為』である。収支内訳書は『申告書』ではない。そして、そこに、例えば売上先別の売上げの虚偽記載があれば、それは明らかに『課税標準の計算の基礎となる事実の隠ぺい仮装』であり、それは税務職員による調査先の選定を難しくするし、正確な課税標準や税額の把握を困難にする行為である。それなのに、裁決ではなぜ重加算税が取り消されているのだろうか。」「公表された裁決書からは、裁決の結論が正しいと判断することはできない 。」などとしています(作田隆史「重加算税の要件における『特段の行動』再考」税大ジャーナル9頁(2017年12月26日掲載))。