(2023年4月19日作成)(2023年12月25日再編集)
結論
・現状においては、国税庁が発表する「法人税等の調査事績の概要」から分析・推測することが最も信ぴょう性が高いと解されます。
・「法人税等の調査事績の概要」によれば、無申告法人の税務調査において無申告法人が重加算税が賦課される割合は約20%と算出可能でした。
・無申告には、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告(以下単純無申告と記述する場合もあり)と隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告が存在すると解されます。
・現状の世の中においては、単純無申告の無申告法人の方が多く存在している、もしくは「調査において隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告であると処分庁が立証することは困難を要するため単純無申告法人とせざるを得なかったという意味での無申告法人」が多く存在しているため、無申告法人に対しては重加算税が賦課される可能性は低いと結論づけてよいかもしれません。
・なお、理由は不明ですが、国税庁が発表する「所得税及び消費税調査等の状況」においては「不正計算があった件数」についての公表が無く、個人所得税及び個人消費税における無申告個人事業主に対する重加算税賦課の確率を算出することは困難でした。しかし、無申告法人の約20%を超えるとは考えにくく、例えば10%未満ではと推測されます。
・現在においては、隠ぺい仮装=偽りその他不正の行為と認定されることに抗うことは難しいとなっております。そうすると、隠ぺい仮装の有無の判定=偽りその他不正の行為の有無の判定=増額更正期間5年又は7年の判定、が連動することになります。よって、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告は増額更正は5年、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告は増額更正が7年となると解されます。以上から無申告法人の増額更正は5年の割合、確率が高いとなると解されます。
・無申告者が重加算税を賦課されず増額更正期間が5年となることについての批判を受けて、無申告者に対する立法措置による罰則化が始まりました。
以下において解説いたします。
現状においては、国税庁が発表する「法人税等の調査事績の概要」から分析・推測することが最も信ぴょう性が高いと解されます。
無申告法人に重加算税が課せられる確率約20%の根拠
こちらのページをご参考ください。
データから分析する無申告者の税務調査(個人所得税・個人消費税・法人税・法人消費税)
◎無申告法人に法人税の重加算税が課された割合、確率(弊所独自の算出)
・22年事務年度→7.6%
・23年事務年度→6.7%
・24年事務年度→7.0%
・25年事務年度→7.4%
・26年事務年度→9.2%
・27年事務年度→12.2%
・28年事務年度→13.8%
・29年事務年度→16.7%
・30年事務年度→18.1%
・令和元年事務年度→21.1%
・2年事務年度→19.6%
・3年事務年度→21.9%
・4年事務年度→22.3%
◎無申告法人に法人消費税の重加算税が課された割合、確率(弊所独自の算出)
・22年事務年度→6.6%
・23年事務年度→6.6%
・24年事務年度→6.5%
・25年事務年度→7.1%
・26年事務年度→8.6%
・27年事務年度→10.8%
・28年事務年度→12.2%
・29年事務年度→15.1%
・30年事務年度→16.8%
・令和元年事務年度→19.4%
・2年事務年度→19.4%
・3年事務年度→21.8%
・4年事務年度→22.5%
となっております。以上が算出根拠となります。
無申告には、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告と隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告が存在するの根拠
国税庁が発表する「法人税等の調査事績の概要」「Ⅱ主要な取り組み3無申告法人に対する取組」という項目において、理由は不明ですが、令和元事務年度から無申告法人に対して不正計算(弊所は重加算税賦課があったとみなしました)を認定した事例を具体的に例示することを開始しました。
・平成26事務年度~30事務年度までの「法人税等の調査事績の概要」「Ⅱ主要な取り組み3無申告法人に対する取組」→具体例の明示無し
・令和元事務年度~→具体例の明示有り
・令和元年事務年度
◎<主な不正の手口>~インターネット情報等で事業実態を把握し、取引の全貌を解明~
調査法人A社は、店舗での営業で多額の収入を得ていましたが、申告義務があることを認識しながら、請求書等を破棄するとともに、申告を一切せずに納税を免れていました。なお、国税庁は、あらゆる角度から情報収集を行い、適正な申告をしていない法人を把握しています。
◎<主な調査事例>
①多額の不動産売却収入について、契約書等を破棄するとともに売却代金を現金で受け取ることで取引を隠蔽
②建設機材の組立ての請負で得た多額の収入について、請求書等を破棄することで取引を隠蔽
・令和2年事務年度
◎<主な不正の手口>~インターネット情報等で事業実態を把握し、取引の全貌を解明~
調査法人A社は、店舗での営業で多額の収入を得ていましたが、申告義務があることを認識しながら、請求書等を破棄するとともに、申告を一切せずに納税を免れていました。なお、国税庁は、あらゆる角度から情報収集を行い、適正な申告をしていない法人を把握しています。
<主な調査事例>
①接待を伴う飲食店における多額の収入について、売上げに係る書類を破棄することで取引を隠蔽
②不動産コンサルタント業務で得た収入について、領収証等を破棄することで取引を隠蔽
・令和3事務年度
◎<主な不正の手口>~代表者名義の預金口座に売上代金を振り込ませることで取引を隠蔽~
調査法人A社は、事業を行い収入を得ていましたが、申告義務があることを認識しながら、代表者名義の預金口座に売上代金を振り込ませることで取引を隠蔽し、申告を一切せずに納税を免れていました。なお、国税庁は、あらゆる角度から情報収集を行い、適正な申告をしていない法人を把握しています。
<主な調査事例>
①人材派遣業で得た収入について、代表者名義の預金口座に売上代金を振り込ませることで取引を隠蔽
② 不動産業で得た収入について、取引に係る書類を破棄することで取引を隠蔽
・令和4事務年度
◎<主な不正の手口>~売上代金を代表者名義の預金口座に振り込ませ、書類を破棄することで取引を隠蔽~
調査法人は、事業を行い収入を得ていましたが、申告義務があることを認識しながら、売上代金を代表者名義の預金口座に振り込ませ、また、書類を破棄するとともに、取引内容に関するデータを削除することで取引を隠蔽し、申告を一切せずに納税を免れていました。なお、国税庁は、あらゆる角度から情報収集を行い、適正な申告をしていない法人を把握しています。
<主な調査事例>
①婦人服の製造業で得た収入について、売上代金を代表者名義の預金口座に振り込ませ、書類を破棄することで取引を隠蔽
②太陽光発電のコンサルティング業で得た収入について、売上代金を代表者名義の預金口座に振り込ませることで取引を隠蔽
上記のように、無申告法人というカテゴリーを設けて、不正計算(不正計算の定義は公開されていないため推測となるが、隠ぺい仮装があったすなわち重加算税が賦課されたものと解される)の事例を明示しています。反対に隠ぺい仮装を伴うような事例の明示が無いため、反対解釈として資料保存無し、記帳が無しなどの単純無申告の場合は重加算税が賦課されていない、と予想されます。
国税庁発表法人税等の調査事績の概要より、無申告法人に対して重加算税が賦課される確率についての弊所独自の見解 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
無申告 | 資料保存有り | 資料保存が有るので記帳あり | 資料保存及び記帳能力は有しているが、税金計算能力を有していなかった | 資料保存あり記帳あり単純無申告 | 無申告法人に対する税務調査において左記に当てはまる無申告法人の占める割合は約80%か? | つまり無申告法人について重加算税が賦課される確率は約20%と言ってようのだろうか?これが「無申告者に重加算税は課されにくい」と一般的に言われる理由だろうか? |
資料保存が有るが記帳無し | 資料保存能力は有しているが、記帳能力を有していなかった | 資料保存あり記帳なし単純無申告 | ||||
資料保存無し | 資料保存が無いため記帳無し | 法人の収入に関する資料保存無しの理由が、意図的ではない場合、例えば、紛失、保存忘れ | 資料保存無し記帳なし単純無申告 | |||
資料保存が無いため記帳無し | ・法人の収入に関する資料保存無しの理由が、法人の収入の帰属者を意図的に変更していることである場合 ・法人の収入に関する資料保存無しの理由が、法人の収入に関する書類を意図的に破棄していることである場合 ・法人の収入に関する資料保存無しの理由が、法人の収入に関するデータを意図的に削除していることである場合 | 資料保存無し記帳なし隠蔽仮装無申告 | 無申告法人に対する税務調査において左記に当てはまる無申告法人の占める割合は約20%か? |
(表1)国税庁発表法人税等の調査事績の概要より、無申告法人に対して重加算税が賦課される確率についての弊所独自の見解
ネットの情報、論文、書籍の解説においては、「ただただ無申告者は隠ぺい仮装と認定されるケースは少なく、重加算税が賦課されるケースは少ない」と結論付けている記述が散見されます
ネット情報
ネットにおいて「無申告 重加算税」と検索ください。そうすると以下のような意見が見受けられます。
・なぜ無申告は重加算税が課される可能性が低いか?重加算税が課されるか否かは、納税者が「仮装もしくは隠ぺい」の意図があったかである。この点が、無申告に対する重課税の課税を難しくしている。
・無申告であっても重加算税が課税されるケースは稀である。当税理士事務所のお客様で重加算税が課税されたという方はいない。
とありました。しかしながら、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告と隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告の差異について言及がない点にやや疑問が残りました。
落合秀行論文
・落合秀行「無申告事案における重加算税の賦課要件」p210より、無申告者は、その存在自体の把握が困難であることもさることながら、単に申告しないことのみでその目的は達成されるため、原始記録や帳簿書類の改ざんはおろか、これらを保存・備付けする必要性もないことから不正を挙証する証拠も乏しく、また、何をもって「隠ぺい又は仮装」と判断するのか困難である場合が少なくない。その結果、無申告者に対する税務調査は、過少申告を行う納税者以上に問題視すべきであるにもかかわらず、結果的に 15%による無申告加算税で済まされているものも多いのではないかと思われる。
→隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告については重加算税が賦課される可能性は低いについての言及と解されます。
・落合秀行「無申告事案における重加算税の賦課要件」p286より、無申告重加算税が課された事例は、当初から無申告を企図して自己に所得が帰属していないように取引名義等を仮装するものが多いが、売上金額を確認後その原始記録を破棄して所得を秘匿したり、その収入を架名預金などに入金するなど、積極的な「隠ぺい又は仮装」行為があったことにより重加算
税の賦課が肯定されている。そして、これらの事例は、過少申告加算税に代えて課される重加算税(以下「過少申告重加算税」という。)の賦課事例と対比すると、件数が非常に少ない。
→隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告に比べて隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告の事例が少ないことについての言及と解されます。
澤井勝美論文
・澤井勝美「無記帳者の重加算税について」p221より、記帳制度義務違反に対する制裁がないために、意図的に無記帳、帳簿書類を保存しない、さらに無記帳等は隠ぺい又は仮装行為の認定が困難であるという状況を利用して、無申告や過少申告といった意図的に租税負担を免れることは申告納税制度の根幹に関わる問題である。
→隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告については重加算税が賦課される可能性は低いについての言及と解されます。
・澤井勝美「無記帳者の重加算税について」p222より、意図的に無記帳等とすることは隠ぺい、仮装の認定が困難であることを利用する者であり、積極的な隠ぺい、仮装を行う者と本質的に違いはなく、その対応を検討する必要がある。
→隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告については重加算税が賦課される可能性は低いについての言及と解されます。
書籍
・八ツ尾順一「事例からみる重加算税の研究(第7版)」p85より、無記帳者に対して、「課税逃れの意図の推認」をもって、重加算税の賦課決定を行うということであるが、何も記帳していないという事実の中で、このような推認は現実問題として不可能ではないかと思われる。むしろこのような推認を許すと「無記帳」ということが不自然であるということだけで課税庁から「課税逃れの意図がある」と断定されるおそれの方が、税務執行上、多くなるのではないかと危惧される。
→隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告については重加算税が賦課される可能性は低いについての言及と解されます。
個人所得税及び個人消費税における無申告個人事業主に対する重加算税賦課の確率を算出することは困難でした。しかし、無申告法人の約20%を超えるとは考えにくく、例えば10%未満ではと推測されます。
こちらのページをご参考ください。
データから分析する無申告者の税務調査(個人所得税・個人消費税・法人税・法人消費税)
ご覧いただいた通り
個人所得税及び個人消費税については「うち意図的な無申告を把握した件数 」の公開がありません。したがって、個人所得税及び個人消費税については、無申告において隠ぺい仮装とされた、重加算税が賦課された割合、確率については算出が困難とと解されます。
弊所が独自に主張する、個人所得税及び個人消費税における無申告個人事業主に対する重加算税賦課の確率は、無申告法人の約20%を超えるとは考えにくく、例えば10%未満ではと推測されることの根拠は下記となります。
・法人を設立させた法人代表者が「法人税の申告が必要なんて知らなかった」という発言は一般的に考えて苦しい言い訳と解されます。しかしそうであっても無申告法人における重加算税賦課割合、確率は約20%となっております。一方、一般個人、個人事業主の「申告の必要性の認識が無かった」という発言は一般的に考えて法人より認められると予想されます。そうすると個人所得税及び消費税における無申告者に対する重加算税賦課割合、確率が法人の約20%を超えるとは考えにくいと思われます。
・法人を設立させた法人代表者が「法人の活動に関する資料を捨ててしまった、紛失してしまった、重要だとは思わなかった」という発言は一般的に考えて苦しい言い訳と解されます。なぜなら「法人の活動はすべて経済活動に関するものでありその資料はすべて必要である」ということが容易にわかるからです。しかしそうであっても無申告法人における重加算税賦課割合、確率は約20%となっております。一方、一般個人、個人事業主の「必要な資料と思わず捨ててしまった、紛失してしまった、重要だとは思わなかった」という発言は一般的に考えて法人より認められると予想されます。そうすると個人所得税及び消費税における無申告者に対する重加算税賦課割合、確率が法人の約20%を超えるとは考えにくいと思われます。
・法人を設立させた法人代表者が「法人の売上、収入を誤って代表者個人名義の口座に入金した、その他の者名義の口座に誤って入金した」という発言は一般的に考えて苦しい言い訳と解されます。なぜなら「法人口座以外の口座に入金」することは意図的以外に考えにくいためです。しかしそうであっても無申告法人における重加算税賦課割合、確率は約20%となっております。一方、一般個人、個人事業主の「事業用通帳以外の口座に誤って入金してしまった、家族名義の口座に入金してしまった」という発言は一般的に考えて法人より認められると予想されます。そうすると個人所得税及び消費税における無申告者に対する重加算税賦課割合、確率が法人の約20%を超えるとは考えにくいと思われます。
以上が根拠となります。
最近の話題として、2023年1月、無申告であったユーチューバーに対して重加算税が課されたという報道がありました。
・動画をユーチューブに投稿し、報酬約3600万円を得ていた男性が、確定申告をしていなかったとして、関東信越国税局の税務調査を受け、重加算税を含む約700万円を追徴課税された
・当初、国税局に対して「確定申告が必要なことを知らなかった」という趣旨の説明をしていた
・しかし「税務調査を受けた場合にどう対応するか」という動画の視聴履歴が発覚した。
・さらに追及を受けた男性は、意図的に申告をしなかったことを認めた。
とありました。しかし、当該内容はあくまで報道によるものであり、その細部を知ることはできておらず、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告(以下単純無申告)であったのか、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告であったのか、その真相を知ることは困難です。もし仮に当該事案が国税不服審判所の裁決に進んで、公表されていたとしたらどのような判断が下されたか興味深いです。
現在においては、隠ぺい仮装=偽りその他不正の行為と認定されることに抗うことは難しいとなっております。そうすると、隠ぺい仮装の有無の判定=偽りその他不正の行為の有無の判定=増額更正期間5年又は7年の判定、が連動することになります。よって、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴わない単純無申告は増額更正は5年、隠蔽(隠ぺい)仮装を伴う無申告は増額更正が7年となると解されます。以上から無申告法人の増額更正は5年の割合、確率が高いとなると解されます。
隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為は違う、範囲が異なる、ということは法律上は事実です。しかしながら、税務調査の調査官が隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違いを知らない、国税不服審判所の裁決において隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の差異は言及しない、となっております。
税理士鴻秀明の隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違いを明らかにすべきという意見
したがって法的には誤りであるものの、実務的には、隠ぺい仮装の有無の判定=偽りその他不正の行為の有無の判定=増額更正期間5年又は7年の判定、が連動することになります。
そうすると、上記における無申告法人の重加算税の賦課の割合、確率と連動するとするならば、無申告法人は隠ぺい仮装と認定されるケースは低いことから増額更正期間が5年とされる割合、確率が高いと解されます。
しかし、無申告者が重加算税を賦課されず増額更正期間が5年となることについて批判を受けて、無記帳を含めた無申告者に対する立法措置による罰則化が始まりました。
これらの内容を踏まえ、国がとった対策としては、無記帳無申告者については隠ぺい仮装・重加算税賦課という観点から課税するのではなく、別の立法措置で無記帳無申告者に対して罰則を与えることを開始した、と推測されます。
無記帳無保存無申告の厳罰化が進んでいます
売上帳簿無しや売上記載不十分の納税者が税務調査中に指摘された場合は加算税が加重されます
隠ぺい仮装や無申告を指摘された納税者の税務調査中の後出し簿外経費が不可に
高額の無申告及び繰返す無申告に対する無申告加算税の加重改正
まとめ
・現在においては、無申告者については隠ぺい仮装が無しとされ、増額更正期間は5年のケースが多いと解されます。
・したがって、税務調査開始前に事前に修正申告書を提出する場合は、5年分を提出すれば良いと解されます。