(2023年11月24日作成)

結論

・事務運営指針は積極的な隠ぺい仮装行為の例示であり、積極的な行為が存在しない場合には悩まれるところ、最高裁平成7年4月28日判決以降は外部からもうかがい得る特段の行動を基準とした総合勘案が処分庁の主張や国税不服審判所の判断において行われていると解されます。

・しかし当然ながら、国税不服審判所で総合勘案した結果、処分庁が納税者が隠ぺい仮装を行ったとする主張が認められず、隠ぺい仮装は無かったとされる裁決が存在します。

根拠

まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。

不服申立制度や国税不服審判所や裁決要旨検索システムについて

国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。

当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例のうち弊所独自に抽出した件数の根拠20231121

以下において、導出の過程を記述いたします。

導出の過程

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、法令解釈において最高裁平成7年4月28日判決(最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決)を引用した裁決件数

弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、法令解釈において最高裁平成7年4月28日判決(最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決)を引用した裁決件数→14件

となりました。33件中14件ですので半数弱において引用されていました。

弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、法令解釈において最高裁平成7年4月28日判決(最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決)を引用した裁決一覧

・平成23年2月23日裁決(平成23年複雑な経理による仮受金勘定売上振替失念は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年2月14日裁決(平成24年eワラント取引について夫からや法人での運用知識から知識を有しており申告済みの年もあったが無申告だった年について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年2月22日裁決(平成24年過去申告経験があり消費税法の知識を有していて無申告であっても調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成29年8月23日裁決(平成29年多忙による売上計上漏れ記憶違いによる申述について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成30年1月11日裁決(平成30年申告の必要性が明記されている資料を受け取ったにも関わらず無申告であっても質問応答記録書の内容だけでは隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月27日裁決(平成30年居住用財産譲渡特別控除の適用及び適用理由答弁について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成31年4月9日裁決(平成31年住民税申告書提出の事実やパソコンに資料や集計表が存在して無申告であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年11月20日裁決(令和元年山林譲渡金額1億円が無申告で一時的に調査に非協力であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年2月13日裁決(令和2年過去申告経験済みで税理士が見つからず無申告であって一度資料を捨てた旨の発言をしたとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和4年4月15日裁決(令和4年年金受給者(ご高齢)である請求人の一時所得未計上について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和4年7月1日裁決(令和4年無申告で資料を破棄した旨の申述をしても通帳等その他資料は存在しており隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動が頻繁に多用される理由について弊所独自の見解

・重加算税賦課基準は明確とされていないため、まずは事務運営指針の例示を頼りにしている現状である。
・事務運営指針の例示は基本的には積極的な行為の例示であるため、積極的な行為が存在しない場合には判断が困ることになる。
・積極的な行為が存在しない場合等、隠ぺい仮装について最高裁平成7年4月28日判決以降は外部からうかがい得る特段の行動を基準とした総合勘案が、原処分庁、国税不服審判所の法令解釈、裁判所の法令解釈、において行われるようになった。
・そうすると処分庁は重加算税を賦課するためにとにかく外部からうかがい得る特段の行動を主張するようになり、国税不服審判所の法令解釈において頻繁に多用されるようになった。

以上のように解されます。なお、以下のページもご参考ください。

税務調査開始後、調査中の段階で重加算税を回避する方法が曖昧、不明瞭、いくら調べてもよくわからないのはなぜか
重加算税の取り扱いについての事務運営指針とは

最高裁平成7年外部からうかがい得る特段の行動を基準とした総合勘案による重加算税の賦課については批判的な意見が存在する

最高裁平成7年4月28日判決は査察調査による例外的ものであり、総合勘案を安易に適用し、重加算税を賦課するべきではない、という意見が存在します。

こちらのページをご参考ください。

税理士鴻秀明の隠ぺい仮装の拡大解釈や総合勘案による重加算税賦課はすべきでないという意見

最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決=つまみ申告判例=オリジナル命名:最高裁平成6年大部分脱漏(だつろう)殊更(ことさら)過少申告判決は、近年は引用されてないと解されます

積極的な隠ぺい仮装行為がない事例、無申告の事例、において重加算税賦課について論じられる場合、

・最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決=つまみ申告判例=オリジナル命名:最高裁平成6年大部分脱漏(だつろう)殊更(ことさら)過少申告判決
・最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決

当該2つが取り上げられます。しかし、近年における裁決においては、「最高裁平成7年4月28日判決=オリジナル命名:最高裁平成7年積極的な隠蔽なしの無申告だが当初から過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動をした判決」が頻繁に引用されており、最高裁平成6年つまみ申告判例は見かけないように解されます。

まとめ

納税者が重加算税を回避するためには、処分庁が主張する過少申告又は無申告の意図を当初からもうかがい得る特段の行動をしたという主張を否定する必要があると解されます。