(2023年11月10日作成)
事務運営指針とは
・法人税法、所得税法、消費税法、などは法律です。
・通達というのは上位官庁が下位官庁に対して発する内部規則(内規)です。つまり国税の分野においては、国税庁が国税局や税務署に対して発する内部規則(内規)となります。したがって通達は法律ではありません。
・事務運営指針は、通達と同じ内規です。違いは、
◎事務運営指針:国税の「内部事務」を行うにあたって国税全体が守るべき統一的なルール
◎通達:「法令解釈」を行うにあたって国税が守るべき統一的な解釈
となります。
重加算税の取り扱いについての事務運営指針とは
まずはこちらのページをごらんください。
税務調査開始後、調査中の段階で重加算税を回避する方法が曖昧、不明瞭、いくら調べてもよくわからないのはなぜか
以上のように、重加算税賦課基準である隠ぺい、仮装の定義、意義は法で明確化されておらず、隠ぺい、仮装の例示がされている現状唯一の基準とできるものが、重加算税の取り扱いについての事務運営指針、となります。
当該事務運営指針は、所得税、法人税、相続税及び贈与税について定められています。
なお消費税については「所得税又は法人税(以下「所得税等」という。)につき不正事実があり、所得税等について重加算税を賦課する場合には、当該不正事実が影響する消費税の不正事実に係る増差税額については重加算税を課する。」というやや簡便なものが定められているにすぎません。
申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)を見ましょう
原文
原文についてはこちらをご参考ください。
(令和5年6月23日付一部改正分まで更新)申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
弊所独自の要約
上記の原文を読みやすいように弊所にあくまで弊所独自にまとめます。
・行為者について
隠蔽又は仮装の行為については、特段の事情がない限り、納税者本人が当該行為を行っている場合だけでなく、配偶者又はその他の親族等が当該行為を行っている場合であっても納税者本人が当該行為を行っているものとして取り扱う。
・「隠蔽し、又は仮装し」とは、例えば、次に掲げるような事実(以下「不正事実」という。)がある場合をいう。
⑴ 二重帳簿を作成
⑵ ⑴以外の場合で、次に掲げる事実(以下「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」という。)があること。
① 帳簿、決算書類、契約書、請求書、領収書その他取引に関する書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること。
② 帳簿書類の改ざん、偽造、変造若しくは虚偽記載、相手方との通謀による虚偽若しくは架空の契約書、請求書、領収書その他取引に関する書類の作成又は帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装を行っていること。
③ 取引先に虚偽の帳簿書類を作成させる等していること。
⑶省略
⑷ 省略
⑸ 秘匿した売上代金等をもって本人以外の名義又は架空名義の預貯金その他の資産を取得していること。
⑹ 居住用財産の買換えその他各種の課税の特例の適用を受けるため、所得控除若しくは税額控除を過大にするため、又は変動・臨時所得の調整課税の利益を受けるため、虚偽の証明書その他の書類を自ら作成し、又は他人をして作成させていること。
⑺ 源泉徴収票、支払調書等(以下「源泉徴収票等」という。)の記載事項を改ざんし、若しくは架空の源泉徴収票等を作成し、又は他人をして源泉徴収票等に虚偽の記載をさせ、若しくは源泉徴収票等を提出させていないこと。
⑻ 調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせている
・次に掲げる場合で、当該行為が、相手方との通謀による虚偽若しくは架空の契約書等の作成等又は帳簿書類の破棄、隠匿、
改ざん、偽造、変造等によるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。
⑴ 収入金額を過少に計上している場合において、当該過少に計上した部分の収入金額を、翌年分に繰り越して計上してい
ること。
⑵ 売上げに計上すべき収入金額を、仮受金、前受金等で経理している場合において、当該収入金額を翌年分の収入金額に
計上していること。
⑶ 翌年分以後の必要経費に算入すべき費用を当年分の必要経費として経理している場合において、当該費用が翌年分以後
の必要経費に算入されていないこと。
暗記しやすいよう、更なる弊所独自の要約
1、納税者以外の家族が隠ぺい、仮装を行っても本人の行為と同一視する
2、二重帳簿を作成すると隠ぺい、仮装に該当する
3、帳簿書類を捨てる、隠すと隠ぺい、仮装に該当する
4、帳簿書類を改ざんすると隠ぺい、仮装に該当する
5、帳簿書類を相手方と通謀して虚偽の資料を作成すると隠ぺい、仮装に該当する
6、意図的に集計を間違って計上すると、隠すと隠ぺい、仮装に該当する
7、秘匿した売上金を取得すると隠ぺい、仮装に該当する
8、課税の特例の適用を受けるため虚偽の証明書を作成すると隠ぺい、仮装に該当する
9、源泉徴収票、支払調書等を改ざんすると隠ぺい、仮装に該当する
10、税務調査で虚偽の答弁等を行うと隠ぺい、仮装に該当する
11、売上、経費いずれにおいても期ずれの場合は帳簿書類の改ざん等がなければ隠ぺい、仮装に該当しない
法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)を見ましょう
原文
原文についてはこちらをご参考ください。
(令和5年6月23日付一部改正分まで更新)法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)
弊所独自の要約
上記の原文を読みやすいように弊所にあくまで弊所独自にまとめます。
・「隠蔽し、又は仮装し」とは、例えば、次に掲げるような事実(以下「不正事実」という。)がある場合をいう。
(1) 二重帳簿を作成していること。
(2) 次に掲げる事実(以下「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」という。)があること。
①帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること。
②帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。
③帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の収入を含む。)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること。
(3) 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。
(4) 簿外資産(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていない資産をいう。)に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。
(5) 簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿に計上していない収入金又は当該帳簿に費用を過大若しくは架空に計上することにより当該帳簿から除外した資金をいう。)をもって役員賞与その他の費用を支出していること。
(6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社としていること。
・使途不明の支出金に係る否認金につき、次のいずれかの事実がある場合には、当該事実は、不正事実に該当することに留意する。なお、当該事実により使途秘匿金課税を行う場合の当該使途秘匿金に係る税額に対しても重加算税を課すことに留意する。
(1) 帳簿書類の破棄、隠匿、改ざん等があること。
(2) 取引の慣行、取引の形態等から勘案して通常その支出金の属する勘定科目として計上すべき勘定科目に計上されていないこと。
・次に掲げる場合で、当該行為が相手方との通謀又は証ひょう書類等の破棄、隠匿若しくは改ざんによるもの等でないときは、帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない。
(1) 売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その売上げ等の収入が翌事業年度(その事業年度が連結事業年度に該当する場合には、翌連結事業年度。(2)において同じ。)の収益に計上されていることが確認されたとき。
(2) 経費(原価に算入される費用を含む。)の繰上計上をしている場合において、その経費がその翌事業年度に支出されたことが確認されたとき。
(3) 棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合。
(4) 確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合。
暗記しやすいよう、更なる弊所独自の要約
1、二重帳簿を作成すると隠ぺい、仮装に該当する
2、帳簿書類を捨てる、隠すと隠ぺい、仮装に該当する
3、帳簿書類を改ざん、通謀による虚偽の資料作成すると隠ぺい、仮装に該当する
4、売上を脱ろうすると隠ぺい、仮装に該当する
5、棚卸資産を除外すると隠ぺい、仮装に該当する
6、税額控除の要件の証明書を改ざんすると隠ぺい、仮装に該当する
7、簿外資産に係る収入果実を計上しないと隠ぺい、仮装に該当する(簿外資産計上未計上そのものは損益に影響しない)
8、簿外資金から費用を支出すると隠ぺい、仮装に該当する(簿外資金計上未計上そのものは損益に影響しない)
9、同族会社であるにもかかわらず非同族会社と偽ると隠ぺい、仮装に該当する
10、帳簿書類の改ざんを伴う使途不明金は隠ぺい、仮装に該当する
11、売上、経費いずれにおいても期ずれの場合は帳簿書類の改ざん等がなければ隠ぺい、仮装に該当しない
12、棚卸資産の過小評価は帳簿書類の改ざん等がなければ隠ぺい、仮装に該当しない
13、損金算入制限のある勘定科目違いは帳簿書類の改ざん等がなければ隠ぺい、仮装に該当しない
所得税の事務運営指針と法人税の事務運営指針を比較した場合の弊所独自の観点、視点
以下に分類して記述しようと思います。
・所得税及び法人税で共通することで気になる点
◎不正事実という言葉を改めて定義づけて使用している点
◎事業無関係の経費を計上した場合についての言及がされていない点
・所得税のみに存在するため気になる点
◎行為者について言及がある点
◎調査時の虚偽答弁について言及がある点
・法人税のみに存在するために気になる点
◎あくまで期ずれである棚卸資産について言及がある点
◎簿外資産、簿外資金について言及がある点
・所得税及び法人税において差異があることは当然であり気にならない点
所得税及び法人税で共通することで気になる点
◎不正事実という言葉を改めて定義づけて使用している点
税法、法律の解釈にあたっては文言、単語、がとても重要となります。改めて復習しましょう。
・隠ぺい、仮装が存在すると重加算税賦課基準を満たすことになります。
・偽りその他不正の行為が存在すると調査期間が最高7年間となります。
「隠ぺい、仮装」「偽りその他不正の行為」は税法上に存在します。一方、国税は「不正」という言葉を使用して勝手に言葉を作成しているように見受けられます。
・事務運営指針において→「不正事実」
・国税庁が毎年公表する「法人税等の調査事績の概要」において→「不正計算」「不正所得」「不正発見割合」「不正発見割合いの高い業種」
上記の「不正」は何を表しているのでしょうか。隠ぺい仮装があれば不正なのか、偽りその他不正の行為があれば不正なのか、その両方が存在する場合に不正なのか、それとも別の概念であるのか、判断できません。
ネット記事で散見される意見として「税務調査官は実は法律をよくわかっておらず、悪いことをしているから重加算税だと言ってくる」というような記事を拝見しますが、まさにこれが原因の可能性があります。
悪いこと→不正→不正だから重加算税
繰返しますが、隠ぺい、仮装があるから重加算税賦課基準を満たすのであって不正だから、悪いことをしたから、ではありません。
なお、隠ぺい、仮装と偽りその他不正の行為の違いについてはこちらのページもご参考ください。
◎事業無関係の経費を計上した場合についての言及がされていない点
税務調査における否認項目のイメージとして「事業無関係の経費、プライベートな経費、私的な経費、家事費、が過大に計上されている」という論点があると思います。
しかしながら、あくまで事務運営指針においてそれらは隠ぺい、仮装があったものとしての例示がされておりません。
国税不服審判所公表裁決、隠ぺい仮装があったと認めなかった裁決事例において、意図的にプライベート経費を過大に計上したとしても、隠ぺい仮装はないと判断されました。こちらのページをご参考ください。
所得税のみに存在するため気になる点
◎行為者について言及がある点
所得税の事務運営指針においては、納税者が以外が行った行為について納税者と同一視することが明記されています。一方法人税法では明記されておりません。法人の場合でも、代表者の家族が隠ぺい、仮装を行う可能性もあるところ、なぜ明記されていないのかは不明となります。なお、当該論点については、現在は最高裁判例の考え方により拘束されるものと解され、納税者以外の者が行った行為を納税者と同一視できる場合には、同一視するものと解されます。
弁護士税理士谷原誠のフォーミュラ(公式)を参考とした弊所独自の判定表を提唱します
最高裁平成17年1年17日判決を見る
最高裁平成18年4月20日判決を見る
◎調査時の虚偽答弁について言及がある
所得税の事務運営指針においては、納税者が虚偽答弁を行った場合についての明示があります。しかしながら法人税の事務運営指針においては同様の趣旨の明示は存在しません。しかし、これまでの裁決などを考えれば、法人税においても虚偽答弁を行った場合は、隠ぺい仮装に該当すると解するのが妥当するように思います。
法人税のみに存在するために気になる点
◎あくまで期ずれである棚卸資産について言及がある点
まず、棚卸資産を計上するというのは、費用収益を適切に対応させるという内容であり、実はただの期ずれの項目です。売上除外、架空経費の計上、その他改ざん、などとはその性質は異なります。売掛金の計上漏れ、費用経費の繰り上げ計上、と同様の性質となります。
棚卸資産の計上について改めて説明します。消耗品における切手を用いて説明します。切手を買いだめるということはよくあると思います、なぜならいちいち買いにいくのが面倒だからです。ある年に1万円分の切手をまとめて買ったとしましょう。購入時に消耗品1万円と計上します。しかし、その年において3千円しか使用しなければ、残りの未使用7千円は貯蔵品として消耗品勘定という経費勘定から資産勘定へ振り替えます。翌期に残り7千円を使用すれば2期を通じて1万円使用したというということになります。つまり2年通算すれば同じであることから、期ずれとなります。棚卸資産の場合は、今の話が販売商品の仕入勘定に置き換わるだけです。繰り返しますが棚卸資産は期ずれ項目です。
実務の面からイメージしてください。ある駄菓子屋を1人で経営しているご高齢の老人が、在庫管理を行い、決算期に棚卸してすべての数を数えなければ隠ぺい仮装に該当するのでしょうか?日本全体の個人事業主で、恐らく在庫管理を無視している個人事業主はたくさん存在するでしょう。そのことを考慮して所得税の事務運営指針においては棚卸資産の除外について明記がないのでしょうか。
法人の場合ははじめから当然としてある程度の記帳レベルを求める前提となっており、その影響で棚卸資産についても当然管理することとなり、管理できなければ隠ぺい仮装ということでしょうか。しかしながら、先の例で、ある駄菓子屋を1人で経営しているご高齢の老人が法人であった場合はどうなるのでしょうか?
しかし、法人に関しては税理士の関与している割合が高いとも言われています。それらの影響でしょうか。
◎簿外資産、簿外資金について言及がある点
個人事業主においても簿外資産、簿外資金は存在するはずであるところ、なぜか法人税においてのみ言及が存在します。これは何を意味するのでしょうか。
所得税及び法人税において差異があることは当然であり気にならない点
・使途不明金についての言及
・損金算入制限のある費用についての他勘定科目での計上についての言及
当該論点はそもそも所得税では発生しえない論点となります。
平成28年12月12日改正で隠ぺいが隠蔽という漢字表記に変更されました
タイトル通りとなりますが、平成28年12月12日の事務運営指針の改正で、隠ぺいが隠蔽という感じ表記に変更されました。しかしながら、国税不服審判所についてはまだ「隠ぺい」、を採用しているように思われます。
理由は不明となります。