(2020年3月4日作成)(2023年11月21日再編集)

結論

・国税不服審判所が公表している、裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例を弊所が分析しますと、処分庁がいいがかりのような隠ぺい仮装を主張していた事例が存在していることが判明しました。

・つまり税務調査において隠ぺい仮装を指摘され重加算税賦課処分を受けた納税者が、国税不服審判所で争えば、そもそも原処分庁のいいがかりのような隠ぺい仮装の主張であるため、重加算税取消が認められ、重加算税を回避できる可能性があります。

根拠

まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。

不服申立制度や国税不服審判所や裁決要旨検索システムについて

国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。当該事例を弊所独自に抽出して一覧にしたものがこちらのページとなります。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例にオリジナルのタイトルを付して一覧にしました

当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。

国税不服審判所公表裁決のうち弊所独自に分析した事例のうち国税が隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえないと感じた件数及びいいがかりだと感じた件数20231121

・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例→33件
◎内訳、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例→15件
◎内訳、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例→18件

となりました。以上とまとめますと、税務調査において隠ぺい仮装を指摘され重加算税賦課処分を受けた納税者が、国税不服審判所で争った結果、隠ぺい仮装が認められなかった裁決のうち、弊所が抽出した33件のうち18件はそもそも処分庁の言いがかりのような事例であることが判明しました。

以下において、導出の過程を記述いたします。

導出の過程

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

いいがかりとは言えない、いいがかりだ、と弊所が感じたの定義について

・処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例の定義
納税者が、資料を破棄している事例、資料を保存しているが無申告、集計をしているが無申告、売上除外をしている等、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例

・処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例の定義
納税者が、納税者にとって有利な特例を適用しただけにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した、納税者の単なるミスにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した、納税者が期ずれ処理を行っただけにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した等、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例

処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例一覧

・平成23年2月23日裁決(平成23年複雑な経理による仮受金勘定売上振替失念は隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成24年4月20日裁決(平成24年使用人決算賞与損金算入時期の期ずれについて通知日の隠匿虚偽記載等は存在しないので隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成25年9月26日裁決(平成25年請求書による経費繰上計上に納品日の隠匿虚偽記載等が存在しないので隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成25年11月13日裁決(平成25年土地建物売買仲介手数料が架空ではなく実態に即しているとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成26年10月9日裁決(平成26年輸入申告について委託通関業者任せとしていた知識不足により適正な課税価格の一部の資料しか送付しなかったことに気が付かなかったことは意図的に漏れ落とそうとしたものではないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成27年6月9日裁決(平成27年解約料を棚卸資産取得価格に含めなかったことについて隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成29年8月23日裁決(平成29年多忙による売上計上漏れ記憶違いによる申述について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成30年3月7日裁決(平成30年納税者が支払った金員を譲渡費用と解釈して積極的に計上したことについて隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年5月31日裁決(平成30年通達を解釈し寄付金とせず貸倒損失として処理について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月3日裁決(平成30年第三者が行った不正な不動産所得等確定申告については納税者の行為と同一視できないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月21日裁決(平成30年個人的な飲食代金であると認識しながら法人の損金としたとは認められないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
平成30年9月27日裁決(平成30年居住用財産譲渡特別控除の適用及び適用理由答弁について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成31年2月7日裁決(平成31年売上金が銀行振込から小切手払いに変更されたことに伴う売上漏れについて答述も考慮し隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和元年7月2日裁決(令和元年経費計上の期ずれの原因である検収書の施工完了日の記載について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年3月10日裁決(令和2年工事完了日とずれた納品日が記載されている請求書による経費計上について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
令和2年9月4日裁決(令和2年共同事業を途中まで行ったことに対する支払手数料の計上について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
令和3年6月22日裁決(令和3年隠ぺい仮装行為の始期については質問応答記録書の内容を認めなかった裁決)
令和4年4月15日裁決(令和4年年金受給者(ご高齢)である請求人の一時所得未計上について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

小括

当該ページを見ていただいておられる納税者の方で、税務調査を受けておられ、上記の裁決のようなケースに該当すれば、それは処分庁のいいがかりの重加算税であるとして、その取り消しを望めるかもしれません。

まとめ

・重加算税賦課処分後であっても納税者ご自身で処分庁がいいがかりのような隠ぺい仮装を主張していると分析できたのであれば、納税者ご自身で裁決で争い、重加算税賦課取消を勝ち取ることができるかもしれません。

・税務調査開始後、税務調査終盤、重加算税賦課処分後であっても、税務調査専門税理士に相談すれば、当該論点についてのアドバイスを受けられるかもしれません。