(2023年11月28日作成)
結論
・会計税務においていわゆる不正、悪いこと、を7年以上連続で行っていると、隠ぺい仮装及び偽りその他不正の行為があったとして、重加算税+重加算税賦課が7年間というのが最大の罰則となります。
・しかし、会計税務においていわゆる不正、悪いこと、を7年以上連続で行っている状況で、隠ぺい仮装には該当しないが、偽りその他不正の行為があったとされた場合には、重加算税は賦課されず過少申告加算税(無申告加算税)7年間という罰則となります。
・実際に、国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした事例が存在しました。
・そうすると理論上は、会計税務においていわゆる不正、悪いこと、を7年以上連続で行っている状況で、隠ぺい仮装該当するが、偽りその他不正の行為に該当しない場合には、重加算税が5年間賦課されるという罰則となると解されますが、その事例は現在発見できておりません。
・いずれにせよ、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の差異を明らかにすべきと解されますが、現在においてその差異は明らかにされておりません。
根拠
まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。
国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。
当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。
国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例のうち弊所独自に抽出した件数の根拠20231121
以下において、導出の過程を記述いたします。
導出の過程
国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール
・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件
・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。
弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした裁決の件数
弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした裁決の件数→2件
となりました。
弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、隠ぺい仮装は無かったが偽りその他不正の行為が存在するとした裁決一覧
・平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
・平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
上記の裁決はこちらのページでも記述した裁決となります。
上記の事例は、会計税務においていわゆる不正、悪いことを行っていたと印象を受けるが、隠ぺい仮装はないと判断されました。しかし、それらの行為は、偽りその他不正の行為に該当すると判断されました。
隠ぺい仮装及び偽りその他不正の行為についての税理士鴻秀明の意見
税理士鴻秀明の隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違いについての意見は下記をご参考ください。
改めてまとめると、
・隠ぺい仮装が存在することが、重加算税賦課の要件である。
・偽りその他不正の行為が存在すると、更正処分が7年間、延滞税の除算期間が認められなくなる。
・国税庁は重加算税対象の所得について「不正所得」と名付けて管理し、その「不正」という言葉を使うことにより、調査官や納税者は、「隠ぺい仮装」に係る所得と「偽りその他不正の行為」に係る所得とが同じ概念であると混同してしまった。
という意見でした。
つまり、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違い、差異、を明確にする必要性を述べています。
しかし、当該裁決の裁決文から、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違い、差異を定義づけるまでには至りませんでした
・平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)→(重加算税の賦課要件に該当する事実を認めるに足りる証拠はない、が)請求人が、平成20年分の所得税について、正当な税額を免れる目的で、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項(平成27年法律第9号による改正前のもの。)に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する過少申告行為をしたことは優に認められる。と判断した。
しかし、なぜ「優に認められる」のか、その理由は不明でした。
・平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)→(原処分庁は重加算税の賦課要件に該当する事実を主張及び立証しておらず、しかし)請求人は、本件事業に係る所得を全て秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額を殊更に過少にした内容虚偽の所得税等の確定申告書を提出し、また、法定申告期限までに消費税等の申告を行わず、本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等の税額を免れていたものと認められ、このような過少申告行為等は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為に該当するものと認められる、と判断した。
当該偽りその他不正の行為に該当するとした理由は、隠ぺい仮装にも該当するようにも思われますが、当該裁決においては隠ぺい仮装は無かったと判断されており、その違い、差異を解明するには至りませんでした。
国税不服審判所も基本的には隠ぺい仮装が存在した=偽りその他不正の行為にも該当するという傾向にあり、実際にその裁決が多い傾向にあります
当該内容についてはこちらをご覧ください。
改めますと、本来は隠ぺい仮装≒偽りその他不正の行為ですが、国税不服審判所の裁決、判断においてはその違い、差異を言及せず、隠ぺい仮装=偽りその他不正の行為という傾向があると解されます。
まとめ
・国税庁、税務調査官は、隠ぺい仮装に該当すればすなわち偽りその他不正の行為に該当するという考えの傾向がありますが、それは違うということは言い切れます。
・実際に、裁決において隠ぺい仮装に該当するが、偽りその他不正の行為には該当しないとした裁決が存在しました。
・しかしながら現在、隠ぺい仮装と偽りその他不正の行為の違い、差異、を定義づけることはできていないと解されます。