(2023年11月17日作成)

当該ページの活用方法

・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる

令和5年1月27日裁決のオリジナルのあだ名

令和5年無申告で販売取引においてプロフィールを偽ったとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決

当該裁決のまとめ

前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。

裁決の内容、要約、編集
(1) 事案の概要
・本件は、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、副業で行っていたインターネット販売に係る収益について、所得税等及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、インターネット販売において実在しない会社名や親族の名を使用 するなどの隠蔽又は仮装の行為があったとして、重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
・会社員である請求人は、平成24年頃から副業として、インターネット上に開設したネットショップで、自身で輸入した商品を販売していた。
・請求人は、平成26年頃、F社が運営するショッピングサイトに、店舗名を「G」とするネットショップ(以下「本件ネットショップ」という。)を出店した(以下、本件ネットショップにおける取引を「本件ネット販売」という。)。
・調査日←令和3年7月27日
・処分日←令和4年2月10日
・本件ネットショップの出品者情報を表示する画面(以下「出品者プロフィール画面」という。)内の「特定商取引法に基づく記載事項」欄には、正式名称「H社」、代表者「J」(請求人の母の姓名)、住所「a市d町○-○」と記載されていた。
・所得税及び復興所得税の調査対象期間となった期間
◎平成26年分→法定申告期限平成27年3月15日←処分日令和4年2月10日から7年以内
◎平成27年分→法定申告期限平成28年3月15日←処分日令和4年2月10日から6年以内
◎平成28年分→法定申告期限平成29年3月15日←処分日令和4年2月10日から5年以内
◎平成29年分→法定申告期限平成30年3月15日←処分日令和4年2月10日から4年以内
◎平成30年分→法定申告期限平成31年3月15日←処分日令和4年2月10日から3年以内
◎令和元年分→法定申告期限令和2年3月15日←処分日令和4年2月10日から2年以内
◎令和2年分→法定申告期限令和3年3月15日←処分日令和4年2月10日から1年以内
・消費税の調査対象期間となった期間
◎平成27年分→法定申告期限平成28年3月31日←処分日令和4年2月10日から6年以内
◎平成28年分→法定申告期限平成29年3月31日←処分日令和4年2月10日から5年以内
◎平成29年分→法定申告期限平成30年3月31日←処分日令和4年2月10日から4年以内
◎平成30年分→法定申告期限平成30年3月31日←処分日令和4年2月10日から3年以内
◎令和元年分→法定申告期限令和2年3月31日←処分日令和4年2月10日から2年以内
◎令和2年分→法定申告期限令和3年3月31日←処分日令和4年2月10日から1年以内
・請求人の主張
◎本件ネットショップに自身の名前を記載しなかったのは、勤務先では副業が認められておらず、勤務先に対して副業が知られないようにするためであった

(2)争点
・請求人に通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点1)。
・請求人に通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」があったか否か(争点2)。

(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
明確な明記はありませんが、国税庁の「課税処分に当たっての留意点」(平成25年4月 大阪国税局 法人課税課、TAINS H250400課税処分留意点178頁)を引用、参考としていると解されます。なお当該資料には、「『隠蔽』とは、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、また『仮装』とは、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲することをいう(名古屋地裁昭和55年10月13日判決)」としています。

(4)争点1、請求人に通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否かの審判所の判断
・認定事実
◎「H」及び「H社」は、法人としての登記がなく、実在しない会社名であり、会社としての実体も認められない。
◎本件ネット販売に係る売上代金についてはF社が購入者から回収しており、請求人は、売上代金の入金口座としてF社に請求人本人名義のK銀行○○支店普通預金口座(口座番号○○○○)を登録し、F社から同口座への振込入金により、当該売上代金を受領していた。
◎請求人が、本件ネット販売のための商品の仕入れに当たり、輸入手続を委託した輸入代行業者が作成した輸入申告書には、輸入者として「D」の名称が記載されている。
◎請求人は、本件ネット販売の仕入代金を請求人本人名義のL銀行○○支店普通預金口座(口座番号○○○○)及び上記(ニ)のK銀行の口座から支払っていた。
・あてはめ
◎商品を輸入する際は請求人本人の姓名で輸入申告を行い、請求人本人名義の預金口座で決済しており、商品の仕入先に対しては、請求人の実名で取引を行っていたと認められる。
◎本件ネット販売に係る売上代金について、F社に請求人本人名義の預金口座を登録し、当該預金口座にF社が顧客から回収した売上代金が入金されていたもので、F社に対しても、請求人の実名で取引を行っていたと認められる。
◎出品者プロフィール画面に請求人携帯番号を記載し、カスタマーサービス用のメールアドレスには請求人のメールアドレスを表示し、顧客からの問合せのメールに対しては請求人の姓を名乗って対応し、また、顧客に商品を発送する際は、発送伝票に請求人の姓と請求人携帯番号、請求人自身の住所地を記載するなどしていた。
◎商品の出品及び顧客への引渡しの前後で行われた商品の仕入れやF社を通じての売上代金の回収において、一貫して、請求人の実名で取引を行い、請求人本人名義の口座を用いていたことからすると、商品の出品及び顧客への引渡しの段階において、上記のように請求人の母の姓名を記載したり請求人の姓のみを記載したりしていたことをもって、直ちに請求人が本件ネット販売を行っていることを隠した又は請求人の母が本件ネット販売を行っているかのように装ったと評価することはできない。
◎特定商取引法等の問題は別にして、請求人携帯番号や請求人のメールアドレスの表示等、請求人自身の表示・記載をしている部分もあることなどからすると、このような会社名の使用等をもって、直ちに本件ネット販売に係る取引上の名義を隠す、あるいは、他人と偽る行為であるということはできない。
◎請求人は、商品の仕入れ、商品の出品や顧客への引渡し、F社を通じての代金回収といった本件ネット販売の各取引段階において、取引上の名義に関し、あたかも請求人以外の者が取引を行っていたかのごとく装い、故意に事実をわい曲するなどの仮装行為を行っていた又は請求人に帰属する本件ネット販売の売上げを秘匿する等の隠蔽行為を行っていたと認めることはできない。
◎そして、他に、請求人が本件ネット販売に係る売上げを隠蔽し、又は売上げが請求人に帰属しないかのごとく取引名義を仮装したことを示す証拠は見当たらない。
◎したがって、本件ネット販売において、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実の隠蔽又は仮装の行為があったとは認められず、請求人に、通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。

(5)争点2、請求人に通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」があったか否かの審判所の判断
・請求人が、本件ネット販売に係る売上げについて、自己に帰属しないかのごとく取引名義を仮装していた又は当該売上げを隠蔽していたとは認められないところ、隠蔽又は仮装の具体的事実を特定できない本件にあって、他に何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為があったと認めるに足る証拠はない。
・したがって、請求人に、通則法第70条第5項に規定する「偽りその他不正の行為」があったとは認められない。

(6)結果
・所得税及び復興所得税の調査対象期間となった期間
◎平成26年分→法定申告期限平成27年3月15日←処分日令和4年2月10日から7年以内←偽りその他不正の行為が無かったとして処分対象期間外として無申告加算税及び重加算税取消
◎平成27年分→法定申告期限平成28年3月15日←処分日令和4年2月10日から6年以内←偽りその他不正の行為が無かったとして処分対象期間外として無申告加算税及び重加算税取消
◎平成28年分→法定申告期限平成29年3月15日←処分日令和4年2月10日から5年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成29年分→法定申告期限平成30年3月15日←処分日令和4年2月10日から4年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成30年分→法定申告期限平成31年3月15日←処分日令和4年2月10日から3年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎令和元年分→法定申告期限令和2年3月15日←処分日令和4年2月10日から2年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎令和2年分→法定申告期限令和3年3月15日←処分日令和4年2月10日から1年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
・消費税の調査対象期間となった期間
◎平成27年分→法定申告期限平成28年3月31日←処分日令和4年2月10日から6年以内偽りその他不正の行為が無かったとして処分対象期間外として無申告加算税及び重加算税取消
◎平成28年分→法定申告期限平成29年3月31日←処分日令和4年2月10日から5年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成29年分→法定申告期限平成30年3月31日←処分日令和4年2月10日から4年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎平成30年分→法定申告期限平成30年3月31日←処分日令和4年2月10日から3年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎令和元年分→法定申告期限令和2年3月31日←処分日令和4年2月10日から2年以内←重加算税を取り消して無申告加算税
◎令和2年分→法定申告期限令和3年3月31日←処分日令和4年2月10日から1年以内←重加算税を取り消して無申告加算税

当該裁決のさらなる要約
・請求人は所得税及び消費税について無申告でした。
・請求人は、勤務先では副業が禁止されていた。
・請求人は、H社という実態のない会社名を本件ネットショップの正式名称のプロフィールに使用していた。
・請求人は、Jという請求人の母の姓名を本件ネットショップの代表者欄のプロフィールに使用していた。
・請求人は、輸入仕入れについては本人名義で行っていた。
・請求人は、売上代金の回収には本人名義の通帳を使用していた。

弊所独自の考察

・弊所独自の視点
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえない、と弊所が感じた事例です。請求人は、副業の売上について認識していたにも関わらず無申告だったからです。
◎しかし、今回は無申告であるため隠ぺい仮装が認められなった可能性が高いと解されます。
◎当該裁決は、本件ネットショップにおいてプロフィールを偽ったことがすなわち無申告についても、隠ぺい仮装及び偽りその他不正の行為に該当するのかが争点になったと解されます。
◎当該裁決は、おそらく、特定商取引法等における偽りの問題なのであって、すなわちそのことが税法に該当するとはならない、と解されました。
◎当該裁決において、もし仮に請求人が申告をしていたら、本件ネットショップにおいてプロフィールを偽っていたことは問題とならなかったように解される。
◎当該裁決において、もし仮に母親名義で申告している等の場合は、また違った争点、違った論点が発生したように解されます。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料の保存は存在したと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査での虚偽発言は無かったように解されます。
◎当該裁決において、偽りその他不正の行為について争点が存在しましたが、隠ぺい仮装との差異についての言及は無かったように解されます。

・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
無申告であり販売取引においてプロフィールを偽ったとしても隠ぺい仮装が無かったと主張すれば重加算税賦課を回避できる可能性があります。(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)