(2023年11月15日作成)

当該ページの活用方法

・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる

令和元年7月2日裁決のオリジナルのあだ名

令和元年経費計上の期ずれの原因である検収書の施工完了日の記載について隠ぺい仮装を認めなかった裁決

当該裁決のまとめ

前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。

裁決の内容、要約、編集
(1)事案の概要
・本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、手書の図面を電子データ化する費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該電子データ化が完了していないにもかかわらず、相手方と通謀して虚偽の証ひょう書類を作成し、当該費用を損金の額に算入したことが事実の仮装の行為に当たるとして、法人税等の重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、相手方と通謀して虚偽の証ひょう書類を作成した事実はないとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である
・本件工事の内容
◎既存の図面(以下「原図」という。)をCADソフトを利用して電子データ化(以下、この電子データ化されたデータを「本件CADデータ」という。)する工事である。
◎完成図書の製本は、原則、図面はA4サイズで印刷し、キングファイルにまとめて2部提出すること。
◎本件CADデータは、CD-ROM等の外部記録媒体に保存して提出すること。
・請求人は、本件工事をK社に本件工事を発注した。
・請求人の本工事の責任者はJであり、K社の責任者はMである。
・K社は、平成29年3月20日、キングファイル2冊(以下「本件ファイル」という。)を本件事業所に提出した。
・K社は、本件工事に係る「検収依頼伝票/検収報告書」(以下「本件検収書」という。)の「施工完了日」欄に「2017年(平成29年)3月20日」と記載して、本件検収書を本件事業所に提出した。
・K社は、「工事完了に伴う検収報告のお願いについて」と題する書面(以下「本件検収願い」という。)の「検収年月日」欄に「2017年(平成29年)3月20日」と記載して、本件検収願いを本件事業所に提出した。
・ 請求人は、平成29年3月20日、本件工事の代金3,750,000円(税抜き)を損金の額に算入するとともに、4,050,000円(税込み)を消費税の課税仕入れに係る支払対価の額に算入した。
・K社は、平成29年6月末頃、本件CADデータを格納した外部記録媒体(以下「本件記録媒体」という。)を本件事業所に提出した。
・処分日←平成30年5月29日
・調査日←平成29年9月26日から9月29日
・法人税及び消費税調査対象期間←平成29年3月期←法定申告期限平成29年5月31日←処分日から1年以内

(2)争点
請求人には通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったか否か。

(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
明確な明記はありませんが、国税庁の「課税処分に当たっての留意点」(平成25年4月 大阪国税局 法人課税課、TAINS H250400課税処分留意点178頁)を引用、参考としていると解されます。なお当該資料には、「『隠蔽』とは、課税標準等又は税額の計算の基礎となる事実について、これを隠蔽し、あるいは故意に脱漏することをいい、また『仮装』とは、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲することをいう(名古屋地裁昭和55年10月13日判決)」としています。

(4)争点の審判所の判断
・平成29年3月20日に提出された本件ファイルは、少なくとも原図の電子データ化は終了し、本件ファイルは原図どおりの図面をまとめたものであったと認められる。
・完全検収は紙ベースの完成図書と電子データが提出された時点とされているものの、施工業者から紙ベースの完成図書が提出された日を「検収依頼伝票/検収報告書」の「検収日」欄に記載されていた例があることからすると、電子データが提出されない限り検収できないといった意識が一般的にあったものとは認められない。
・Jは、次のとおり申述した。本件工事の役務提供が完了したのは、はっきりとは覚えていないが、本件CADデータの作成年月日が平成29年6月28日となっていることから、その日以降に役務提供が完了したことは間違いないと思う。現場としては、電子データが来なくても、紙ベースの完成図書が引き渡されていれば完全検収としていた。
・Mは、次のとおり申述した。ドラフト版として書類ベースの引渡しは、平成29年3月20日に行っている。はっきりとは覚えていないが、本件CADデータの作成年月日が平成29年6月28日となっているから、その日以降に納入し役務提供が完了したことになる。確か問題になっている工事の1年前にも同様な工事があり、紙ベースのものを提出すれば、請求人は検収してくれた。当社は、図面の場合には原図どおりに提出すれば、本来仕事は終了であり、それと同じように今回もしただけである。
・J及びMの申述の内容について。本件ファイルが完成図書ではないと認識しつつ、契約満了日までに検収を終わらせるため、あえて虚偽の検収日を記載したことを認めたものとは考えられない。
・J及びMの申述は、いずれも質問調査が実施された平成29年11月28日において、客観的事実として、本件調査担当職員からの役務の提供が未了である旨の指摘を認めたことを示すものにすぎない。
・JがMと通謀し、虚偽の施工完了日及び検収日が記載された本件検収書を作成することにより、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、あたかも役務の提供が完了したかのように故意に事実をわい曲したとは認められない。
・以上のとおり、JがMと通謀し、意図的に本件検収書に虚偽の検収日を記載したとは認められず、その他の証拠によっても請求人が故意に事実を仮装することによって、本件工事の代金を本件事業年度の損金の額又は課税仕入れに係る支払対価の額に算入したと評価すべき事実も認められないことから、請求人に通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったとは認められない。
(5)結果
・損金計上時期の期ずれは認められることから過少申告加算税は相当である。
・法人税及び消費税調査対象期間←平成29年3月期←重加算税賦課を取り消す。

当該裁決のさらなる要約
・請求人は手書きの図面をデータ化する工事を発注した。
・当該工事は、①製本ファイルをもらうこと、②データの入った外部記録媒体をもらうこと、で納品が完了する。
・当該工事は、平成29年3月期中に①製本ファイルは受け取ったが、②外部記録媒体は平成30年3期中に受け取っていた。しかし、請求人は平成29年3月期の法人税法上及び消費税法上の経費として計上した。
・原処分庁はまず期ずれを指摘した。そして、検収書の施工完了日を「2017年(平成29年)3月20日」と記載したことは隠ぺい仮装に該当すると指摘した。
・しかし、J及びMは、本件ファイルが提出された時点で本件工事に係る役務の提供が実質的に完了しているとの認識の下、本件検収書にそれぞれ施工完了日及び検収日を2017年(平成29年)3月20日と記載したと認められ、JがMと通謀し、虚偽の施工完了日及び検収日が記載された本件検収書を作成することにより、本件工事に係る役務の提供が完了していないにもかかわらず、あたかも役務の提供が完了したかのように故意に事実をわい曲したとは認められない、とした。

弊所独自の考察

・弊所独自の視点
◎当該裁決は、外部記録媒体納品日より前に発行された検収書に記載された日付を基準として経費計上したために、期ずれとなった事例と解されます。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりである、と弊所が感じた事例です。なぜなら今回は、納品完了日がいつであるかの判断は難しかったように思われます。結果として経費計上を早めたため期ずれとなりました。しかしそのことについて国税が単なる期ずれを納品完了日の隠匿虚偽記載等であるといいがかりをつけてきたように感じたからです。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査での虚偽発言は無かったと解されます。

・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
国税が単なる期ずれについて隠匿虚偽記載等を主張してくるケースがあるのでそのようないいがかりについては否定することで重加算税賦課を回避できる可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)