(2023年7月24日作成)(2023年12月27日再編集)
結論
・税務署の調査官等が、隠ぺい仮装を行った者及び無申告である者という納税義務に対して不誠実な納税義務者に対して、当該不誠実な納税義務者を救済するような反面調査を拒否できる可能を広げた法律の改正、と解されます。
当該改正の目的、意図、狙い(弊所独自の見解)
税務署が資産購入製造販売譲渡直接経費以外の根拠の乏しい間接経費に関する反面調査をしなければならないケースを狭める目的及び納税者から根拠の乏しい間接経費の計上についての交渉を拒否する目的、と解されます。以下において根拠を説明いたします。
「無申告であった納税者が税務調査の場において、振込履歴等は存在しないが現金で支払った外注費(資産購入製造販売譲渡以外の間接経費の代表的なもの)があるとして、現金伝票に手書きで金額のみを記入した根拠の乏しい現金伝票を提出してきたケース」で考えます。
・後出し簿外経費改正前において想定されるやりとり
納税者が上記の根拠の乏しい外注費の経費計上を認めるように主張する→税務署調査官は手書きの現金伝票のみでは根拠が乏しいため認めないと主張する→納税者が、①外注費の経費計上を認めないのであれば当該外注費を存在しないことを反面調査して証明せよと主張、②所得税法上及び法人税法上における経費計上においては上記のような手書き伝票での経費計上は認められていると主張、③仮に相手方と連絡がつかない場合であっても②を根拠に経費計上を主張する→税務調査官は外注費の反面調査を行い、当該外注費が存在しない証明を時間的コスト、人員コストをかけて行わなければならない。
・後出し簿外経費改正後において想定されるやりとり
納税者が上記の根拠の乏しい外注費の経費計上を認めるように主張する→税務署調査官は①帳簿書類等により取引の相手方が明らかである場合②その他その取引が行われたことが明らかである場合③その他その取引が行われたことが推認される場合、かつ反面調査により税務署長がその取引が行われ、これらの額が生じたと認めた場合にのみ経費計上は認められると主張する→したがって今回は、手書きの現金伝票しか存在しないため①②③が存在せず、外注費の反面調査は行わないと主張→不要、無用、無駄な反面調査のコストをカット→根拠の乏しい間接経費は法律で認められなくなったと主張→納税者からの経費計上の交渉に対応する時間コストをカット
となると解されます。したがって、
税務署が資産購入製造販売譲渡直接経費以外の間接経費に関する反面調査をしなければならないケースを狭めている
税務署が納税者からの根拠の乏しい間接経費計上についての交渉に対するして拒否でき、時間的コストカットができる
と解されます。
後出し簿外経費不可とは
後出し簿外経費不可という文言は正式な用語ではないと思われます。
・国税庁ホームページの法人税法において「証拠書類のない簿外経費についての損金不算入措置」という文言は見つけることができました。
・国税庁のホームページの所得税法においては「証拠書類のない簿外経費についての必要経費不算入措置」という文言は見つけることはできませんでした。(2023年7月24日現在)
・財務省トップページ 税制 毎年度の税制改正 税制改正の概要 令和4年度 令和4年度 税制改正の解説 所得税法等の改正 詳解、において「証拠書類のない簿外経費」という文言が見受けられました(財務省トップページ 税制 毎年度の税制改正 税制改正の概要 令和4年度 令和4年度 税制改正の解説 所得税法等の改正 詳解)
・財務省トップページ 税制 毎年度の税制改正 税制改正の概要 令和4年度 令和4年度 税制改正の解説 法人税法等の改正 詳解、において「証拠書類のない簿外経費」という文言が見受けられました(財務省トップページ 税制 毎年度の税制改正 税制改正の概要 令和4年度 令和4年度 税制改正の解説 法人税法等の改正 詳解)
以上を総合勘案すると、
証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置=後出し経費不可
と推測されます。
以下においては、証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置、後出し経費不可、の文言のいずれも使用いたします。
根拠規定における「であって、相手方に対する調査により税務署長が認める場合」がポイントであると解されます
根拠規定:法人税法55条3項
3 内国法人が、隠蔽仮装行為に基づき確定申告書(その申告に係る法人税についての調査があつたことにより当該法人税について国税通則法第25条(決定)の規定による決定があるべきことを予知して提出された期限後申告書を除く。以下この項において同じ。)を提出しており、又は確定申告書を提出していなかつた場合には、これらの確定申告書に係る事業年度の第22条第3項第1号(各事業年度の所得の金額の計算の通則)に掲げる原価の額(資産の販売又は譲渡における当該資産の取得に直接に要した額及び資産の引渡しを要する役務の提供における当該資産の取得に直接に要した額として政令で定める額を除く。)、同項第2号に掲げる費用の額及び同項第3号に掲げる損失の額(その内国法人が当該事業年度の確定申告書を提出していた場合には、これらの額のうち、その提出した当該確定申告書に記載した第74条第1項第1号(確定申告)に掲げる金額又は当該確定申告書に係る修正申告書(その申告に係る法人税についての調査があつたことにより当該法人税について更正があるべきことを予知した後に提出された修正申告書を除く。)に記載した同法第19条第4項第1号(修正申告)に掲げる課税標準等の計算の基礎とされていた金額を除く。)は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。ただし、次に掲げる場合に該当する当該原価の額、費用の額又は損失の額については、この限りでない。
一 次に掲げるものにより当該原価の額、費用の額又は損失の額の基因となる取引が行われたこと及びこれらの額が明らかである場合(災害その他やむを得ない事情により、当該取引に係るイに掲げる帳簿書類の保存をすることができなかつたことをその内国法人において証明した場合を含む。)
イ その内国法人が第126条第1項(青色申告法人の帳簿書類)又は第150条の2第1項(帳簿書類の備付け等)に規定する財務省令で定めるところにより保存する帳簿書類
ロ イに掲げるもののほか、その内国法人がその納税地その他の財務省令で定める場所に保存する帳簿書類その他の物件
二 前号イ又はロに掲げるものにより、当該原価の額、費用の額又は損失の額の基因となる取引の相手方が明らかである場合その他当該取引が行われたことが明らかであり、又は推測される場合(同号に掲げる場合を除く。)であつて、当該相手方に対する調査その他の方法により税務署長が、当該取引が行われ、これらの額が生じたと認める場合
根拠規定:所得税法45条3項
3 その年において不動産所得、事業所得若しくは山林所得を生ずべき業務を行う居住者又はその年において雑所得を生ずべき業務を行う居住者でその年の前々年分の当該雑所得を生ずべき業務に係る収入金額が300万円を超えるものが、隠蔽仮装行為(その所得の金額又は所得税の額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装することをいう。)に基づき確定申告書(その申告に係る所得税についての調査があつたことにより当該所得税について決定があるべきことを予知して提出された期限後申告書を除く。以下この項において同じ。)を提出しており、又は確定申告書を提出していなかつた場合には、これらの確定申告書に係る年分のこれらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額(資産の販売又は譲渡における当該資産の取得に直接に要した額及び資産の引渡しを要する役務の提供における当該資産の取得に直接に要した額として政令で定める額を除く。以下この項において「売上原価の額」という。)及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額(その居住者がその年分の確定申告書を提出していた場合には、これらの額のうち、その提出した当該確定申告書に記載した第120条第1項第1号(確定所得申告)に掲げる金額又は当該確定申告書に係る修正申告書(その申告に係る所得税についての調査があつたことにより当該所得税について更正があるべきことを予知した後に提出された修正申告書を除く。)に記載した国税通則法第19条第4項第1号(修正申告)に掲げる課税標準等の計算の基礎とされていた金額を除く。)は、その者の各年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額及び雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。ただし、次に掲げる場合に該当する当該売上原価の額又は費用の額については、この限りでない。
一 次に掲げるものにより当該売上原価の額又は費用の額の基因となる取引が行われたこと及びこれらの額が明らかである場合(災害その他やむを得ない事情により、当該取引に係るイに掲げる帳簿書類の保存をすることができなかつたことをその居住者において証明した場合を含む。)
イ その居住者が第148条第1項(青色申告者の帳簿書類)又は第232条第1項若しくは第2項(事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等)に規定する財務省令で定めるところにより保存する帳簿書類
ロ イに掲げるもののほか、その居住者がその住所地その他の財務省令で定める場所に保存する帳簿書類その他の物件
二 前号イ又はロに掲げるものにより、当該売上原価の額又は費用の額の基因となる取引の相手方が明らかである場合その他当該取引が行われたことが明らかであり、又は推測される場合(同号に掲げる場合を除く。)であつて、当該相手方に対する調査その他の方法により税務署長が、当該取引が行われ、これらの額が生じたと認める場合
適用時期
・個人事業主については令和5年(2023年)分以後の所得税について適用されます。
・法人については令和5年(2023年)1月1日以後開始する事業年度について適用されます。
「であって、相手方に対する調査により税務署長が認める場合」とは
①相手方が明らかである場合であって、相手方に対する調査により税務署長が認める場合、資産購入製造販売譲渡以外の間接経費が認められる。
②その他その取引が行われたことが明らかである場合であって、相手方に対する調査により税務署長が認める場合、資産購入製造販売譲渡以外の間接経費が認められる。
③その他その取引が行われたことが推認される場合であって、相手方に対する調査により税務署長が認める場合、資産購入製造販売譲渡以外の間接経費が認められる。
と解されます。反対解釈として
①相手方が明らかでない場合は、相手方に対する調査をしない
②その他その取引が行われたことが明らかでない場合は、相手方に対する調査をしない
③その他その取引が行われたことが推認されない場合は、相手方に対する調査をしない
と解されます。
後出し簿外経費不可のまとめ
概要をまとめますと、
・個人事業主も法人も
・隠蔽仮装行為を税務調査中に指摘された場合、無申告を税務調査中に指摘された場合は、
・基本的には保存している帳簿書類により取引が明らかになる場合のみ仕入・経費となる
・税務調査中に提出した根拠が乏しい間接仕入・経費は税務署は当該間接仕入・経費に対する反面調査等は行わない
・したがって、根拠が乏しい間接仕入・経費は根拠が乏しいままであるため、税務調査中の後出し的な間接仕入・経費は認められなくなった
となります。
無申告案件及び重加算税案件に限りますが、過少申告の場合はそもそも単なるミスによる過少申告案件を前提に話が進むか、重加算税案件を前提に話が進むかは、調査開始後でなければわからない
無申告案件の場合
無申告者に対して税務調査が行われる場合は、無申告者に対する税務調査であることが調査前から明らかであり、税務調査の段階を経てその事実が変わることは無いと思われます。従って、無申告の場合、当該改正の影響を受けないことを希望する場合は、税務調査初日の前日までに事前に修正申告を提出するしか方法はありません。
過少申告案件の場合
・税務調査において過少申告の指摘→過少申告の理由が単なるミスの場合→過少申告案件として証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置の影響は受けないことになります。
・税務調査において過少申告の指摘→過少申告の理由が隠蔽仮装による場合→重加算税案件として証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置の影響を受けることになります。
従って、過少申告の場合は、税務調査が開始してからでなければ当該改正の影響を受けるかどうか不明となります。
しかし、最も推奨する方法は、そもそも重加算税の案件ならないために、税務調査初日の前日までに事前に修正申告を提出する方法となります。
証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置改正の経緯
証拠書類のない簿外経費の必要経費不算入・損金不算入措置の改正の経緯としては、
・隠蔽仮装をしていた納税者の簿外経費の主張として事後的に提出された書類の確認に多大な事務量を要した事例
・無記帳・無申告の者に対する推計課税事案
のような事例が、かつてより問題視されていたためです
簿外経費の主張として事後的に提出された書類の確認に多大な事務量を要した事例(第6回 納税環境整備に関する専門家会合(2021年8月10日)資料一覧)
【事案の概要】
●調査対象者は翻訳業務を行う個人事業者。調査の過程で、多額の家事関連費(自宅や親族宅の家賃、飲食代、衣料品代等が数億円)が費用計上されていることを把握。
●上記問題点を指摘したところ、計上漏れ経費がある旨の申立てがあった。後日、家事関連費とほぼ同額の外注費として1,000枚超の領収書(支払先数百名分)が提出され、全て現金手渡しでの支払いであったと主張。領収書記載の外注先は、大半が海外居住者であり、国内居住者の大部分についても居住実態が確認できない者だった。
●調査官は、上記領収書の解明及び居住等調査に加え、反面調査等により事実関係を確認した結果、領収書記載の取引が虚偽であると認定。必要経費として認容しないこととして更正処分を行ったが、上記の調査に当たっては約1,000人日の事務量を投下。
【問題点】
●後出し的な簿外経費の主張であっても、当局側が多大な事務量を投下してその真偽を確認しなければならない。特に現金払いの簿外経費については、銀行取引明細等による確認ができないため、支払の事実を確認する負担が大幅に増加する。
連年事業を行うも無記帳・無申告の者に対する推計課税事案(第6回 納税環境整備に関する専門家会合(2021年8月10日)資料一覧)
【事案の概要】
●調査対象者は防水工事を営む個人事業者。明らかに事業を営んでいるが連年無申告。
●再三にわたって連絡票を差し置いたにもかかわらず、納税者から一切連絡がなかったため、近隣の銀行や取引先に対する反面調査を実施。
●反面調査により把握した売上金額(実額)と、同業者の経費率から算出した必要経費を用いて所得金額を推計し、決定処分を行った。【調査期間:6ヵ月、重加算税の賦課なし。】
【問題点】
●「無記帳の者」、「帳簿書類の保存(提示)をしない者」であっても、推計課税により、同業者と同程度の必要経費が認められる。
● 一般の事業者が果たしている、「記帳」や「帳簿書類の保存(提示)」の義務を果たさなくても「仮装隠蔽」には当たらないことから、重加算税(ペナルティ)を受けない。
影響大と推測される業種(弊所独自の推測)
・資産を仕入て販売譲渡を行う、卸売業、小売業、製造業を除くサービス業が全般的に影響が大きいと推測されます。
・外注費が多額と見込まれる、建設業や一人親方の大工などが全般的に影響が大きいと推測されます。
・ユーチューバーは、直接経費が少ないので影響が大きいと推測されます。
その他気が付いた時点で加筆します。
影響大と推測される業種(事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種を参考に)
・経営コンサルタント←直接仕入経費が少ないサービス業と解されます。
・タイル工事←外注費が高額と解されます。
・冷暖房設備工事←外注費が高額と解されます。
・バー←ヘルプホスト、ヘルプホステスなどの外注費が高額と解されます。
・電気通信工事←外注費が高額と解されます。
・システムエンジニア ←直接仕入経費が少なく、外注費が高額と解されます。
・商工業デザイナー←直接仕入経費が少なく、外注費が高額と解されます。
・不動産代理仲介←直接仕入経費が少ないサービス業と解されます。
・外構工事←外注費が高額と解されます。
・型枠工事←外注費が高額と解されます。
・一般貨物自動車運送←直接仕入経費が少ないと解されます。
影響大と推測される業種(法人税、不正発見割合の高い10業種を参考に)
・土木工事←外注費が高額と解されます。
・職別土木建築工事←外注費が高額と解されます。
・一般土木建築工事←外注費が高額と解されます。
・管工事←外注費が高額と解されます。
・その他の道路貨物輸送←直接仕入経費が少ないと解されます。
・バー・クラブ ←ヘルプホスト、ヘルプホステスなどの外注費が高額と解されます
影響大と推測される業種(法人税、不正1件当たりの不正所得金額の大きな10業種を参考に)
・運輸附帯サービス←直接仕入経費が少ないと解されます。
・その他の対事業所サービス←直接仕入経費が少ないサービス業と解されます。
・その他の不動産←直接仕入経費が少ないサービス業と解されます。
・情報サービス、興信所←直接仕入経費が少ないサービス業と解されます。
まとめ
・隠ぺい仮装を行った者は、重加算税が賦課されることに加えて、後出し簿外経費も認められなくなりました。
・無申告者が重加算税が課税されにくいことに対する批判の影響もあり、無申告者に対する厳罰化として後出し簿外経費が認められなくなりました。
過少申告かつ偽りその他不正の行為、隠ぺい仮装に心当たりがある方で調査通知があった方、あきらめないでください、調査通知後から調査日の前日までに自主修正申告をすれば重加算税を回避できることが国税通則法第68条1項に定義づけられています!(こちらの解説ページをご参考ください)
税務署から電話があっても慌てないでください!調査開始前であればまだ対応策は残されております。弊所にご連絡ください!