(2023年11月14日)
当該ページの活用方法
・当該裁決の内容を理解する
・ご自身の税務調査に当てはまる、活用できそうなら、当該裁決内容及びあだ名を覚える
・ご自身の税務調査の場で活用させる
平成30年5月31日裁決のオリジナルのあだ名
平成30年通達を解釈し寄付金とせず貸倒損失として処理について隠ぺい仮装を認めなかった裁決
当該裁決のまとめ
前提
・原文ではなく、弊所が内容を編集しております
・上記にもあるように、弊所の私見による内容の編集、見解を記述しているにすぎません。
裁決の内容、要約、編集
(1) 事案の概要
・本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、いわゆる兄弟会社の債務を引き受けるとともに、これにより発生した当該兄弟会社に対する債権を放棄し、当該債権放棄の金額について、貸倒損失勘定に計上し、所得金額の計算上損金の額に算入して、翌期へ繰り越すべき欠損金がある旨の法人税及び復興特別法人税の各確定申告をした。
・そして後続事業年度において、当該欠損金の額を所得金額から控除して上記各税の各確定申告をした。
・その点について原処分庁の指摘を受けて、当該債権放棄の金額について、所得金額の計算上寄附金の額に該当するとして当該先行事業年度の上記各税の各修正申告をし、これに伴って、当該後続事業年度の上記各税の各修正申告をした。
・すると原処分庁が、当該債権放棄の金額を当初において寄付金ではなく貸倒損失勘定に計上したことについて、隠ぺい又は仮装に該当するとして、当該後続事業年度の上記各税に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、事実の隠ぺい又は仮装はないとして、当該各処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。
・請求人は、パチンコ店等を経営する同族会社であり、請求人の代表取締役はEである。
・H社(平成22年9月○日にJ社へ商号変更された。以下「本件分割法人」という。)は、コンサルタント事業、労働者派遣事業及びレストラン(中華料理店)経営事業等を営む同族会社であるところ、平成12年10月頃、経営していたレストランを閉鎖し、以後は、主にコンサルタント事業及び労働者派遣事業を行っていた。
・Eは、本件分割法人の設立当初から、本件分割法人の代表取締役であり、同人は、遅くとも平成21年8月31日以降、本件分割法人 の発行済株式の全てを保有していた。
・請求人は、平成22年3月1日から平成23年2月28日までの事業年度において、K社から、借入金に係る債務免除を受け、1,910,205,172円の債務免除益(以下「本件債務免除益」という。)を計上した。
・本件分割法人は、平成22年8月20日付で、本件分割法人の事業用資金等の借入先であるL信用金庫(以下「本件金融機関」という。)に対し、要旨、本件債務免除益の計上によって生ずる請求人における租税負担と請求人の資金繰り悪化に対応するため、請求人の本件分割法人に対する貸付金を貸倒損失として処理することを目的として、本件分割法人の会社分割及び特別清算や、本件分割法人の本件金融機関に対する債務の請求人による引受けをそれぞれ行う予定であることを記載した書面を交付し、会社分割を行うことについての協力等を要請した。
・本件分割法人は、平成22年9月○日、新設分割(以下「本件会社分割」という。)により、Eを代表取締役としてH社(以下「本件分割承継法人」という。)を新たに設立し(この際、本件分割法人は、従来のH社からJ社へと商号変更した。)、本件分割法人のレストラン経営事業以外の全ての事業に関する権利義務を本件分割承継法人に承継させて、同月○日に解散した。
・本件分割法人の解散に伴って提出された確定申告書(以下「本件解散確定申告書」という。)添付の貸借対照表の負債の部には、本件金融機関からの長期借入金244,000,000円(以下「本件債務」という。)の記載があった。
・請求人は、平成22年10月28日、本件金融機関から244,000,000円を借り入れ、同日付で、本件分割法人に同額を貸し付け(以下、当該貸付けに係る債権を「本件債権」という。)、本件分割法人は、本件債権に係る借入金により、本件債務を返済した(以下、請求人が、本件金融機関から上記借入れを行い、当該借入金を本件分割法人に貸し付けて、本件分割法人において、本件債務を返済したことにより、事実上、請求人が本件債務を引き受けたことを「本件債務引受け」という。)。
・本件分割法人は、平成23年2月23日、M地方裁判所に対し、特別清算開始申立書(以下「本件申立書」という。)を提出し、同月○日にその開始が決定された。本件申立書には、本件分割法人の資産が70,000,000円、負債が580,378,917円であり、510,378,917円の債務超過となっている旨が記載されており、本件申立書添付の清算貸借対照表及び財産目録には、建物附属設備及び工具器具備品の時価がいずれも零円である旨記載されていた。
・なお、本件申立書には、請求人における本件債務免除益の発生に係る税務対策として、請求人の本件分割法人に対する債権を貸倒損失として処理することとした旨記載されていた。
・請求人は、平成23年4月7日、本件分割法人との間で和解契約を締結し、本件債権を含む請求人から本件分割法人への貸付金 580,378,917円から、当該和解契約によって本件分割法人から請求人に譲渡された本件分割法人のEに対する差入保証金 70,000,000円を控除した残額510,378,917円の債権を放棄した(以下、当該債権放棄のうち本件債権の放棄を「本件債権放棄」という。)。
・そして、請求人は、平成23年3月1日から平成24年2月29日までの事業年度(以下「平成24年2月期」という。)において、本件分割法人に対する580,378,917円の債権を貸倒損失勘定に計上し(以下、当該計上額のうち本件債権の金額244,000,000円を「本件貸倒損失額」という。)、平成24年2月期の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入した。
・期間の名称まとめ
◎平成23年3月1日から平成24年2月29日までの事業年度(以下「平成24年2月期」という。)
◎平成24年3月1日から平成25年2月28日まで及び平成25年3月1日から平成26年2月28日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成25年2月期」、「平成26年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)
◎平成25年2月期及び平成26年2月期において青色申告書で法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件各確定申告」という。)
◎平成25年3月1日から平成26年2月28日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)
◎平成24年2月期の法人税について、本件貸倒損失額が本件分割法人に対する寄附金の額に該当するとして修正申告を行い、併せて本件各事業年度(H25/2月期・H26/2月期)の法人税及び本件課税事業年度(H26/2月期)の復興特別法人税について、各修正申告をした(以下、当該修正申告を「本件各修正申告」という。)。
・法人税の調査の対象となった期間
◎平成24年2月期←法定申告期限平成24年4月30日←処分日平成29年4月26日から5年以内
◎平成25年2月期←法定申告期限平成25年4月30日←処分日平成29年4月26日から4年以内
◎平成26年2月期←法定申告期限平成26年4月30日←処分日平成29年4月26日から3年以内
・処分の対象となった期間
◎平成25年2月期←法定申告期限平成25年4月30日←処分日平成29年4月26日から4年以内
◎平成26年2月期←法定申告期限平成26年4月30日←処分日平成29年4月26日から3年以内
・請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、同職員の勧奨に応じて、平成29年4月13日、平成24年2月期の法人税について、本件貸倒損失額が本件分割法人に対する寄附金の額に該当するとして修正申告を行い、併せて本件各事業年度の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税について、(以下、当該修正申告を「本件各修正申告」という。)。
・貸倒損失ではなく寄付金であるという修正申告の勧奨による修正申告書の提出→平成29年4月13日
・本件各修正申告について、寄付金の額に該当すると認識しながら貸倒損失として処理したことに対する重加算税処分の処分日←平成29年4月26日
・調査日←不明
(2)争点
本件各確定申告(平成25年2月期及び平成26年2月期分)は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか。
(3)引用された最高裁判決判例、地裁判決
無しと解されます。
(4)争点の審判所の判断
・まず、法人Aが法人Bに対して貸し付けた貸付金を免除した場合、当該免除は貸倒損失ではなく寄付金に該当する。
・しかし、法人Aが法人Bの兄弟会社である場合において、法人Bを助けるための相当な理由が存在するケースなどの場合は、寄付金に該当しないとする通達が存在する。
・本件各確定申告における所得金額が過少となった原因は、本件貸倒損失額が、本来寄附金の額に該当するにもかかわらず、請求人が、これを寄附金の額に該当しないとして平成24年2月期の当初申告をした点にあると認められる。
・そうすると、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたと認められない限り、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものであるとは認められない。
・この点について、原処分庁は、要するに、請求人が、本件債務免除益に係る課税を避けるために本件分割法人整理を検討したことをもって、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していた旨主張する。
・請求人が、本件債務免除益に係る課税を避けるために本件分割法人整理を検討したことをもって、直ちに、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたとはいい難い。
・本件分割法人は、遅くとも本件会社分割の行われた事業年度の3期前の事業年度以後、実質的には債務超過の状態にあったと認められる。そうすると、本件分割法人の経営成績は、悪いものであったというべきである。
・本件分割法人の経営が悪化して本件債務の支払が滞った場合には、上記建物及び敷地が競売にかけられるなどして上記パチンコ店の経営ができなくなることにより、請求人自身の経営が悪影響を受ける可能性も否定できない。
・税理士から、本件貸倒損失額が寄附金の額に当たる旨の指摘を受けていなかった可能性がある(これを否定するに足りる証拠はない。)。
・これらの事情を総合すると、請求人は、本件債務引受け及び本件債権放棄を行うことには、本件通達規定の定める相当な理由があるなどとして、本件債権放棄の額について、寄附金の額に該当しないと認識していた可能性があるというべきである。
・したがって、本件各確定申告(平成25年2月期及び平成26年2月期分)は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものであるとは認められない。
(5)結果
本件各修正申告(平成24年2月期、平成25年2月期、平成26年2月期分)につき、過少申告加算税の賦課決定は免れず、原処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額についてそれぞれ違法であり、重加算税を取消す。
当該裁決のさらなる要約
・まず、法人Aが法人Bに対して貸し付けた貸付金を免除した場合、当該免除は貸倒損失ではなく寄付金に該当する。
・しかし、法人Aが法人Bの兄弟会社である場合において、法人Bを助けるための相当な理由が存在するケースなどの場合は、寄付金に該当しないとする通達が存在する。
・請求人と本件分割法人は通達で言うところの兄弟会社に該当していたため、寄付金ではなく、貸倒損失として計上した。
・しかし、今回は相当な理由は存在しないとして貸倒損失を認めず、寄付金に該当するとされた。
・原処分庁は、請求人は、寄付金の額に該当すると認識しながら貸倒損失として処理したことは隠ぺい仮装に該当するという理由で、重加算税賦課処分を行った。
・しかし、事情を総合すると、請求人は、本件債務引受け及び本件債権放棄を行うことには、本件通達規定の定める相当な理由があるなどとして、本件債権放棄の額について、寄附金の額に該当しないと認識していた可能性があるというべきである、として隠ぺい仮装は認められないとしました。
弊所独自の考察
・弊所独自の視点
◎当該裁決は、当初申告は、申告済みでした。
◎当該裁決は、国税が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりである、と弊所が感じた事例です。なぜなら、納税者というのは当然ながら自身に有利な方法、解釈を選択して申告書を作成するところ、今回は通達により相当な理由が存在すれば寄付金ではなく貸倒損失に該当するという通達があり、それに該当すると判断して行った申告でした。しかし当該判断ついて、始めから寄付金に該当すると認識していたのに貸倒損失としたことは隠ぺい仮装であると主張した原処分庁はいいがかりである、と感じたからです。
◎当該裁決は、取引を把握できるような資料が存在していたと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への協力具合は、協力的であったと解されます。
◎当該裁決において、請求人の調査への虚偽発言は無かったと解されます。
・当該裁決から導いた弊所独自の重加算税賦課回避基準(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)
納税者の通達の解釈による損金算入について原処分庁が隠ぺい仮装を主張するような場合には隠ぺい仮装を否定することで重加算税を回避できる可能性があります(あくまで私見であり一切の保証はできかねます)