(2020年4月15日作成)(2023年11月21日再編集)

結論

・国税不服審判所が公表している裁決で、隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、処分庁が隠ぺい仮装を主張したのはいいがかりとはいえない事例でむしろ隠ぺい仮装が妥当するように解されたが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在しました。
・つまり、税務調査において、悪いこと、不正行為、と一般的には印象を受けるような行為を納税者が行っていたことが発覚した場合であっても、国税不服審判所の裁決で争えば、重加算税賦課が取り消される可能性があることが判明しました。
・しかし、隠ぺい仮装が無かったとして重加算税賦課が取り消されたことに対して、専門家から批判が出るような裁決であり、これらの裁決は例外的で、特殊なケースであると解されます。

根拠

まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。

不服申立制度や国税不服審判所や裁決要旨検索システムについて

国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。当該事例を弊所独自に抽出して一覧にしたものがこちらのページとなります。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例にオリジナルのタイトルを付して一覧にしました

当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。

国税不服審判所公表裁決のうち弊所独自に分析した事例のうち国税が隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとはいえないと感じた件数及びいいがかりだと感じた件数20231121

・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例→33件
◎内訳、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例→15件
◎内訳、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例→18件

となりました。以上とまとめますと、税務調査において隠ぺい仮装を指摘され重加算税賦課処分を受けた納税者が、国税不服審判所で争った結果、隠ぺい仮装が認められなかった裁決のうち、弊所が抽出した33件のうち15件は、一見すると重加算税が賦課されると予想されるような事例であるが裁決の結果重加算税が賦課されなかったという事例であることが判明しました。さらにそのうち3件は、むしろ隠ぺい仮装が妥当する、と弊所が感じた事例となりました。

以下において、導出の過程を記述いたします。

導出の過程

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

いいがかりとは言えない、いいがかりだ、と弊所が感じたの定義について

・処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例の定義
納税者が、資料を破棄している事例、資料を保存しているが無申告、集計をしているが無申告、売上除外をしている等、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、と弊所が感じた事例

・処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例の定義
納税者が、納税者にとって有利な特例を適用しただけにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した、納税者の単なるミスにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した、納税者が期ずれ処理を行っただけにも関わらず処分庁(税務署長・国税局長)が隠ぺい仮装を主張した等、処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりだ、と弊所が感じた事例

さらにむしろ隠ぺい仮装が妥当すると弊所が感じた、の定義

・裁決の判断が、請求人が何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を本件収支内訳書に記載していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない、とされたこと。
・専門家によって裁決が批判されていること。
・過少申告であり、その他の収入は確定申告しているがある事業に関しては一切帳簿を作成していなかったこと。
・意図的に売上の5割以上除外したと認められるが、隠ぺい仮装は無かったとされたこと。

上記のような判断が下されている場合、むしろ隠ぺい仮装が妥当すると弊所が感じた、と定義しました。

処分庁(税務署長・国税局長)が納税者の隠ぺい仮装を主張したことはいいがかりとは言えない、むしろ隠ぺい仮装が妥当すると弊所が感じた事例一覧

平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

平成27年7月1日裁決(平成27年何ら根拠のない収入経費の記載は偽りその他不正の行為に該当するが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)について

当該裁決の要約

・請求人は、過少な売上及び過大な経費を計上して所得税を申告していた。消費税は無申告であった。
・請求人は、適正な売上を把握できるであろう通帳を保存していた、適正な経費を把握できるであろう資料を保存していた。
・請求人の当初申告と修正申告の差額は、売上、経費ともに大きな差が生じていた。
・原処分庁はこれらの行為は隠ぺい仮装にあたると主張したが、これらの行為は過少申告そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動には当たらないとして、隠ぺい仮装は認められなかった。

コメント

・隠ぺい仮装行為の代表例、モデルケース、のような事例ですが、隠ぺい仮装は無かったとされ重加算税賦課が取り消されました。
・澤井勝美税務大学校研究部教授、作田隆史税務大学校研究部教授が当該裁決を批判しています。

平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)

当該裁決の要約

・請求人は、給与所得及び株式譲渡所得においては申告していたが、本件事業に関する収入について一切申告していませんでした。
・請求人は、所得税及び消費税の申告納税制度に知見があるとされました。
・請求人が帳簿を作成しなかったのは、その他の資料により、収入、経費、利益を把握できたためである可能性を残す、とされました。
・請求人が帳簿を作成しなかったことをもって、隠ぺい仮装があったとは認められない、としました。
・しかし、請求人のこれらの行為は、隠ぺい仮装行為には該当しないが、偽りその他不正の行為に該当するとしました。
・原処分庁が行った重加算税賦課決定処分の理由提示に不備はないとされましたが、結果としてその提示した理由による隠ぺい仮装はなかった、ということになります。

コメント

・当該裁決の納税者の行為は、隠ぺい仮装には該当しないが偽りその他不正の行為には該当するとした点が興味深い論点です。
・また、重加算税賦課決定処分の理由提示に不備はないが、隠ぺい仮装は無かったとされたことが興味深いです。
・さらに、平成25年1月1日以後、重加算税賦課の理由付記が制度化された後初めて、処分理由の要旨が省略されず公表されている点が興味深いです。

こちらのページもご参考ください。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、重加算税賦課決定処分における隠ぺい仮装の理由付記に不備は無いが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在した

令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)

当該裁決の要約

・請求人は以下のように申述した
◎事業経営が困難で税金負担を少なくしたかった
◎請求人分と従業員分の請求書を分けて作成しており、売上が1,000万円を超えないような適当な金額で収支内訳書に記載した。
・請求人の妻は以下のように申述した
◎消費税を支払わないように売上が1,000万円を超えないような金額で申告する考えはなかった
◎請求人分の収支については大雑把に計算していた。
◎従業員分については資金繰りが厳しく税金を支払えないと思って計上しなかった
◎パソコンを持っていないので複雑な計算もできないし、前年と同じくらいになればよいという程度で金額を決めていた
・質問応答記録書には収支内訳書に適当な金額を書いた旨が記載されていた
・国税不服審判所は以下のように認定した。
◎本件各収支内訳書に記載された売上金額は実際の5割に満たないものであった
◎請求人は資料の全てを保存していた
◎請求人は調査の当初から売上を過少に計上した事実を認めて、調査に協力的であった。
◎請求人は、当初から所得を過少に申告するという意図を有していたものと認められる。
◎その一方で書類の改ざんはみられない。
◎売上を作為的に除いていたという行為についても、請求人が本件各支払明細書や本件各預金通帳の全てを保存し、本件調査の際には、当初から売上金額の過少計上の事実を認めつつ、これらの書類を本件調査担当職員に提示していたという事情に鑑みると、当該行為をもって真実の所得解明に困難が伴う状況を作出するための隠蔽又は仮装の行為と評価することは困難である。
◎請求人が本件従業員分の売上げや費用の存在を認識しつつこれらを本件各収支内訳書に計上せず、申告対象から除外したというだけでは、重加算税の賦課要件が満たされるものではないというべきである。
・隠ぺい仮装がなければ偽りその他不正の行為にも該当しないとし、その差異の言及はありませんでした。

コメント

・隠ぺい仮装行為の代表例、モデルケース、のような事例ですが、隠ぺい仮装は無かったとされ重加算税賦課が取り消されました。
・当該裁決の納税者の行為は、隠ぺい仮装に該当しないので偽りその他不正の行為にも該当しないとしました。

まとめ

・税務調査において、一般的にみて納税者に非があるようなケースでも裁決まで争えば隠ぺい仮装が認定されず、重加算税が取り消される可能性があると解されます。
・しかし、その可能性は低く、あくまで例外的であると解されます。