(2023年11月24日作成)
結論
・納税者にとって不利な発言、申述が記録として残ったり、質問応答記録書として正式に残っている場合は、納税者は不利になるので発言等には気を付けましょうという意見が一般的に散見されます。
・しかし、裁決においては当該申述や質問応答記録書がそのまま鵜呑みにされているわけでは無く、内容が検証、検討され、隠ぺい仮装は無かったとされて事例が存在します。
・ただ、国税不服審判所の公表裁決事例の件数ですら、申述内容や質問応答記録書の内容が争点、争いとなっているわけですから、実務における税務調査においてはもっと多数の争いが起こっていると解されます。
・そもそも質問応答記録書の署名には法的根拠が無いとする批判的な意見も存在します。
・いずれしても、税務調査における申述、発言や質問応答記録書への署名は注意すべきと解されます。
根拠
まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。
国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。
当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。
国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例のうち弊所独自に抽出した件数の根拠20231121
以下において、導出の過程を記述いたします。
導出の過程
国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール
・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件
・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。
弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、納税者の申述内容や質問応答記録書の内容が争点の核となった弊所が感じた裁決の件数
弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、納税者の申述内容や質問応答記録書の内容が争点の核となった弊所が感じた裁決の件数→11件
となりました。
弊所が抽出して分析した国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装の事実等を認めなかった事例のうち、納税者の申述内容や質問応答記録書の内容が争点の核となった弊所が感じた裁決一覧
・平成30年1月11日裁決(平成30年申告の必要性が明記されている資料を受け取ったにも関わらず無申告であっても質問応答記録書の内容だけでは隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成30年9月3日裁決(平成30年第三者が行った不正な不動産所得等確定申告については納税者の行為と同一視できないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成30年9月21日裁決(平成30年個人的な飲食代金であると認識しながら法人の損金としたとは認められないとして隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成30年9月27日裁決(平成30年居住用財産譲渡特別控除の適用及び適用理由答弁について隠ぺい仮装は認めなかった裁決)
・平成31年2月7日裁決(平成31年売上金が銀行振込から小切手払いに変更されたことに伴う売上漏れについて答述も考慮し隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・平成31年4月9日裁決(平成31年住民税申告書提出の事実やパソコンに資料や集計表が存在して無申告であっても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・令和元年6月24日裁決(令和元年売上の5割以上を除外しても当初から過少申告を認め調査に協力的であれば隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・令和元年7月2日裁決(令和元年経費計上の期ずれの原因である検収書の施工完了日の記載について隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・令和2年2月13日裁決(令和2年過去申告経験済みで税理士が見つからず無申告であって一度資料を捨てた旨の発言をしたとしても隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
・令和3年6月22日裁決(令和3年隠ぺい仮装行為の始期については質問応答記録書の内容を認めなかった裁決)
・令和4年7月1日裁決(令和4年無申告で資料を破棄した旨の申述をしても通帳等その他資料は存在しており隠ぺい仮装を認めなかった裁決)
申述内容や質問応答記録書の内容が争点の核となったと感じた裁決における国税不服審判所の判断の例
・国税不服審判所は、質問応答記録書を検討したうえで、質問応答記録書に記載された請求人の申述が信用できると判断する根拠がない、とした。
・国税不服審判所は、申述及び答述を検討したうえで、各申述及び答述は、一貫性に欠ける上、これら申述等が変遷したことにつき合理的な説明をするわけでもなく、その信用性を認めることはできない、とした。
このように国税不服審判所は、申述、答述、質問応答記録書に記録された内容をそのまま鵜呑みにするわけではない、と解されます。
質問応答記録書は署名することに法的根拠がないということで批判的な意見が存在します
こちらのページをご覧ください。
税務調査において質問応答記録書に署名しなければならない法律は存在せず、署名を拒否しても良いと解されます。しかしながら、署名を拒否すれば重加算税を回避できるというわけではない、ということになります。
まとめ
・税務調査における申述については慎重に行うべきというのはまさにその通りと思われます。
・税務調査官の作成する質問応答記録書の内容についてはしっかり確認し、納得すれば署名すれば良いと解されます。
・しかし、質問応答記録書に署名しなければならないという法律は存在しません。
・仮に納税者が、調査において納税者がした申述を取消したい旨を伝えれば尊重されると解されます。なお、裁決においてはその取消したい旨の申述などは検討されてうえで判断されています。