(2020年5月15日作成)(2023年11月21日再編集)

結論

・国税不服審判所が公表している裁決で、隠ぺい仮装を認めなかった事例の中には、重加算税賦課決定処分における隠ぺい仮装の理由付記に不備は無いが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在しました。
・公表されている「処分の理由」の要旨、の内容を見ると「裁決における原処分庁の主張のようなもの」と見受けられました。
・つまり「付記された理由が正しいかどうかはわからない、処分庁が一方的に付記した理由だから」となります。言い換えると付記された理由が正しいかどうかは誰もチェックしていないし、ジャッジもしていない、ということになります。
・以上から、平成25年1月1日以後の税務調査においては不利益処分である重加算税賦課の理由付記が明文化されましたが、隠ぺい仮装の基準が曖昧であるため、曖昧な基準の下で付された理由が正しいかどうかは不明となります。
・しかし、重加算税賦課の理由付記として書面化が義務づけられたことに大きな意味はありそうです。
・以上より、重加算税賦課処分の理由付記制度により隠ぺい仮装が記述されていたとしても裁決で争えば重加算税が取り消され、重加算税賦課を回避できる可能性は残されてると解されます。

根拠

まず、国税不服審判所における公表裁決とは何かという点についてはこちらをご参考ください。

不服申立制度や国税不服審判所や裁決要旨検索システムについて

国税不服審判所における公表裁決において「隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例」としてまとめられたものが、定期的に更新されてします。

当該事例を分析し導き出した結果がこちらです。

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例のうち弊所独自に抽出した件数の根拠20231121

以下において、導出の過程を記述いたします。

導出の過程

国税不服審判所公表裁決隠ぺい仮装を認めなかった事例について弊所独自の抽出ルール

・2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、74件
・平成19年以前の事例及び相続税贈与税の事例を除外、37件
・事例の特殊性等の理由で弊所が独自に除外、4件
・弊所が分析した、2023年11月時点、国税不服審判所公表裁決、隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例、33件

・平成19年以前の公表裁決事例を除外した理由
◎最高裁昭和62年5月8日判決、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決、最高裁平成17年1月17日判決、最高裁平成18年4月20日判決が、隠ぺい、仮装の有無の判断について現在国が採用している判例であり、当該判例によって分析することが妥当すると税理士谷原誠は解説しています。当該考えを弊所は賛同しています。したがって、平成19年以前の公表裁決は現在採用している判断基準とは異なる恐れがあると判断し、除外しました。
◎隠ぺい、仮装の判断は、納税者の資料保存能力、集計能力が関係すると解され、パソコン、スマホ、ネット技術による影響も無視できないところ、それらが存在しない昭和、平成初期の裁決は時代錯誤であるため分析から除外することが妥当すると判断し、現在の状況と近似する平成20年以降の裁決の抽出を試みたためです。
・相続税贈与税事例を除外した理由は、所得税、法人税、消費税と重加算税適否の関係性に絞って分析するためです。
・弊所が裁決を読んだが、内容が特殊、内容があまり理解できなかった事例については分析不可能として除外しました。

重加算税賦課決定処分における隠ぺい仮装の理由付記に不備は無いが隠ぺい仮装が認められなかった事例が存在することを発見しました

平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)

上記がその裁決となります。

平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)で公表された「処分の理由」の要旨(重加算税賦課の理由付記)

当該裁決においては下記が公開されています。

・別表2-1 本件各通知書に記載された「処分の理由」の要旨(本件各年分の所得税等に係るもの)
・別表2-2 本件各通知書に記載された「処分の理由」の要旨(本件各課税期間の消費税等に係るもの)

別表2-1 本件各通知書に記載された「処分の理由」の要旨(本件各年分の所得税等に係るもの)

1 請求人の確定申告について調査した結果、下記2のとおり、隠ぺい又は仮装の事実が認められたので、請求人が平成27年2月27日 に提出した修正申告書により納付すべきこととなる所得税等の額に、通則法第68条の規定により計算した重加算税を賦課決定した。
2 請求人は、以下の事実から、○○業務に係る事業所得があることを認識していたにもかかわらず、意図的に当該所得を申告に含めず、確定申告書を提出していたことが認められる。
(1) 請求人は、○○業務を営む「F」の代表者として、医療施設に対して継続的に営業活動を行っていたこと。
(2) 請求人は、上記(1)の業務について、業務委託契約書を締結している取引先に対し、請求書を作成し、F口座及び請求人口座にて入金管理を行い、給料賃金等の必要経費について、スタッフである○○に対し報酬明細書を作成し、預金口座から支払を行っていたこと。
(3) 請求人は、上記(1)の業務について、「収入は年間○○○○円から○○○○円位で、自分の取り分も月額○○○○円ほどあり、納税の申告をしなければいけないという認識があった。」旨申し述べていること。
(4) 請求人は、上記(1)の業務に係る利益について、「借入金の返済、生活費、投資信託への投資に充てた。」旨申し述べていること。
(注) 平成19年分、平成20年分、平成21年分及び平成22年分の各通知書には、上記2の事実は通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた場合に該当し、上記の各年分における賦課決定処分には同項の規定が適用される旨も記載されている。

別表2-2 本件各通知書に記載された「処分の理由」の要旨(本件各課税期間の消費税等に係るもの)

1 請求人が平成27年2月27日に提出した期限後申告書により納付すべきこととなる消費税等の額に、下記2のとおり、隠ぺい又は仮装の事実が認められたので、通則法第68条の規定により計算した重加算税を賦課決定した。
2 請求人は、以下の事実から、請求人が行った○○業務に係る対価を得ていることを認識していたにもかかわらず、当課税期間分の消費税等の確定申告をしないで済ませていたものと認められる。
(1) 請求人は、○○業務を営む「F」の代表者として、医療施設に対して継続的に営業活動を行っていたこと。
(2) 請求人は、上記(1)の業務について、業務委託契約書を締結している取引先に対し、請求書を作成し、F口座及び請求人口座にて入金管理を行い、給料賃金等の必要経費について、スタッフである○○に対し報酬明細書を作成し、預金口座から支払を行っていたこと。
(3) 請求人は、上記(1)の業務について、「収入は年間○○○○円から○○○○円位で、自分の取り分も月額○○○○円ほどあり、納税の申告をしなければいけないという認識があった。また、事業者であり、請求金額については、その消費税分も事業口座に振り込まれており、申告、納税していないことに問題があることを認識していた。」旨申し述べていること。
(4) 請求人は、上記(1)の業務に係る利益について、「借入金の返済、生活費、投資信託への投資に充てた。」旨申し述べていること。
(注) 平成19年課税期間及び平成20年課税期間の各通知書には、上記2の事実は通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた場合に該当し、上記の各課税期間における賦課決定処分には同項の規定が適用される旨も記載されている。

重加算税賦課の理由付記についての分析

上記の処分理由の要旨(重加算税賦課の理由付記)を見ての弊所独自の視点、感じたことは下記です。

・理由付記内容は、一見すると一応は、納税者の不正行為と思われるような行動が記載されている。
・しかし、あくまで納税者の不正行為と思われるような行動であり、隠ぺい仮装に該当する行為かどうかその真意は理由付記通知の段階では不明です。
・つまり、裁決における原処分庁の主張、とよく似ていると感じました。

ここでもう一度、「平成28年7月4日裁決(平成28年帳簿書類を作成しないことは偽りその他不正の行為に該当し重加算税処分の理由付記に不備は無かったが隠ぺい仮装は認めなかった裁決)」をおさらいすると、

処分庁が隠ぺい仮装の理由付記をして重加算税賦課処分を行った→納税者である請求人は重加算税賦課処分の取り消し請求を行った→争点1において当該理由付記に不備があるかどうかが争われた→理由付記に不備はないとされた→争点2において理由付記の内容に記載されている行動が隠ぺい仮装に当たるかどうかが争われた→隠ぺい仮装にはあたらないと判断された

という流れとなります。まさに重加算税の理由付記において「隠ぺい仮装っぽい」ことが記載されていたとしても、本当に隠ぺい仮装に該当するかどうかはわからない、に当てはまった事例となります。

なお、当該判決においては「偽りその他不正の行為には該当する」とされた点がさらに興味深い論点となります。

まとめ

重加算税賦課処分において(言わばもっともらしい)納税者が隠ぺい仮装を行ったとする理由付記がされていたとしても、裁決で争えば、実は隠ぺい仮装は存在しなかったとして重加算税賦課を回避できる可能性があると解されます。